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2000年(平成12年)

平成10年第二審第6号
    件名
引船明治丸引船列漁船第一芳新丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年2月10日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審門司

山崎重勝、米田裕、伊藤實、森田秀彦、上中拓治
    理事官
平田照彦

    受審人
A 職名:明治丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第一芳新丸漁労長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
第一芳新丸・・・左舷外板に破口、機関室等に浸水、機器に濡損
浮船渠十島・・・船首先端のタイヤフェンダー2個を脱落、芳新丸を上架した際、渠底に凹損

    原因
第一芳新丸・・・見張り不十分

    二審請求者
補佐人田川俊一

    主文
本件衝突は、第一芳新丸が、見張り不十分で、明治丸と同船が曳航する浮船渠十島との間に向けて転針したことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月27日04時00分
鹿児島湾口
2 船舶の要目
船種船名 引船明治丸 浮船渠十島
総トン数 459トン
載貨重量 10,000トン
全長 46.00メートル 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
船種船名 漁船第一芳新丸
総トン数 101トン
全長 25.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 507キロワット

3 事実の経過
明治丸は、可変ピッチプロペラを備えた鋼製引船で、A受審人ほか7人が乗り組み、船首3.0メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、全長65.00メートル、全幅44.00メートルで、船底からの高さが5メートルのところに幅35.00メートルの渠底を有し、渠底からの各高さが4.95メートル及び20.00メートルのところに中段甲板及び最上の上部甲板がある、幅4.5メートルの船楼を両舷側に備え、船首尾喫水がともに1.5メートルとなった無人の浮船渠十島(以下「十島」という。)を曳(えい)航し、平成7年12月19日14時50分茨城県日立港を発して鹿児島県鹿児島港に向かった。
A受審人は、日立港港外に出たところで、中段甲板の船首側にある両舷の係船柱に、直径50ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ35メートルのワイヤーロープをそれぞれとってブライダル状態とし、これに直径120ミリ長さ50メートルのスプリングワイヤーロープを、さらに同ワイヤーロープに明治丸の船尾から延出した直径60ミリ長さ390メートルの曳航用ワイヤーロープをそれぞれ連結し、明治丸の船尾から十島の後端までの長さを535メートルの引船列とした。

A受審人は、夜間には、明治丸に曳航中の船舶が表示しなければならない所定の灯火のほか、船尾方を照射するために2キロワットの探照灯1個を点灯し、また、十島に両舷の船楼の水面上の高さが23.5メートルになる上部甲板の各舷側中央部に舷灯を、左舷側船楼の上部甲板船尾端に船尾灯を、それぞれ蓄電池を電源として掲げたほか、各舷の船楼の水面上の高さが8.45メートルとなる中段甲板、及び上部甲板の各ハンドレールの船首尾端に、単一アルカリ乾電池を電源とする6ボルト1.5ワット4秒1閃、光達距離約2キロメートルの白色点滅灯を各1個、合計8個を点灯していた。
発航後、A受審人は、自らと一等航海士及び二等航海士の3人による、単独の4時間交替の船橋当直を行って本州及び四国の南岸沿いに航行し、越えて同月25日17時45分大隅半島の小山田湾に荒天避泊した後、翌26日20時ごろ明治丸に所定の灯火及び探照灯を、十島に前示の灯火を点灯して鹿児島港に向け航行を再開した。

翌27日02時ごろA受審人は、佐多岬灯台の西方1.5海里ばかりの地点に達したとき、二等航海士から引き継いで単独の船橋当直に就き、鹿児島湾口神瀬灯浮標の少し西方に向けて北上した。そして、03時11分同受審人は、立目埼灯台から264度(真方位、以下同じ。)2海里の地点において、針路を031度に定め、プロペラの翼角を14度、機関の毎分回転数を295の全速力前進にかけ、4.0ノットの曳航速力で自動操舵によって進行した。
A受審人は、03時26分少し過ぎ立目埼灯台から295度1.6海里の地点に達したとき、右舷船尾18度1.3海里のところを北上中の第一芳新丸(以下「芳新丸」という。)が針路を右方に転じ、その後明治丸の右舷側を約50メートル離して無難に航過する態勢で接近していたが、このことに気付かなかった。
03時57分A受審人は、立目埼灯台から350度2.4海里の地点に達し、芳新丸が明治丸の右舷船尾27度300メートルとなったとき、芳新丸が機関をいったん停止し、同時59分再び発進して自船と十島との間に向けて進行を開始したことに気付かないまま続航中、04時00分同灯台から350度2.4海里の地点において、明治丸の船尾端から370メートルのところの曳航索に、芳新丸の船首が後方から71度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
A受審人は、芳新丸が曳航索に衝突したことも、その後、同船が十島の左舷船首端に押しつけられた状態になっていることにも気付かないまま航行を続け、05時ごろ十島に移乗した芳新丸の乗組員が振っている携帯電灯の灯火を認めて曳航を中断し、十島に近寄って初めて衝突したことを知り、芳新丸乗組員を明治丸に収容するとともに、機関室に浸水した芳新丸を十島に上架した。
また、芳新丸は、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、船長CがB受審人ほか2人とともに乗り組み、平成7年10月19日和歌山県勝浦港を発航し、同月27日ミクロネシア海域の漁場に至って操業を開始した。その後、同船は、まぐろ約13トンを獲て操業を終え、同年12月21日07時(現地時間、以下同じ。)グアム島のポートアプラに寄港し、同日10時船首1.23メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同港を発して鹿児島港に向かった。

発航後、C船長は、自らとB受審人、甲板長及び機関長の4人による単独の3時間交替の船橋当直を行い、越えて、同月27日00時(日本標準時、以下同じ。)ごろ同当直を機関長と交替して休息した。
03時00分B受審人は、立目埼灯台から205度3.6海里の地点において、前直の機関長から引き継いで船橋当直に就き、針路を355度に定めて自動操舵とし、鹿児島港への入港時刻を調整するために機関を半速力前進に減じ、所定の灯火を表示して6.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき、B受審人は、左舷船首方2.4海里のところに明治丸の船尾灯、引船灯及び探照灯の明かりを初認し、黄色の引船灯を白色灯と見誤ったまま続航し、03時26分少し過ぎ立目埼灯台から251度1.8海里の地点に達したとき、針路を自動操舵のまま025度に転じた。その後、同受審人は、明治丸引船列に接近するにつれて十島の灯火を認め得る状況であり、同時53分十島の右舷側を約180メートル隔てて航過したが、明治丸が漁網を曳いていると思い、同船の後方について見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。

03時57分B受審人は、立目埼灯台から349度2.2海里の地点に達し、明治丸の灯火を左舷船首24度270メートルの近距離に認めるようになったとき、そのままの針路で進行すれば明治丸の右舷側を約50メートル離して無難に航過する状況であったが、同船を航過した後も針路が交差しており、近距離で明治丸の前路を横切ることになることから、少し離れたところで同船の船尾方から左舷側に出ることとし、手動操舵に切り替えて機関を中立とした。
B受審人は、惰力で200メートルばかり進行し、船首が振れて320度を向首して行きあしが停止した後、03時59分明治丸の灯火を右舷船首49度距離310メートルに見るようになったとき、発進することとした。ところが、同受審人は、明治丸が探照灯で船尾方を照射しており、左舷船首84度210メートルに十島の灯火を視認することができる状況であったが、明治丸の灯火は曳網中の船舶の灯火で、曳いている漁網は船尾近くに入っていると思い込み、同船の灯火ばかりを見て、その後方に対する見張りを十分に行わなかったので、十島の存在に気付かず、針路を320度として機関を半速力前進にかけて航行を開始し、約5ノットの速力になったとき、前示のとおり衝突した。

B受審人は、船底に異常を感じて機関を中立としたところ、船底が曳航索に乗ったまま、明治丸引船列の行きあしによって芳新丸の船体が十島の左舷船首端に押しつけられた状態となって傾斜したので、危険を感じて他の乗組員全員と共に十島に移乗した。
衝突の結果、芳新丸は左舷外板に破口を生じて機関室等に浸水して機器に濡損を生じ、十島は船首先端のタイヤフェンダー2個を脱落し、芳新丸を十島に上架した際、渠底に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、鹿児島湾口において、芳新丸が、見張り不十分で、明治丸が曳航する十島の右舷側を通過した後、明治丸と十島の間に向けて転針したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独の船橋当直に当たって鹿児島湾口を北上中、左舷船首方近距離に明治丸の灯火を認め、同船の船尾方から左舷側に出ることとして行きあしを停止した後、同船を右舷側に見て発進する場合、明治丸が探照灯を船尾方に向けて照射していたから、同船が曳航する十島を見落とさないよう、後方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、視認した明治丸の灯火は曳網中の船舶の灯火で、曳いている漁網は船尾近くに入っていると思い込み、同船の灯火ばかりを見て、その後方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、明治丸が曳航する十島に気付かず、明治丸と十島の間に向けて進行して曳航索に衝突し、その後船体が十島に押しつけられた状態となって自船の左舷側外板に破口を生じて機関等に濡損を生じさせ、十島のタイヤフェンダーを落下させて渠底に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年2月27日門審言渡
本件衝突は、明治丸引船列を追い越す第一芳新丸が、動静監視不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、明治丸引船列が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。


参考図






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