日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年第二審第5号
    件名
旅客船シンフォニー作業船祥容丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年6月16日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審横浜

米田裕、山崎重勝、伊藤實、吉澤和彦、上中拓治
    理事官
亀山東彦

    受審人
A 職名:シンフォニー船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:シンフォニー一等航海士 海技免状:一級海技士(航海)
D 職名:祥容丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
シ号・・・船首部に擦過傷
祥容丸・・・右舷側中央部外板に凹損及び操舵室に破損、転覆、沈没、のち廃船

    原因
祥容丸・・・動静監視不十分、港則法の航法(雑種船)不遵守(主因)
シ号・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官藤江哲三、補佐人千葉胤英

    主文
本件衝突は、雑種船である祥容丸が、動静監視不十分で、雑種船以外の船舶であるシンフォニーの進路を避けなかったことによって発生したが、シンフォニーが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Dを戒告する。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月2日19時10分
京浜港東京区第2区
2 船舶の要目
船種船名 旅客船シンフォニー 作業船祥容丸
総トン数 1,089トン
全長 70.00メートル 10.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 55キロワット
3 事実の経過
シンフォニー(以下「シ号」という。)は、専ら京浜港東京区及びその周辺海域で遊覧航海に従事する旅客船で、A、B両受審人及びC指定海難関係人ほか運航要員4人と接客要員9人が乗り組み、乗客23人を乗せ、船首1.98メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成9年12月2日19時00分同港東京区第2区の日の出桟橋M岸壁を発し、東京西航路から東京東航路を経て浦安市の東京ディズニーランド沖、東京灯標沖を周遊のうえ東京西航路を通って日の出桟橋に帰着する約2時間30分の遊覧航海を開始した。

ところで、シ号では、離岸後の早い時期に船長が一等航海士に操船を委ねて客室に赴き、乗客に対して放送等により挨拶をしたのち、再び昇橋して操船の指揮をとるようにしており、A受審人も平成4年6月入社し、シ号に船長として乗り組むようになって以来、前任船長の引き継ぎを受けてその慣例に従っていた。
A受審人は、法定の灯火を掲げ、B受審人を手動操舵及び機関操作に就け、自ら操船に当たって離岸したのち、船首尾部の離岸作業を終えて昇橋した次席一等航海士を同受審人に代えて手動操舵に、C指定海難関係人及び甲板員一人を見張りに当たらせ、同受審人に補佐させて岸壁前面で後進左回頭を行い、19時05分晴海信号所から289度(真方位、以下同じ。)1,060メートルの地点で、針路を前方1,500メートルばかりのところに架かる、レインボーブリッジのほぼ中央に向首する172度に定め、機関を毎分回転数200の微速力前進にかけた。そして、A受審人は、周囲を一瞥(いちべつ)して前路に支障となるような他船が目に入らなかったので、慣例の挨拶をするため船橋を離れても大丈夫と思い、引き続き在橋して操船の指揮をとることなく、B受審人に操船を一時的に委ねて降橋した。
B受審人は、A受審人から操船を引き継いだとき、左舷船首15度1,350メートルのところに祥容丸の白、緑2灯を視認でき、その灯火模様等から雑種船であることが分かる状況にあったが、レインボーブリッジを照らす明るい灯火に紛れてやや視認しにくかったことに加え、左方から接近する他船はいないものと思い、船橋やや右舷寄りに位置し、左舷方の見張りを厳重に行っていなかったので、そのことに気付かなかった。
B受審人は、徐々に機関の回転数を上げ、やがて全速力前進の毎分回転数250として11.0ノットの対地速力で南下し、19時08分半レインボーブリッジから約500メートル手前に当たる、晴海信号所から235度1,060メートルの地点に達したとき、針路を181度に転じたところ、祥容丸が左舷船首15度460メートルとなり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、左舷前方の見張りを厳重に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、速やかに減速するなどの衝突を避けるための措置もとらないまま進行した。

19時09分A受審人は、客室から船橋に戻り、同時09分半B受審人から針路及び機関回転数について引き継ぎを受けたが、左舷前方近くの祥容丸についての報告が得られないまま、コントロールスタンド後方の左舷側に位置して再び操船に当たった。
C指定海難関係人は、船首部での離岸作業を終えて昇橋したのち、離岸回頭を終えるころ、見張りを中断してB受審人から指示されていた懐中電灯の電池の交換を海図台の後方で開始し、19時09分半少し過ぎ電池交換を終え、船橋前部左舷側に赴いて見張りに就いて間もなく、左舷前方至近に祥容丸の緑灯及び船影を初めて視認し、同船の方向を指差すとともに「船がいる。」と大声で叫んだ。
A受審人は、C指定海難関係人の叫び声で、左舷前方を見たところ、至近に迫った祥容丸を認め、直ちに機関を停止するとともに、汽笛を連続吹鳴し、続いて全速力後進を令したが、及ばず、19時10分晴海信号所から218度1,430メートルの地点において、シ号は、原針路、原速力のまま、その船首が祥容丸の右舷中央部に後方から58度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、祥容丸は、専ら京浜港及び千葉港において実施される土木工事現場への作業員の送迎や同現場周辺の警戒業務に従事し、港則法上の雑種船に該当する鋼製の交通船兼作業船で、D受審人が一人で乗り組み、千葉県浦安市舞浜付近で行われていた南葛西地盤改良工事現場での警戒業務を終え、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日18時10分同工事現場を発し、法定の灯火を掲げ、東京都港区芝浦4丁目の夕凪橋近くの定係地に向けて帰途に就いた。
D受審人は、発航後、砂町運河、東雲東運河を経て東雲運河に入り、18時59分同運河を出て、晴海信号所から143度1,040メートルの地点に達したとき、針路をレインボーブリッジの芝浦寄りの橋脚を少し左方に見る267度に定め、機関を毎分回転数1,300にかけて6.0ノットの対地速力で、手動操舵により西行した。

D受審人は、東雲運河方面から定係地に向かう際、東京西航路に至る通航路を横断することになり、自船が雑種船で、雑種船以外の船舶の進路を避けなければならないことを知っていたことから、左舷方の第6台場に接近して北上する船舶に対して余裕を持って対処できるよう、同台場から少し北側に離れて航行し、東京第6台場西灯浮標を左舷正横近くに見るようになったころ、航行船の状況を見て左転のうえ品川ふ頭北面のセメントサイロ付近に向けるとともに、一旦減速して航行する方法をとるようにしていた。
19時05分少し前D受審人は、第6台場にほぼ並航するころ、右舷船首70度1,360メートルのところにシ号の白、白、紅3灯を初認したが、同船とはまだ距離があり、北上船を認めなかったことから、同時05分晴海信号所から210度1,030メートルの地点で、徐々に左転して針路を前示のセメントサイロ付近に向首する239度に転じ、機関の回転数を下げて3.0ノットの対地速力で進行した。

19時08分半わずか前D受審人は、右舷側方を見たとき、470メートルのところにシ号の白、白2灯のマスト灯のほか紅、緑2灯の両舷灯を認め、自船はシ号の前路を無難に航過できるものと思い、直ぐに同船から目を離した。そして、同受審人は、シ号が同時08分半右舷正横後18度460メートルとなったときに右転し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、そのころ右舷前方に認めた赤色の灯火に気をとられ、シ号の動静を十分に監視していなかったので、そのことに気付かず、雑種船以外の船舶である同船の進路を避けることなく続航した。
その後D受審人は、19時10分少し前シ号の汽笛を聞いて右方を見たとき、至近に迫った同船の船首部を認め、衝突を避けようとして咄嗟(とっさ)に機関を全速力前進としたが、及ばず、祥容丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、シ号は船首部に擦過傷を生じただけであったが、祥容丸は右舷側中央部外板に凹損及び操舵室に破損を生じて転覆のうえ沈没し、のち引き揚げられたものの廃船とされ、D受審人は転覆した船内に閉じ込められたが、沈没前に自力で脱出して付近航行中の船舶に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、京浜港東京区において、雑種船である祥容丸が、東雲運河を出て定係地に向けて西行中、動静監視不十分で、雑種船以外の船舶であるシ号の進路を避けなかったことによって発生したが、シ号が、日の出桟橋を離岸して東京西航路に向けて南下中、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
シ号の運航が適切でなかったのは、船長が自ら操船の指揮をとらなかったことと、操船を委ねられた一等航海士が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
D受審人は、夜間、京浜港東京区において、単独で操船に当たって定係地に向けて西行中、右舷方に南下中の雑種船以外の船舶であるシ号の白、白、紅、緑4灯を認めた場合、自船は雑種船であったから、相手船の転針等により衝突のおそれが生じることがないかどうかを判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、シ号が両舷灯を見せていたので、自船はシ号の前路を無難に航過できるものと思い、同船から目を離し、右舷前方に認めた赤色の灯火に気をとられて、シ号の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船から目を離した直後に同船が右転し、その後衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、シ号の船首部に擦過傷を生じさせ、祥容丸の右舷側中央部外板に凹損及び操舵室に破損を生じさせて転覆のうえ沈没させるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、京浜港東京区において、遊覧航海のため日の出桟橋を離岸して東京西航路に向けて南下する場合、自らが在橋して操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、離岸回頭を終えて定針し、前進を開始したとき、周囲を一瞥して前路に支障となるような他船が目に入らなかったので、慣例としていた乗客への挨拶をするため船橋を離れても大丈夫と思い、一等航海士に操船を一時的に委ねて降橋し、引き続き在橋して操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、再び昇橋して操船を引き継いで間もなく、祥容丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、祥容丸を転覆のうえ沈没させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、京浜港東京区において、遊覧航海のため日の出桟橋を離岸後、船長から一時的に操船を委ねられ、自ら操船して東京西航路に向けて南下する場合、前方のレインボーブリッジを照らす明るい灯火に紛れて船舶の灯火がやや視認しにくい状況にあったから、左舷前方から来航する雑種船の祥容丸を見落とさないよう、同方向の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷前方から接近する他船はいないものと思い、同方向の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、祥容丸の存在とともに自船の転針後に祥容丸と衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもしないまま進行し、再び昇橋した船長に操船を引き継いで間もなく、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、祥容丸を転覆のうえ沈没させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年2月5日横審言渡
本件衝突は、雑種船である祥容丸が、動静監視不十分で、小型船及び雑種船以外の船舶であるシンフォニーの進路を避けなかったことによって発生したが、シンフォニーが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Dの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION