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2000年(平成12年)

平成10年第二審第14号
    件名
油送船第三グリーン丸貨物船幸成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成12年5月29日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審横浜

伊藤實、米田裕、養田重興、森田秀彦、吉澤和彦
    理事官
松井武

    受審人
A 職名:第三グリーン丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:幸成丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
グリーン丸・・・左舷船尾のボート甲板及び交通艇に破損
幸成丸・・・・・船首部に凹損

    原因
幸成丸・・・・・狭視界時の航法(レーダー、速力)不遵守(主因)
グリーン丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官西田克史

    主文
本件衝突は、幸成丸が、レーダーによる動静監視が不十分で、停留状態から航路を横断するに当たり、航行中の第三グリーン丸の通過を待たなかったばかりか、航路を横断中、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、第三グリーン丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月13日06時20分
東京湾中ノ瀬航路
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三グリーン丸 貨物船幸成丸
総トン数 692.45トン 498トン
全長 64.92メートル 48.25メートル
機関の種類 デイーゼル機関 デイーゼル機関
出力 1,176キロワット 880キロワット
3 事実の経過
第三グリーン丸(以下「グリーン丸」という。)は、可変ピッチプロペラを備えた船尾船橋型のアスファルトタンク船で、A受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首2.1メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成8年7月9日17時20分青森県八戸港を発し、千葉県千葉港へ向かった。
翌10日08時10分A受審人は、台風避難のため宮城県牡鹿半島の大原湾に仮泊したのち、翌々12日06時00分同地を離れ、途中、燃料補給のため京浜港横浜区に寄せてから目的地に向かうことにした。

ところで、A受審人は、船橋当直を一等航海士、甲板長及び甲板手の3人による単独の4時間交替制を採り、出入港時や狭視界時、狭水道や船舶交通の輻輳(ふくそう)する海域を通航する時などにおいては、自ら操船の指揮に当たることにしていた。
翌13日04時35分A受審人は、浦賀水道南口沖合で昇橋し、船橋当直中の甲板長に船内清掃をさせて朝食をとらせるため、同人と当直を交替して一人で操船に当たり、そのころ視界が比較的良かったので、機関を翼角16度の全速力前進にかけたまま、同時55分浦賀水道航路に入って11.0ノットの対地速力で北上し、続いて中ノ瀬航路に入り、05時35分第2海堡灯台から342度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、霧となって視界が150メートルに狭められたので、航行中の動力船が掲げる法定灯火を点灯したまま、自動吹鳴による霧中信号を開始するとともに、機関用意をかけて翼角5度の極微速力前進に減じて航行した。

05時40分A受審人は、第2海堡灯台から353度1.5海里の地点で、針路を023度に定め、機関を翼角8度、約7ノットの微速力前進に上げ、そのころ昇橋してきた甲板長を手動操舵と見張りに、機関長を機関操縦と見張りにそれぞれ就けて、自らは自動プロッティング方式のレーダー監視に当たりながら操船の指揮をとり、先航する巨大船ほか1隻の航行船に後続して、折からの南西に向かう潮流に抗して6.5ノットの対地速力で進行した。そして、同時58分半少し前同受審人は、中ノ瀬航路第3号灯浮標(以下、中ノ瀬航路を冠する灯浮標については「中ノ瀬航路」を省略する。)を左舷側200メートルに並航する、第2海堡灯台から009度3.4海里の地点に至ったとき、針路を同航路の左側寄りに沿う020度に転じて北上した。
06時11分A受審人は、第2海堡灯台から012度4.7海里の地点に達したとき、3海里レンジとしていたレーダー画面で、左舷船首5度1.1海里のところの中ノ瀬航路外に、幸成丸の映像を初めて認め、自動プロッティングの表示から、同船が停留しており、このままの針路で無難に航過できることを知り、同船は航路航行船の通過を待っているものと思い、その後、幸成丸の映像を引続き監視しながら続航した。

A受審人は、06時17分第2海堡灯台から013度5.4海里の地点に達し、幸成丸の映像が左舷船首16度690メートルとなったとき、同船が移動を始め、間もなく自船の前路に向けて進行し、同時18分幸成丸の映像が左舷船首20度480メートルとなり、著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが、自船が航路をこれに沿って航行しているので、相手船の方で自船の船尾方を替わしてくれるものと思い、速やかに行きあしを止めることなく北上した。
その後、A受審人は、レーダーを近距離レンジに切り替えて幸成丸の映像を監視していたところ、同船がそのまま自船の前路に向かって接近していることを知り、甲板長に操舵を自動に切り換えさせて左舷前方の見張りを行わせた。
06時19分半A受審人は、甲板長から幸成丸の船体を視認した旨の報告を受け、レーダー画面から目を離して左舷前方を見たところ、同船を150メートルの距離に視認し、急いで甲板長を操舵に就かせて右舵一杯をとったが間にあわず、06時20分第2海堡灯台から013.5度5.7海里の地点において、グリーン丸は、原速力のまま、その船首が024度に向いたとき、左舷側後部に幸成丸の船首が直角に衝突した。

当時、天候は霧で風力2の東寄りの風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には0.5ノットの南西に向かう潮流があり、視程は150メートルであった。
また、幸成丸は、船首部にジブクレーンを備えた船尾船橋型の砂利採取運搬船で、B受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同月13日05時10分京浜港横浜区の鶴見川河口右岸の荷揚地を発し、基地としている千葉県木更津港に向かった。
B受審人は、発航時から単独で見張りと操舵に当たり、05時27分横浜大黒防波堤東灯台を右舷側250メートルに並航したとき、機関を全速力前進にかけ、8.7ノットの対地速力で航行中、同灯台の並航時に約1.5海里あった視界が徐々に狭まってきたので、いつもの木更津港沖灯浮標に向ける針路を変更して、東京湾中ノ瀬D灯浮標(以下「D灯浮標」という。)に向かう針路とした。同時40分同受審人は、霧となって視程が150メートルになったので、機関用意をかけ、航行中の動力船が掲げる法定灯火を点灯したうえ、手動による霧中信号の吹鳴を開始し、機関長を船首部に配置して見張りに当たらせ、間もなく昇橋してきた甲板員を見張りに就け、自らは操舵スタンドの左側に設置されていたレーダーを監視しながら東行した。

05時50分B受審人は、D灯浮標を右舷側50メートルに並航する、第2海堡灯台から007度6.3海里の地点に達したとき、針路を第7号灯浮標に向く120度にとり、機関を約4ノットの半速力前進に減じ、折からの南西に向かう潮流により、6度右方に圧流されながら3.6ノットの対地速力で進行した。
06時02分B受審人は、第7号灯浮標から220度200メートルにあたる、第2海堡灯台から013度5.9海里の地点に達したとき、中ノ瀬航路を北上中のグリーン丸に先航する巨大船ほか1隻の航行船を、レーダーで認め、これらの航行船と著しく接近することとなるので、その通過を待ったのち同航路を横断して目的地に向かうこととし、機関を中立運転としたうえ、船首を120度に向けて停留を開始し、その後霧中信号の吹鳴を止め、折りからの南西に向かう潮流に圧流されながら、船首方向を保つため時折機関を使用して停留を続けた。

B受審人は、前示巨大船の通過を肉眼で辛うじて確認したのち、圧流されて06時14分第2海堡灯台から013度5.8海里の地点に至ったとき、3海里レンジとしたレーダー画面で、右舷船首72度1,330メートルのところに、中ノ瀬航路を北上するグリーン丸の映像を初めて認めたが、同船の速力が遅く、まだ距離もあるので、巨大船に後続する航行船が通過したあとに同航路を横断すれば、グリーン丸の前路を無難に航過することができるものと思い、その後同船の映像をプロッティングするなどレーダーによる動静監視を十分に行わなかった。
06時17分B受審人は、第2海堡灯台から012.5度5.8海里の地点で、グリーン丸に先航する航行船が前方を通過したのをレーダーと辛うじて肉眼で認め、そのころグリーン丸の霧中信号を聞き、同船が右舷船首64度690メートルに接近し、そのまま自船が停留を続けるとグリーン丸が200メートルばかり前方を無難に航過する態勢にあり、自船が中ノ瀬航路の横断を開始すると、グリーン丸と衝突のおそれが生じる状況にあったが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の通過を待つことなく、針路を114度に定め、機関を極微速力前進にかけ、潮流によって14度右方に圧流されながら、2.0ノットの対地速力で進行した。

B受審人は、06時18分グリーン丸が右舷船首66度480メートルとなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、依然、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま、速やかに行きあしを止めることなく続航した。
06時19分半B受審人は、甲板員からグリーン丸を視認した旨の報告を受けて前方を見たところ、同船を150メートルの距離に視認し、右舵一杯をとって、全速力後進にかけたが及ばず、幸成丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、グリーン丸は、左舷船尾のボート甲板及び交通艇に破損を生じ、幸成丸は、船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(航法の適用及び原因の考察)
本件は、霧で視界が制限された中ノ瀬航路北口付近において、同航路を西側から東に向けて横断中の幸成丸と、同航路をこれに沿って北上中のグリーン丸とが衝突した事件であり、以下、適用される航法及び原因について考察する。
衝突地点付近は、海上交通安全法(以下「海交法」という。)に定める海域及び航路内であり、先ず一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法である海交法が適用される。
海交法第3条第1項では「航路を横断しようとし、又は航路をこれに沿わないで航行している船舶は、航路をこれに沿って航行している他の船舶と衝突するおそれがあるときは、当該他の船舶の進路を避けなければならない。」と規定している。しかし、当時、天候は霧で視程が150メートルの視界制限状態にあり、海交法に規定する避航に関する航法については、予防法第40条で「同法第11条の規定は、他の法令において定められた避航に関する事項について準用する。」と規定していることから、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用されるので、本件には、海交法第3条第1項の規定の適用はない。

幸成丸は、中ノ瀬航路北口付近の航路外の西側で、船首を120度に向けて停留して、同航路を北上中のグリーン丸に先航する巨大船及び1隻の航行船の通過を待っているとき、衝突の6分前に、レーダーで右舷船首72度1,330メートルに、グリーン丸の映像を初認し、同船の霧中信号も聴取するようになったが、そのまま航路外で停留を続けていれば、グリーン丸とは約200メートルの距離を保って航過することができた。このことは、当廷におけるB受審人の、「前示巨大船ほか1隻の航行船の上部が通過時に肉眼でようやく確認できた。」とする供述から、グリーン丸に先航する航行船とは同程度の距離を保って通過していること、更に幸成丸及びグリーン丸の大きさや海域の事情を勘案すると、両船は無難に航過できる態勢であり、衝突のおそれはなかったものと認められる。
幸成丸の前方を巨大船に続く航行船が通過した衝突の3分前、グリーン丸は右舷船首64度690メートルに接近しており、この時点で、中ノ瀬航路の横断を開始すると、同船と衝突するおそれが生じる状況にあった。したがって、幸成丸としては、海交法第3条の避航義務がないとしても、航路航行船に対して新たな衝突のおそれを生じさせないよう、予防法第39条の船員の常務として、グリーン丸の通過を待って同航路の横断を開始べきであった。しかるに、同船をレーダーで初認したときの態勢などから、その前路を無難に横断できるものと思い、初認後、レーダープロッティング等により、同船の動静を十分に監視していなかったことから、横断を開始することで新たな衝突のおそれが生じることに気付かないまま、同船の通過を待たずに航路の横断を開始したことは本件発生の原因となる。
また、幸成丸は、航路の横断を開始してからも、レーダーによりグリーン丸の映像を十分監視していれば、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることの判断ができ、予防法第19条第6項により、速やかに行きあしを止める措置を講じなければならなかったが、横断開始後も依然としてレーダーによる動静を十分監視していなかったので、このことに気付かないまま、これらの措置をとらなかったことも本件発生の原因となる。
一方、グリーン丸は、衝突の9分前に020度の針路で進行中、レーダーで幸成丸の映像を、左舷船首5度1.1海里に初認し、自動プロッティングの表示で同船が航路外で停留中で、両船間に衝突のおそれがないことを認めたのち、衝突の3分前、幸成丸のレーダー映像を左舷船首16度690メートルに見るようになったとき、同船が自船の前路に向けて移動を開始し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めており、その時点で予防法第19条第6項により、速やかに行きあしを止める措置を講じなければならなかったが、相手船が航路航行中の自船の船尾方を替わすものと思い、この措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。


(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された中ノ瀬航路北口付近において、幸成丸が、レーダーによる動静監視が不十分で、停留状態から同航路の横断を開始するに当たり、航路を北上中のグリーン丸の通過を待たなかったばかりか、航路を横断中、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったことによって発生したが、グリーン丸が、航路の横断を開始した幸成丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、霧のため視界が制限された中ノ瀬航路北口付近において、同航路を横断するつもりで、航路外の西側において停留中、レーダーで同航路を北上中のグリーン丸を認めた場合、横断を開始することにより、同船と衝突のおそれが生じることがないかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、グリーン丸の速力が遅く、まだ距離もあるので同船の前路を無難に航過することができるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船の通過を待たずに航路の横断を開始して衝突のおそれを生じさせたばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、速やかに行きあしを止めずにそのまま進行してグリーン丸との衝突を招き、自船の船首に凹損を、グリーン丸の左舷側ボート甲板及び交通艇に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号の規定を適用して、同人を戒告する。
A受審人は、霧のため視界が制限された中ノ瀬航路北口付近の航路を北上中、レーダーで探知していた、航路外の西側で停留中の幸成丸が、自船の前路に向けて航行を開始し、著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合、速やかに行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船が航路をこれに沿って航行しているから、幸成丸が自船の船尾方を替わすものと思い、速やかに行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して幸成丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成10年6月25日横審言渡
本件衝突は、第三グリーン丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、幸成丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。


参考図






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