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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年12月18日03時00分 播磨灘北部 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第53明力丸 貨物船第拾壱三社丸 総トン数 761トン 198トン 全長 68.57メートル 49.91メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,471キロワット
588キロワット 3 事実の経過 第53明力丸(以下「明力丸」という。)は、専ら砂利等の建設用資材を運搬する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、土砂約2,300トンを積載し、船首4.8メートル船尾6.0メートルの喫水をもって、平成7年12月18日02時10分兵庫県家島港港外の錨泊地を発し、法定灯火を掲げて大阪港に向かった。 A受審人は、船首での揚錨作業を終えて昇橋した後、02時15分船長から引き継いで単独の船橋当直に就き、同時31分半鞍掛島灯台から269度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点において、針路を093度に定め、機関を全速力前進にかけて10.7ノットの対地速力で、手動操舵によって進行した。 定針したころ、A受審人は、右舷船首17度590メートルに白灯1個を認め、同灯が自船より早く家島港を発航した同業船である第拾壱三社丸(以下「三社丸」という。)の船尾灯であることを知り、同時44分鞍掛島灯台から260度1.1海里の地点に至り、同船を右舷船首36度280メートルに見るようになったとき、針路を105度に転じたところ、その後自船は三社丸と同じ針路で、同船の左舷側近距離を追い越す態勢であることを認めて続航した。 02時55分A受審人は、鞍掛島灯台から130度1.1海里の地点に達したとき、自船の船橋が三社丸の船橋と90メートルを隔てて並航し、同時58分半同船の船橋を右舷正横後15度93メートルに見るようになったころ、右舷船首20度約1海里に前路を左方に横切る態勢の第三船を認めた。 02時59分A受審人は、鞍掛島灯台から120度1.7海里の地点に達し、自船の船橋が三社丸の船首と並び、同船の船橋を右舷正横後22度97メートルに見るようになったとき、第三船との衝突のおそれがなかったが、これを替わすこととし、自船が第三船の船尾側に向けて右転すれば、三社丸も同様に右転するものと思い、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、右舵5度をとって三社丸の船首方至近に向けて右転を始め、間もなく125度の針路として進行した。 02時59分半A受審人は、三社丸が右転しないで直進を続け、同船の船首が右舷正横前10度55メートルとなっているのを認めたものの、何とか同船の前路至近を通過できると思ってそのままの針路で続航し、03時00分少し前自船の船橋と三社丸の船首が20メートルに接近したとき、衝突の危険を感じて左舵をとったが、効なく、03時00分鞍掛島灯台から121度1.9海里の地点において、120度を向首した明力丸の右舷船尾に三社丸の左舷船首が後方から15度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 また、三社丸は、専ら砕石等の建設用資材を運搬する船尾船橋型の貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、砕石700トンを積み、船首2.4メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同日02時00分家島港内の係留地を発し、法定灯火を掲げて神戸港に向かった。 B受審人は、発航操船に引き続いて自ら単独で船橋当直に当たり、02時29分半鞍掛島灯台から267度3.3海里の地点において、針路を089度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、コントロールスタンドの左舷側に置いた椅子に腰掛けて前路の見張りに当たり、左舷船尾の明力丸と同航する態勢で進行した。 02時41分少し過ぎB受審人は、鞍掛島灯台から264度1.4海里の地点で、針路を105度に転じ、同時44分明力丸が左舷船尾24度280メートルとなったとき、同船が自船と同じ針路に転針し、その後自船の左舷側近距離を追い越す態勢で接近していたが、これに気付かないで続航した。 02時59分B受審人は、鞍掛島灯台から122度1.7海里の地点に達し、自船の船首が明力丸の船橋と並び、同船の船橋を左舷船首68度97メートルに見るようになったとき、明力丸が右舵をとって自船の船首方至近に向けて右転を開始したが、同船の右舷灯と後部マスト灯しか視認することができず、両灯火がほぼ垂直線上に見え、同船を監視していても両灯火だけでは同船が転針していることを容易に知ることができない状況であり、明力丸が右転していることに気付くことができないまま、右舷船首方の第三船を見ながら進行した。 02時59分半B受審人は、左舷船首50度55メートルのところに、明力丸が船首方至近に向けて接近していることを初めて知って衝突の危険を感じ、自動操舵のまま針路設定用のつまみを右に回して機関を停止したが、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、明力丸は右舷船尾部のブルワークに凹損を生じ、三社丸は左舷船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、播磨灘北部において、明力丸が、右舷側近距離の三社丸の船首方至近に向けて転針し、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、播磨灘北部において、右舷側近距離の三社丸を追い越す場合、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまで、三社丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷船首方に認めた第三船の船尾側を替わすこととし、自船が右転すれば、三社丸も右転すると思い、自船の船橋が三社丸の船首と並んだときに右転し、同船を確実に追い越し、かつ、これから十分に遠ざかるまで三社丸の進路を避けなかった職務上の過失により、右転しないで直進を続けた同船との衝突を招き、明力丸の右舷船尾ブルワークに凹損を、三社丸の左舷船首に凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成10年12月18日神審言渡 本件衝突は、第拾壱三社丸を追い越す第53明力丸が、その進路を避けなかったことによって発生したものである。 受審人Aを戒告する。
参考図
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