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2000年(平成12年)

平成10年第二審第44号
    件名
貨物船新栄丸貨物船アカデミック・セミノフ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月30日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審横浜

伊藤實、米田裕、養田重興、森田秀彦、上中拓治
    理事官
平田照彦

    受審人
A 職名:新栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:アカデミック・セミノフ水先人 水先免状:横須賀水先区
    指定海難関係人

    損害
新栄丸・・・船首部を圧壊
ア号・・・右舷船首部に破口を伴う凹損

    原因
ア号・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
新栄丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人C、補佐人鈴木健

    主文
本件衝突は、アカデミック・セミノフが、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月30日17時29分半
京浜港川崎区南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新栄丸 貨物船アカデミック・セミノフ
総トン数 199トン 10,948トン
全長 57.49メートル 151.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット 5,703キロワット

3 事実の経過

ところで、京浜港川崎区沖合は、各種船舶の錨地になっていて錨泊船が多く、また、これらの錨地やシーバース、京浜港及び千葉港に出入りする船舶の通航路にもなっていることから航行船舶も多く、当時、川崎市と木更津市を結ぶ東京湾横断道路が建設中で、これらに関連する作業船も行き交い、大小の船舶が輻輳(ふくそう)し、操船者にとって見張りや操船に十分注意を要する海域であった。

ところが、A受審人は、B指定海難関係人が、4日前に乗り合わせたばかりでその技倆(ぎりょう)を把握していなかったものの、甲種甲板部航海当直部員の認定を受け、他船では単独で船橋当直に就いた経験があることを同人から聞いていたことから、一人で船橋当直を行わせても大丈夫と思い、引き続いて自ら操船の指揮をとることなく、また、他船の動静監視やその接近時の報告についての指示を十分に行わないまま、17時05分川崎人工島灯から052度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、夕食をとるため同人に操船を任せて降橋した。
B指定海難関係人は、単独で船橋当直に就き、自動操舵としたまま見張りに当たり、川崎人工島の東水路を航行し、17時10分半川崎人工島灯を右正横に並航して間もなく、右舷船首方に、前路を左方に横切る態勢のカーフェリーを認めたので、操舵を手動に切り換え、右舵をとりながら同船の後方を替わしたのち、同時18分川崎東扇島防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から095度3.2海里の地点に達したとき、針路を233度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.2ノットの対地速力で自動操舵として進行した。

定針したころ、B指定海難関係人は、左舷船首14.5度3.0海里のところに、中ノ瀬航路を出て北上し、前路を右方に横切る態勢のアカデミック・セミノフ(以下「ア号」という。)を初めて視認したが、衝突のおそれがあれば自船の方が保持船の立場であるから相手船の方で避けてくれるものと思い、その後、同船の動静監視を十分に行うことなく、船橋左舷後方の海図台で、船首に背を向けて航海日誌の整理を始めた。
B指定海難関係人は、航海日誌の整理をしながら一度船首方を振り向いて見たものの、左舷船首方のア号に気を留めず、17時20分西灯台から100度2.9海里の地点に至ったとき、同船が左舷船首14度2.4海里に接近し、その後衝突のおそれがある態勢であったが、依然、動静監視が不十分で、これに気付かず、自船の進路を避けないで接近を続けるア号に対して警告信号を行わず、更に間近になっても右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。

B指定海難関係人は、航海日誌の整理を続けているうち、船体に衝撃を感じ、17時29分半西灯台から136度2.1海里の地点において、新栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首がア号の右舷船首に前方から46度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、夕食をすませて自室で休憩中、強い衝撃を感じるとともに、主機関が停止して船内電源がブラックアウトしたので、急いで昇橋してア号に衝突したことを知り、B指定海難関係人と操船を替わって、同人を機関の復旧に当たらせるなど事後の措置に当たった。
また、ア号は、可変ピッチプロペラ一基を備えた船尾船橋型のケミカルタンカーで、船長Dほか25人が乗り組み、モノエチレングリコール及びカノーラオイル約16,331トンを積み、同月15日09時20分(現地時間)カナダのバンクーバー港を発し、京浜港川崎区に向かった。

越えて同月30日D船長は、東京湾に入って浦賀水道航路南方の水先人乗船地点に到着し、15時43分C受審人を乗船させ、船首尾とも9.3メートルの喫水をもって、同受審人に水先をさせて、京浜港川崎区東扇島沖合の大型船用錨地であるKL錨地に向けて進行した。
C受審人は、D船長の在橋の下、三等航海士を見張りとテレグラフ配置に付けて甲板手を操舵に当たらせ、15時55分浦賀水道航路に入り、続いて16時42分中ノ瀬航路に入航し、同時52分機関をスタンバイとしたうえ、10.5ノットの港内全速力前進に切り換え、17時05分半西灯台から166度4.5海里の地点で、同航路を出て009度の針路をとったのち、同時10分木更津港沖灯浮標を右舷側に並航したとき、プロペラピッチ目盛(以下「ピッチ」という。)を前進4の半速力に減じ、東燃扇島東シーバースの南方1.5海里の予定錨地に向かった。

17時13分C受審人は、西灯台から158度3.4海里の地点に達し、7.4ノットの対地速力となっていたとき、針路を007度に定めて北上し、同時15分半速力を早目に減じるため一旦ピッチを0にしたのち、同時17分ピッチを前進2の極微速力前進とした。
C受審人は、17時20分西灯台から150度2.7海里の地点で、4.7ノットの対地速力で進行していたとき、右舷船首32度2.4海里のところに、前路を左方に横切る態勢の新栄丸を初めて視認し、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、自船は錨地に近く、低速力にしているので、相手船の方が先に前路を通過するものと思い、新栄丸の進路を避けないまま同速力で航行した。
17時25分C受審人は、西灯台から145度2.4海里の地点に至ったとき、新栄丸が右舷船首31度1.2海里に接近し、衝突のおそれがある態勢であることを認めたが、自船が右舷錨を海面近くに、左舷錨を水中にそれぞれ吊り下げて投錨準備としたうえ、低速力にしているので、相手船の方で避航してくれるものと思い、直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどして新栄丸の進路を避けることなく進行し、同時26分ピッチを前進3に上げて続航した。

C受審人は、17時27分新栄丸がほとんどその方位変化のないまま1,300メートルに接近するのを認め、同時28分半ようやく衝突の危険を感じてピッチを0、続いて後進として汽笛による短三声を吹鳴したが及ばず、ア号は、原針路のまま約1ノットの前進速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新栄丸は、船首部を圧壊し、ア号は、右舷船首部に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(主張に対する判断)
ア号側は、新栄丸と互いに進路が交差する態勢で接近した際、新栄丸は針路を左右に大きく蛇行し、衝突の3分前に第三船とア号を避けようとして左転したうえ、更に、主機駆動発電機を使用中の主機関の回転数を下げて、船内電源をブラックアウトさせて操舵不能に陥ったと主張するので、以下、これらの点について検討する。
1 新栄丸の針路について
B指定海難関係人に対する質問調書中、「川崎人工島を航過後、右舷方から接近する旅客船の船尾側を替わしたところ、予定針路より離れたので、針路を233度に定めて自動操舵とし、そのころ、ア号を初めて認めた。その後、海図台で航海日誌の整理に当たり、衝突するまで同船を見ていなかった。定針してから衝突まで変針もしていないし、機関もそのままの状態で衝突した。」旨の供述記載があり、同指定海難関係人の原審審判調書中の供述記載及び当廷における同人の供述についてもこのことは一貫している。

一方、レーダー映像追尾再生記録写による1分毎の新栄丸の各映像位置を海図に記載してその航跡を求め、衝突直前の17時29分から、同時18分まで遡(さかのぼ)った各1分毎の位置は、同時29分の位置を通る定めた針路233度の反方位053度の線上にほぼ存在し、同方位線からの最大偏位量も、レーダー映像合成装置追尾再生機能に関する報告書写記載の方位誤差プラスマイナス1度以内の範囲、及び距離誤差プラスマイナス5パーセントの範囲内に収まっている。
これらのことから、新栄丸は17時18分に針路を233度に定めたのち、ア号に衝突するまで、自動操舵で一定の針路を保持していたものと認めるのが相当であり、新栄丸が左右に蛇行し、衝突3分前に 左転したとするア号側の主張は採用できない。
2 衝突前に新栄丸の船内電源がブラックアウトしたことについて

B指定海難関係人に対する質問調書中、「衝突の衝撃で機関が止まり、発電機が主機駆動だったのでブラックアウトした。直ちに機関室に行って補機駆動の発電機を起動した。」旨の供述記載、同人の当廷における同旨の供述、原審審判調書中の「衝突前に左回頭も減速も機関の使用もしていない。」旨の供述記載及びA受審人の当廷における、「衝突前に電気が切れたことはなかった。衝突後電気が消えてブザーが鳴った。」旨の供述がある。
一方、レーダー映像追尾再生記録写中に記載の新栄丸の速力及び針路、並びに同映像位置によって求めた同船の航跡においても、衝突前にブラックアウトの影響を受けたことをうかがわれるような点は認められない。
これらのことから、新栄丸の電源のブラックアウトは、衝突後に発生したものと認めることが相当であり、衝突前に機関を操作して回転数を下げ、ブラックアウトさせたとするア号側の主張は採用することができない。


(航法の適用)
本件は、京浜港川崎区東扇島南方沖合において、西行する新栄丸と北上するア号とが、衝突した事件であり、以下、適用される航法について検討する。
衝突地点付近は、港則法に定める港の港域外で、海上交通安全法の適用される海域であることから、先ず一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法である海上交通安全法が適用される。しかしながら、同法には本件に適用される航法が規定されていないので、一般法の予防法によって律することとなる。
予防法第15条(横切り船)には、2隻の動力船が、互いに進路を横切る場合において衝突のおそれがあるときは、他の動力船を右舷側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならないと規定し、同法第17条(保持船)には、2隻の船舶のうち1隻の船舶が他の船舶の進路を避けなければならない場合には、当該他の船舶は、その進路及び速力を保たなければならず、間近に接近して、進路を避けなければならない船舶の動作のみでは衝突を避けることができないときには、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならないと規定している。

本件の場合、両船が共に動力船であるから、新栄丸を右舷側に見るア号が、避航義務を負い、新栄丸が、針路及び速力を保持し、かつ、最善の協力動作をとる義務を負うこととなる。
ところで、ア号側は、衝突直前のレーダー映像記録入手報告書写中のレーダー映像記録に認められる、新栄丸後方の小円形の映像について、これを第三船として新栄丸との関係に介在していたと主張している。確かに新栄丸の後方に北上中の小型船と思われる映像が認められるが、たとえ同映像が第三船として介在したとしても、同船は、新栄丸に対して、予防法第15条の規定によって避航船の立場にあり、ア号に対するのと同様に新栄丸の保持船の立場に変わりがなく、同船が第三船の存在により、矛盾した義務を負うことにはならないので、同条の適用を排斥する理由にはならない。

一方、新栄丸とア号の両船が衝突のおそれのある態勢で接近を始めたと認められるのは、衝突の9分半前、両船間の距離が2.4海里のときからであり、両船の大きさや操縦性能、当時の海上交通事情からして前示の各義務を履行するのに十分な時間的、距離的な余裕があったものと認められ、ア号が衝突地点付近の錨地に向かって投錨準備の態勢であったとしても、そのことが航法上の義務に変化を与えるものではなく、同船が避航義務を履行する上で何ら支障をきたすものはなかったと認められる。
以上のことから、本件は、予防法第15条及び第17条の義務を排斥する特段の理由が認められず、ア号が避航義務を、また、新栄丸が針路及び速力の保持義務並びに衝突を避けるための最善の協力動作をとる義務を果たすのに何らの制約はなく、前示各条によって律するのが相当である。


(原因)
本件衝突は、京浜港川崎区沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中のア号が、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の新栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、ア号との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 新栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、自ら操船の指揮をとらなかったばかりか、船橋当直者に対して、他船の動静監視及びその接近時の報告についての指示を十分に行わなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
C受審人は、ア号の水先に当たり、京浜港川崎区沖合の錨地に向けて北上中、衝突のおそれがある態勢で前路を左方に横切る新栄丸を認めた場合、行きあしを止めるなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船が投錨準備としたうえ、低速力で進行しているので、新栄丸の方で避航してくれるものと思い、直ちに行きあしを止めるなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行して新栄丸との衝突を招き、ア号の右舷船首に破口を伴う凹損を生じさせ、新栄丸の船首を圧壊させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号の規定を適用して、同人を戒告する。
A受審人は、京浜港川崎区沖合を航行する場合、船舶が輻輳する海域であったから、在橋して自ら操船の指揮に当るべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、昇橋してきたB指定海難関係人が他船で単独による船橋当直に就いた経験があることを聞いていたことから、一人で船橋当直を行わせても大丈夫と思い、食事をとるため、同人に操船を任せて降橋し、自ら操船の指揮に当らなかった職務上の過失により、同指定海難関係人のア号に対する動静監視が行われなかったため、同船が自船の進路を避けずに接近してきたことに気付かないで、その報告が得られず、警告信号を行うことも同船との衝突を避けるための協力動作もとれないまま進行してア号との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号の規定を適用して、同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、京浜港川崎区沖合を西行中、左舷船首方に来航するア号を初認したのち、同船の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
以上のB指定海難関係人の所為に対しては、本件後、見張りの重要性を認識するとともに、船舶交通の輻輳する海域においては、単独で船橋当直を行わないとしている点に徴し、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年12月18日横審言渡
本件衝突は、アカデミック・セミノフが、前路を左方に横切る新栄丸の進路を避ける措置が遅きに失したことによって発生したが、新栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。


参考図






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