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2000年(平成12年)

平成11年第二審第4号
    件名
貨物船第八十三泰正丸貨物船徳安丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年7月31日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審神戸

田邉行夫、宮田義憲、伊藤實、吉澤和彦、川本豊
    理事官
平田照彦

    受審人
A 職名:第八十三泰正丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名 第八十三泰正丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:徳安丸船長 海技免状:六級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
泰正丸・・・左舷船首部外板に裂傷を伴う凹損
徳安丸・・・右舷側中央部のブルワークに曲損

    原因
泰正丸・・・狭視界時の航法(レーダー、速力)不遵守
徳安丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー)不遵守

    二審請求者
補佐人鈴木邦裕

    主文

受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月14日07時35分
明石海峡航路
2 船舶の要目

3 事実の経過
第八十三泰正丸(以下「泰正丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人及び息子のB受審人ほか3人が乗り組み、砂礫約1,200トンを載せ、船首3.30メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成8年2月14日05時10分兵庫県家島港を発し、航行中の動力船の灯火を点灯して、同県神戸市垂水区舞子浜の海岸整備工事現場に向かった。
A受審人は、目的地までの短距離航海であったことから、発航操船に当たったのちも、朝食をとるため降橋したほかは在橋して操船の指揮をとって進行し、06時上島南方に達したころ、霧模様となり、視界が1海里ばかりになったので、機関を全速力前進より少し減じた回転数毎分240とし、8.5ノットの対地速力で、自動吹鳴による霧中信号を行いながら播磨灘北部を東行した。

その後、A受審人は、周囲が明るくなって視界がやや回復したので航海灯を消し、07時15分江埼灯台から269度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点において、針路を071度に定め、それまで操舵に当たっていたB受審人を見張りに就け、自らは手動で操舵に当たるとともに、時折、舵輪の左横にあるカラーレーダーを見ながら明石海峡航路の西口に向けて続航した。
A受審人は、明石海峡航路の西口に近づくにつれ、上空に比して海面に近いほど視界が悪い状況となり、07時27分半江埼灯台から309度1,500メートルの地点に達したとき、視程が約200メートルとなったが、B受審人が操舵室コンソールの左舷端にある白黒レーダーを見ていたので、接近する他船の映像の報告が得られるものと思い、同受審人に対し、レーダー見張りを十分に行い、探知した映像の動静を適宜報告するよう指示することなく、同針路のまま、機関を微速力前進に減じ、4.5ノットの対地速力で進行した。


A受審人は、07時31分わずか過ぎ江埼灯台から329度1,300メートルの地点で、明石海峡航路に入航し、針路を航路に沿う088度に転じた。

操舵に当たっていたA受審人は、B受審人から何らの報告も受けなかったところから、この状況に気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを停止することもなく続航した。

当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約200メートルで、明石海峡の潮流はほぼ転流時で、衝突地点付近には微弱な東流があった。


発航後、C受審人は、一等航海士と交互に5時間交替で、単独の船橋当直に当たって瀬戸内海を東行し、翌14日05時30分ごろ淡路島富島港北方2.5海里付近で、一等航海士と交替して当直に就き、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で明石海峡西口に向けて進行した。
C受審人は、05時50分ごろ明石海峡西口に接近したとき、霧が濃くなり、視程が約200メートルとなったので、一旦明石海峡の通航を断念して視界の回復を待つこととし、江埼灯台の北西方沖で、機関を中立とし、航行中の動力船の灯火のほか作業灯を点灯して停留を開始した。


C受審人は、07時25分ごろから視界が回復し始め、工事中の明石海峡大橋や明石海峡航路を通航する他船が視認できるようになったので、汽笛の吹鳴を中止し、航行の再開を思案していたところ、同時30分ごろ再び霧が濃くなったので、そのまま停留を続けることとしたが、霧中信号を再開しなかった。
C受審人は、07時31分わずか過ぎ江埼灯台から356度1,170メートルの地点で、船首が270度に向いていたとき、左舷船首4度620メートルのところに、明石海峡航路に入航して東行する泰正丸をレーダーで探知でき、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーによる見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま停留を続けた。

C受審人は、07時33分泰正丸が左舷船首360メートルに接近したとき、自船が明石海峡航路の南側境界線を越え航路内に入っていることを知り、淡路島北岸寄りに移動することとしたが、依然としてレーダーによる見張りを十分に行うことなく、同船の接近に気付かないまま、最小限度の速力で大幅に転針するなどして衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行せず、機関を微速力前進にかけ、左舵25度として回頭をしながら、平均2.5ノットの対地速力で進行した。


(原因)

泰正丸の運航が適切でなかったのは、船長が次席一等航海士に対し、レーダーによる見張りを十分に行って探知した映像の動静を適宜報告するよう指示しなかったことと、同航海士が、レーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人の所為)

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、霧のため視界が制限された明石海峡において、同海峡の通航を中止して明石海峡航路の南側境界線付近で停留する場合、航路を東行して接近する泰正丸を早期に探知できるよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、泰正丸の存在に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、最小限度の速力で大幅に転針するなどして衝突の危険がなくなるまで十分に注意することなく航行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年1月27日神審言渡

受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。


参考図






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