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2000年(平成12年)

平成10年第二審第5号
    件名
漁船第二十三寳來丸漁船第三十六寶來丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年3月13日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審仙台

山崎重勝、米田裕、伊藤實、吉澤和彦、上中拓治
    理事官
亀井龍雄

    受審人
A 職名:第二十三寳來丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三十六寶來丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
第二十三寳來丸・・・船首部右舷側外板及びバルバスバウに凹損
第三十六寶來丸・・・左舷側外板に破口、浸水、いか釣り機等を損傷

    原因
第二十三寳來丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三十六寶來丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    二審請求者
理事官黒田均

    主文
本件衝突は、第二十三寳來丸が、見張り不十分で、漂泊中の第三十六寶來丸を避けなかったことによって発生したが、第三十六寶來丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月1日01時20分
岩手県久慈港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十三寳來丸 漁船第三十六寶來丸
総トン数 138トン 138トン
全長 40.02メートル 38.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 603キロワット

3 事実の経過
第二十三寳來丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、操業の目的で、A受審人ほか6人が乗り組み、船首2.30メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成8年6月1日13時00分石川県小木港を発して日本海で操業したのち、同月23日三陸沖合の漁場に移動して操業を続けた。
越えて同月30日A受審人は、青森県八戸港沖合に至り、いか約65トンを獲たところで、僚船から岩手県久慈港沖合の漁模様が良いとの情報を得たことから、漁場移動のため同沖合に向けて南下することとし、22時30分鮫角灯台から056度(真方位、以下同じ。)17.3海里の地点において、針路を170度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、乗組員を休息させて自ら単独で船橋当直に当たっていたところ、翌7月1日00時50分6海里レンジとしていたレーダー画面の船首方向の外周寄りに数隻の船舶の映像を認めたが、まだ遠いと思って余り気にかけず、操業場所を検討しておくこととし、海水温度の調査などを行いながら続航し、01時05分前方を確認しないまま操舵室後部の海図台に船首方を背にして向き、海図を見ながら操業場所の選定を始めた。

01時15分A受審人は、久慈牛島灯台から104度8.2海里の地点に達したとき、正船首1海里のところに集魚灯や作業灯などを掲げて漂泊する第三十六寶來丸を視認することができ、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近していることを認め得る状況であった。しかし、同受審人は、依然、海図台に向かって操業場所の選定に専念し、前方の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、同船を避けないまま続航中、01時20分久慈牛島灯台から110度8.7海里の地点において、第二十三寳來丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が第三十六寶來丸の左舷側中央部に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、視界は良好であった。
また、第三十六寶來丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、操業の目的で、B受審人ほか6人が乗り組み、船首2.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同年6月2日11時00分小木港を発して日本海で操業したのち、同月23日八戸港沖合の漁場に移動して操業を続けた。

同月30日22時ごろB受審人は、鮫角灯台の東北東方18海里ばかりの沖合で操業中、いか約60トンを獲たところで、僚船から岩手県宮古港沖合の漁模様が良いとの情報を得て同港沖合に向けて南下を開始し、翌7月1日01時00分前示衝突地点付近に至ったとき、機関長から主機の燃料管に亀裂が生じたので、修理のために機関を停止した旨の報告を受けた。
B受審人は、行きあしが停止したのち、右舷船首からパラシュート型シーアンカーを投入し、運転不自由船の灯火を表示せず、航行中の動力船の灯火のほか、操舵室の後方に2キロワットの集魚灯6個及び500ワットの作業灯2個を点灯して漂泊を開始し、甲板員1人とともに船橋当直に当たった。
01時15分B受審人は、折からの南南東風により船首が150度を向いていたとき、左舷船尾20度1海里のところに南下中の第二十三寳來丸の白、紅、緑3灯を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況であった。しかし、同受審人は、接近する船があっても自船の灯火模様から漂泊中であると判断して避けてくれるものと思い、船首方ばかりを見て周囲の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かなかった。

01時17分少し過ぎB受審人は、第二十三寳來丸が自船に向首したまま1,000メートルとなり、自船を避けずに接近していたが、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、警告信号を行わずに漂泊中、同時20分少し前左舷後方至近に迫っている同船を初めて認めたが、どうすることもできず、第三十六寶來丸は、150度に向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第二十三寳來丸は、船首部右舷側外板及びバルバスバウに凹損を生じ、第三十六寶來丸は、左舷側外板に破口を生じて浸水し、甲板上のいか釣り機等を損傷したが、ともに自力で八戸港に入港し、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、岩手県久慈港東方沖合において、第二十三寳來丸が、漁場移動のために南下する際、見張り不十分で、前路で漂泊中の第三十六寶來丸を避けなかったことによって発生したが、第三十六寶來丸が、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊した際、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、岩手県久慈港東方沖合において、一人で船橋当直に就いて漁場移動のために南下する場合、前路で漂泊中の第三十六寶來丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、操舵室後部の海図台に向かって操業場所の選定に専念し、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の第三十六寶來丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、第二十三寳來丸の船首部右舷側外板及びバルバスバウに凹損を、また、第三十六寶來丸の左舷側外板に破口及び甲板上のいか釣り機等に損傷を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、岩手県久慈港東方沖合において、主機の燃料管修理のためにパラシュート型シーアンカーを投入して漂泊中、船橋当直に当たる場合、後方から接近する第二十三寳來丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船が集魚灯や作業灯を点灯しているので、その灯火模様から他船の方で漂泊中と判断して避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近した第二十三寳來丸に気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続け、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年2月25日仙審言渡
本件衝突は、第二十三寳來丸が、見張り不十分で、漂泊している第三十六寶來丸を避けるための措置をとらなかったことと、第三十六寶來丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。


参考図






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