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2000年(平成12年)

平成11年函審第59号
    件名
漁船第十八北勝丸貨物船パブロフスキー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年4月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、酒井直樹、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第十八北勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
北勝丸・・・球状船首及び船首楼ブルワーク前部を圧壊、前部鳥居型マスト及び船首楼集魚灯ブーム2本を曲損
パ号・・・左舷側中央部に大破口を生じて機関室に浸水、主機その他に濡損

    原因
北勝丸 狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守
パ号 狭視界時の航法(信号、速力、レーダー)不遵守

    主文
本件衝突は、第十八北勝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、パブロフスキーが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月14日02時18分
北海道根室半島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八北勝丸 貨物船パブロフスキー
総トン数 9.7トン 172トン
全長 19.00メートル
登録長 33.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
出力 224キロワット
3 事実の経過
第十八北勝丸(以下「北勝丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する軽合金製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業基地移動の目的をもって、船首0.7メートル船尾2.2メートルの喫水で、平成10年10月13日14時00分北海道網走港を発し、花咲港に向かった。
A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して出港操船に当たったのち、そのまま単独で船橋当直に就き、機関を約11ノットの全速力前進にかけ、自動操舵により網走湾を東行中、16時ごろ宇登呂港北防波堤灯台の北西方12海里ばかりのところで、B指定海難関係人が昇橋し、魚群探索を兼て船橋当直に就きたい旨申し出たので同人に船橋当直の引き継ぎを始めたが、霧中に魚群探索を行うときは同人と2人で船橋当直に当たっていたことから、霧により視界が制限される状況となれば報告してくれるものと思い、視界が制限される状況になった際、自ら操船指揮を執ることができるよう、その旨を速やかに報告するよう指示することなく、当直を任せ自室に退いて休息した。

B指定海難関係人は、単独船橋当直に就いて魚群探知器を監視しながら知床岬北端沖合から根室海峡、野付水道及び珸瑶瑁(ごようまい)水道を通過したのち、猫頭礁(ねこがしら)東方に向け南下中、翌14日01時40分ごろ納沙布岬灯台の南東方1海里ばかりのところで霧のため視界が約400メートルに制限される状況となったので、レーダー見張りに当たったが、前方に他船の映像が認められないことから、このことをA受審人に報告せず、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じる措置がとられないまま南下を続け、同時51分ハボマイモシリ島灯台から086度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点に達したとき、針路を212度に定め、機関を半速力前進に減じ、8.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
B指定海難関係人は、01時58分ハボマイモシリ島灯台から106度2.5海里の地点に達したとき、6海里レンジにしていたレーダーで右舷船首20度4.4海里にパブロフスキー(以下、「パ号」という。)の映像を、その右方に同船の映像より小さい数隻の小型漁船の映像を初めて認め、それらの動静監視に当たって続航した。

B指定海難関係人は、02時10分ハボマイモシリ島灯台から141度2.5海里の地点に達したとき、パ号の映像の方位が変わらず、1.4海里に接近したことを知ったが、小型漁船の映像が右方に十分に替わったので、同船も右方に替わっていくものと思い、その接近模様を船長に報告せず、歯舞漁港沖合を航行するときは、いつも同港から出航して南下する漁船群が認められていたことから、レーダーのレンジを3海里に切り替え、同港付近の漁船群を探知することに気を取られていたので、パ号の動静監視が不十分となり、このころ同船が小角度右転して減速し、その後同船の方位がわずかに右方に変わりながら、著しく接近することを避けることができない状況となったが、このことに気付かず、船長に報告しなかったので、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止める措置がとられないまま進行し、同時13分ハボマイモシリ島灯台から150度2.7海里の地点に達し、同船が右舷船首21度0.8海里となったとき、同船が更に小角度右転し、その後同船の映像の方位が変わらず衝突のおそれある態勢で接近したが、依然、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、このことにも気付かずに続航中、同時18分わずか前、右舷前方40メートルに迫った同船の船体の黒影を視認し、右舵一杯としたが間に合わず、02時18分ハボマイモシリ島灯台から160度3.1海里の地点において、北勝丸の船首が、原針路、原速力のまま、パ号の左舷側中央部に前方から70度の角度で衝突した。
A受審人は、自室で休息中、衝撃で目を覚まし、急ぎ昇橋して本件発生を知り、事後の処置に当たった。
当時、天候は霧で風力2の南風が吹き、視程は約100メートルで、潮候は下げ潮の末期であった。

また、パ号は、主として国後島古釜府(ふるかまっぷ)港から北海道花咲港に冷凍貨物を運搬している鋼製貨物船で、船長Cほか8人が乗り組み、花咲港で冷凍えび約3トンを揚荷したのち、同年10月14日00時30分同港を発し、帰途に就いた。
発航時C船長は、航行中の動力船の灯火を表示し、甲板員1人を手動操舵に当たらせて船橋当直に就き、花咲港南東方沖合から珸瑶瑁水道に向け機関を8ノットばかりの全速力前進にかけて東行中、同日01時10分ごろ花咲灯台の南東方1海里ばかりところで霧のため視界が約400メートルに制限される状況となったので、レーダー見張りに当たったが、前路に他船の映像が認められなかったことから、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもせずに東行を続け、同時38分半ハボマイモシリ島灯台から220度5.6海里の地点に達したとき、針路を072度に定め、8.0ノットの対地速力で進行した。

C船長は、02時04分ハボマイモシリ島灯台から186度3.2海里の地点に達したとき、6海里レンジとしたレーダーで左舷船首20度2.9海里に北勝丸の映像を、その左方に数隻の漁船の映像を初めて認め、それらの動静監視に当たって続航した。
C船長は、02時10分ハボマイモシリ島灯台から170.5度3.0海里の地点に達したとき、北勝丸の映像の方位が変わらず、1.4海里に接近したことを知ったが、他の漁船の映像が左方に十分替わったことから、自船が少し右転すれば北勝丸も左方に替わるものと思い、10度右転して針路を082度とし、機関を微速力前進に減じ、4.0ノットの対地速力としたところ、北勝丸の映像を左舷船首30度に見るようになり、その後同船の方位がわずかに右方に変わりながら、著しく接近することを避けることができない状況となったが、同船の映像をプロッティングするなどして動静監視を十分に行わなかったので、依然、同船と左舷を対して無難に航過するものと思い込み、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせずに続航した。
C船長は、02時13分ハボマイモシリ島灯台から166度3.0海里の地点に達し、北勝丸が左舷船首29度0.8海里に接近したとき、同船の映像の方位が左方に替わっていかないので、更に20度右転して針路を102度としたところ、同船の映像を左舷船首48度に見るようになり、その後同船映像の方位が変わらず衝突のおそれある態勢で接近したが、自船が再度右転したから同船と左舷を対して航過するものと思い、依然、レーダーを最小レンジに切り替えるなどして動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かずに進行中、同時18分わずか前、左舷前方40メートルに迫った同船の白い船体を視認し、右舵一杯を令したが間に合わず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、北勝丸は、球状船首及び船首楼ブルワーク前部を圧壊し、前部鳥居型マスト及び船首楼集魚灯ブーム2本を曲損したが、損傷部は、のち修理され、パ号は、左舷側中央部に大破口を生じて機関室に浸水し、主機その他に濡損を生じて航行不能となり、折から花咲港に停泊中のロシア連邦国籍の貨物船にえい航されて同港に入航した。


(原因)
本件衝突は、両船が、夜間、霧による視界制限状態の北海道根室半島南方沖合を航行中、西行する北勝丸が、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもなく、レーダーにより前路に探知したパ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、レーダーによる動静監視が不十分で、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するパ号が、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもなく、レーダーにより前路に探知した北勝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、レーダーによる動静監視が不十分で、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

北勝丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、視界が制限される状況になった際、速やかに報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、視界が制限される状況になった際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、北海道網走港から花咲港に向け航行中、網走港沖合から漁労長に魚群探索を兼て船橋当直を任せる場合、視界制限時に自ら操船指揮を執ることができるよう、漁労長に対し、視界が制限される状況になった際、速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、霧中に魚群探索を行うときは漁労長と2人で船橋当直に当たっていたことから、霧により視界が制限される状況となれば報告してくれるものと思い、同人に対し、視界が制限される状況になった際、速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により、夜間、北海道根室半島南方沖合を航行中、視界が制限される状況になった際、船橋当直者から報告が得られず、自ら操船の指揮を執ることができないまま進行してパ号との衝突を招き、北勝丸の球状船首及び船首楼ブルワーク前部を圧壊させ、前部鳥居型マスト及び船首楼集魚灯ブーム2本を曲損させ、パ号の左舷側中央部に大破口を生じさせて機関室に浸水させ、主機その他に濡損を生じさせて航行不能とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船橋当直中、視界が制限される状況になった際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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