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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月19日11時05分 三重県鳥羽港 2 船舶の要目 船種船名
旅客船第二十一鳥羽丸 漁船広栄丸 総トン数 88.96トン 0.9トン 全長 23.93メートル 8.84メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 183キロワット
40キロワット 3 事実の経過 第二十一鳥羽丸(以下「鳥羽丸」という。)は、三重県鳥羽港と鳥羽市の諸島間に就航するFRP製定期旅客船で、その運航管理をT市が行い、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客15人を乗せ、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年12月19日11時00分同港中之郷桟橋を発し、坂手島の坂手漁港に向かった。 ところで、中之郷桟橋から坂手漁港に至る水路は、鳥羽港港域内に位置し、鳥羽市安楽島町とその北側の坂手島によって挟まれ、同町権現堂埼北側付近を西口、同町峰ヶ埼北側付近を東口とする東西に延びる長さ約1.5キロメートル幅約400メートルの狭い水道(以下「坂手島南水道」という。)で、その東方が加布良古水道に接しており、坂手島南水道の中間やや西寄りにあたる坂手島南端の尾ヶ埼付近で、浅瀬が南側に拡延して緩やかなV字状に屈曲し、尾ケ埼南端から南150メートルのところに、浅瀬の南端を示すトウラ灯浮標が設置されていて、その屈曲部付近が可航幅200メートル余りの最狭部となっていた。 発航後、A受審人は、甲板員1人を見張りに就け、自ら手動操舵に当たり、坂手島南水道の西口に向けて北上し、11時03分少し過ぎ鳥羽坂手港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から251度(真方位、以下同じ。)840メートルの地点に達したとき、針路をトウラ灯浮標と安楽島町側陸岸のほぼ中間付近に向首する102度に定め、機関を10.5ノットの全速力前進にかけ、折りからの西に向かう潮流に抗して10.2ノットの対地速力で、同水道の右側端に寄って航行することなく進行した。 11時03分半A受審人は、南防波堤灯台から246度740メートルの地点に至ったとき、左舷船首21度600メートルのところの坂手漁港沖合に、反航してくる広栄丸を初めて視認し、やがて、同船と坂手島南水道の最狭部付近において行き会うことになると判断し、その動静を監視しながら続航した。 11時04分A受審人は、南防波堤灯台から238度620メートルの地点に達したとき、広栄丸が390メートルに接近し、同船の操舵室付近に人影を見かけず、その船首がやや左右に振れていることを認めたが、同船が間もなくトウラ灯浮標に並航するので、その時点で右転して同灯浮標側に寄せるものと思い、依然、自船は坂手島南水道の右側端に寄って航行することなく、同じ針路、速力のまま東行した。 A受審人は、11時04分半広栄丸が190メートルに接近し、トウラ灯浮標に並航したものの、右転することなく自船の前路に向けて衝突のおそれがある態勢で直進してきたので、広栄丸の動作について疑問を抱き、同時04分半少し過ぎその距離が140メートルとなったところで、汽笛信号により短音を連続吹鳴したが、依然としてそのまま直進を続けてきたので、衝突の危険を感じて機関を半速力に減じ、同時05分少し前中立として右舵をとり、続けて全速力後進としたが及ばず、11時05分南防波堤灯台から210度450メートルの地点において、鳥羽丸は、船首が127度を向いて少し後進行きあしがついたとき、その左舷船首に広栄丸の船首が直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には0.3ノットの西流があり、視界は良好であった。 また、広栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日07時00分中之郷桟橋南側の船溜りを発し、加布良古水道の横瀬付近で操業を行い、赤魚20匹を漁獲した後、10時54分南防波堤灯台から110度1,350メートルの地点を発航して帰途に就いた。 ところで、広栄丸の操舵室は、船体中央にある機関室囲壁の後ろに位置し、操舵室内にはGPS表示装置、魚群探知器、機関監視盤及び航海灯等のスイッチ盤が設置され、舵輪、スロットルレバー及びクラッチレバーが同室後壁の左舷側室外の下部に設けられており、同室天井の甲板上の高さが1.11メートルで、その上部に高さ38センチメートルのガラス製風防があったので、甲板上に立って操船に当たると前方の見通しは良好であったが、操舵室後部左舷側の甲板に座ると、船首方から右舷正横付近までの間に死角が生じる状況であった。 発航後、B受審人は、操舵室外の左舷後方に立って見張りと操舵に当たり、10時59分少し前坂手島南水道東口にあたる、南防波堤灯台から091度610メートルの地点に達したとき、針路を264度に定め、機関を毎分回転数1,200の4.8ノットにかけ、折からの西に向かう潮流に乗じて5.1ノットの対地速力で進行した。 定針したころB受審人は、前路に他船を認めなかったことから、釣糸を整理しておこうと思い、舵中央としたまま舵輪から手を離し、舵輪後方の物入れ庫を開け、その後縁の甲板上に前を向いた姿勢で腰を下ろして整理作業を開始し、時折左舷前方を見て舵輪を操作しながら続航した。 11時02分少し過ぎB受審人は、南防波堤灯台から140度70メートルの地点で、針路をトウラ灯浮標と安楽島町側陸岸のほぼ中間付近に向首する217度に転じ、その際周囲を一瞥したところ、前路に他船を見かけなかったので、その後も転針前と同じ姿勢で釣糸の整理作業を続け、坂手島南水道の右側端に寄せて航行することなく進行した。そして、同受審人は、同時03分半南防波堤灯台から200度210メートルの地点に達したとき、同水道の西口付近で右舷船首44度600メートルのところに、反航してくる鳥羽丸を視認することができ、同時04分その方位がほとんど変化しないまま390メートルに接近したが、同水道内に他船はいないものと思い、右舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、依然、同水道の右側端に寄って航行する針路とすることなく、2度右方に圧流されながら続航した。 11時04分半B受審人は、南防波堤灯台から208度370メートルの地点に至り、トウラ灯浮標を右舷側110メートルに並航し、坂手島南水道の屈曲部付近に達したとき、鳥羽丸との距離が190メートルとなり、同船と衝突のおそれがある態勢にあったが、依然として舵を放置したまま釣糸の整理作業に没頭し、右舷船首方の見張りを行っていなかったので、そのことに気付かないまま、右転して同灯浮標側に寄せることなく進行した。 B受審人は、11時04分半少し過ぎ鳥羽丸と140メートルの距離に接近したとき、同船が吹鳴した汽笛信号にも気付かず、行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなく西行し、同時05分少し前船首至近に迫った同船を初めて認め、急いで機関を全速力後進にかけたが及ばず、広栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、鳥羽丸は、左舷船首部の水線上の外板に小破口を生じ、広栄丸は、船首部防舷材を破損したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、三重県鳥羽港の坂手島南水道において、西行する広栄丸が、同水道の右側端に寄って航行しなかったばかりか、前方の見張りが不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、東行する鳥羽丸が、同水道の右側端に寄って航行しなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、鳥羽港の坂手島南水道を西行する場合、同水道を反航してくる鳥羽丸を見落とさないよう、右舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同水道内に他船はいないものと思い、舵輪を放して後方にある物入れ庫の後縁の甲板上に前を向いた姿勢で腰を下ろし、船首方から右舷正横付近までの間に死角を生じた状態で釣糸の整理作業に当たり、右舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する鳥羽丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、自船の船首部防舷材に損傷を、鳥羽丸の左舷船首部外板に小破口をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、鳥羽港の坂手島南水道を東行する場合、同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、同水道のほぼ中央付近を反航してきた広栄丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成10年7月3日横審言渡 本件衝突は、広栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第二十一鳥羽丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二十一鳥羽丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 受審人Bを戒告する。 受審人Aを戒告する。
参考図
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