日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年第二審第10号
    件名
漁船抱井丸プレジャーボートサンホーク号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年9月12日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審横浜

宮田義憲、米田裕、山崎重勝、岸良彬、川本豊
    理事官
亀山東彦

    受審人
A 職名:抱井丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:サンホーク号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
抱井丸・・・・・・船首部船底に擦過傷
サンホーク号・・・船首部を圧壊、転覆、その後、陸岸に打ち上げられて全損、船長が2箇月間の加療を要する左手小指骨折、同乗者1人が左肩関節脱臼及び同1人が右前腕打撲挫傷等

    原因
抱井丸・・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
サンホーク号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人B

    主文
本件衝突は、抱井丸が、見張り不十分で、錨泊中のサンホーク号を避けなかったことによって発生したが、サンホーク号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月24日07時12分
静岡県網代港
2 船舶の要目
船種船名 漁船抱井丸 プレジャーボートサンホーク号
総トン数 3.38トン
登録長 8.60メートル 4.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 55キロワット 11キロワット
3 事実の経過
抱井丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、前日に修理した機関の試運転を行う目的で、船首0.20メートル船尾1.34メートルの喫水をもって、平成9年7月24日05時50分静岡県網代港の北防波堤南西方の網代漁港を発し、同港北北西方の同県熱海港内の磯埼から赤根埼にかけての海域において、約1時間にわたる試運転を行ったのち、06時55分磯埼東方沖合1,200メートルばかりの地点から帰航することとした。
ところで、網代港内の北部と東部には、古網定置漁場及び赤石定置漁場と称する2面の漁場がそれぞれ存在し、各漁場には定置網が通年敷設されていて、網代漁港に出入りする漁船等は、可航幅が70メートルないし200メートルの垣網と陸岸との間や、600メートルないし900メートルの両漁場間の海域を航行していた。

A受審人は、帰航に際して、網代漁港に直行する進路では前路一面に浮遊しているごみの中を航行する状況にあったことから、これを避けるとともに機関の様子をみる目的もあって、古網定置漁場及び赤石定置漁場の沖合を経て垣網と陸岸との間を通航することとし、機関を回転数毎分2,000の全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で進行を開始した。
A受審人は、その後、機関を一時中立として操舵装置の油圧パイプ等の点検を行ったあと再び航行を続け、07時10分赤石定置漁場の定置網南西端の垣網に接近したとき、機関を回転数毎分1,500の半速力前進にして12.0ノットの対地速力とし、同時10分少し過ぎ伊豆網代灯台から015度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点において、針路を江川埼を少し左方に見る320度に定め、手動操舵により続航した。
定針したとき、A受審人は、古網定置漁場の定置網の手前にあたる正船首680メートルにサンホーク号を視認でき、その後、停止状態にある同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、操舵室前面窓下の機関の計器盤を見ることに気を取られ、前方の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、同船を避けないで進行した。

07時11分半A受審人は、サンホーク号が錨泊を示す形象物を表示していなかったものの、東方に向首した船首から少し前方に張った錨索の状態などから、錨泊していることが分かる状況で、正船首180メートルに接近したが、依然として前方の見張りを行わなかったので、これに気付かず、直ちに転舵するなど同船を避けることなく続航した。
A受審人は、07時12分わずか前船首至近にサンホーク号を初めて視認し、急ぎ右舵一杯としたが及ばず、07時12分伊豆網代灯台から331度830メートルの地点において、抱井丸は、330度を向いたとき、原速力のまま、その船首が、サンホーク号の右舷船首部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。
また、サンホーク号は、セルモーター始動式船外機を装備した最大搭載人員5人の操舵室を有しないFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時30分網代漁港を発し、江川埼北方沖合200メートルばかりの釣り場に向かった。

06時40分B受審人は、釣り場に到着し、その後、漂泊しながら竿釣りを行ったものの、釣果がなかったので、同時50分古網定置漁場と赤石定置漁場との間の水深18メートルの前示衝突地点付近に移動して機関を止め、船首から錨を投入し、直径15ミリメートルの合成繊維索を約30メートル延出したうえ、法定の形象物を掲げずに船首を初島の少し北方寄りの090度に向けて錨泊を開始し、船尾右舷側の操縦席で右舷方を、同乗者2人が中央部で左舷方を、同乗者1人が船首部で右舷方をそれぞれ向いて腰掛け、釣竿を出して釣りを始めた。
07時10分少し過ぎB受審人は、右舷船首50度680メートルに、自船に向首した抱井丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かずに釣りを続けた。

07時11分半B受審人は、抱井丸が自船を避けずに180メートルに接近したが、依然として見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、船外機を直ちに始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けていたところ、同時12分わずか前右舷方至近に抱井丸を初めて視認し、大声で叫んだが、サンホーク号は、090度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、抱井丸は船首部船底に擦過傷を生じ、サンホーク号は船首部を圧壊して転覆し、その後、陸岸に打ち上げられて全損となり、B受審人が2箇月間の加療を要する左手小指骨折を、同乗者Cが左肩関節脱臼及び同Dが右前腕打撲挫傷等を負った。


(原因)
本件衝突は、静岡県網代港において、抱井丸が、機関の試運転を終えて帰航中、見張り不十分で、前路に錨泊中のサンホーク号を避けなかったことによって発生したが、サンホーク号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、機関の試運転を終えて帰航のため網代港内を航行する場合、錨泊中のサンホーク号を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、機関の計器盤を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊中のサンホーク号に気付かず、転舵するなど同船を避けることなく進行して衝突を招き、抱井丸の船首部船底に擦過傷を、サンホーク号の船首部に圧壊を生じさせ、B受審人及び同乗者2人に骨折や打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、網代漁港に出入りする漁船等が航行する海域で錨泊して釣りを行う場合、自船に向首して接近する抱井丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航しないまま接近する抱井丸に気付かず、直ちに機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年2月26日横審言渡
本件衝突は、抱井丸が、見張り不十分で、錨泊中のサンホーク号を避けなかったことによって発生したが、サンホーク号が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。


参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION