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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月8日14時00分 佐賀県唐津港東港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートサキ 全長 3.10メートル 登録長 2.64メートル 幅 1.08メートル 深さ
0.40メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
88キロワット 3 事実の経過 サキは、川崎重工業株式会社製のジェットスキー1100STX型と称するFRP製3人乗り水上オートバイで、A受審人が平成10年7月に購入後、佐賀県唐津港東港内の西の浜海水浴場の艇庫に、台車に乗せて保管し、専ら休日に同海水浴場沖合で使用していた。 ところで、西の浜海水浴場は、唐津港東港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から177度(真方位、以下同じ。)1,160メートルのところを基点とし、これから西方へ280メートルばかり延びる防波堤と、東防波堤灯台から173度1,190メートルのところを基点とし、これから東南東方へ290メートルばかり延びる防波堤に囲まれ、両防波堤の陸側には、佐賀県唐津市が平成10年7月17日から同年8月16日までの期間遊泳区域を示す目印として、同灯台から190度1,260メートルばかりのところを西端とし、これから東方へ約120メートル間隔で、オレンジ色の浮標を4個設置していた。 また、佐賀県は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条令」により、水泳場等において、モーターボート等を疾走させるなどして遊泳者等に危険を覚えさせる行為を禁止しており、唐津市では、事故防止のため、同年7月21日から翌8月31日までの期間遊泳区域内でのジェットスキー等の使用を禁止する旨の立て看板を西の浜海水浴場に設置していた。 同年8月8日13時30分ごろA受審人は、西の浜海水浴場に至り、東防波堤灯台の南方1,560メートルばかりの艇庫に保管していたサキを水際まで運び、台車から降ろして海面に浮かべたのち、1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首尾とも0.15メートルの喫水をもって、同時58分わずか過ぎ同灯台から184度1,440メートルの地点を発し、沖合に向かった。 発進後、A受審人は、数十人の海水浴客がいる状況下、安全な速力で速やかに遊泳区域外に向かわず、防波堤の外に出る前に機関の作動状態の確認と慣らし運転を行うこととし、両手で操縦ハンドルを握り、スロットルレバーを調整して10.8ノットの過大な速力とし、50メートルばかり沖合に出たところで操縦ハンドルをわずか左にとり、西側から二つ目の遊泳区域を示す浮標を左舷側に見るようにして旋回を始めた。 A受審人は、1周して発進地点付近に戻ったのち、防波堤の切れ目に向けて左旋回を続け、14時00分わずか前東防波堤灯台から180.5度1,380メートルの地点に達したとき、左舷船首方50メートルのところに、遊泳者Bと同人の夫が胸から上を海面上に出して沖合を向いているのを視認できる状況となったが、旋回していたとき、近くに遊泳者を見かけなかったことから、前路に遊泳者はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、両人に気付かないまま、他の水上オートバイが航走している防波堤の切れ目の方を見ながら同一速力で進行した。 A受審人は、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、B遊泳者を避けることができないまま、防波堤の切れ目に向けて続航中、14時00分直前船首至近のところにB遊泳者と同人の夫を初認し、急ぎ操縦ハンドルを左一杯にとるとともにスロットルレバーを戻したが、効なく、14時00分東防波堤灯台から179度1,350メートルの地点において、船首が北西方を向いたとき、ほぼ原速力のまま、サキの右舷船尾がB遊泳者の後頭部に接触した。 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、海上は穏やかであった。 その結果、サキには損傷がなかったが、B遊泳者が、頭部打撲、頚部捻挫を負ったほか、心因反応による神経症により、5箇月21日間の入院加療及び5箇月5日間の通院治療を受けた。
(原因) 本件遊泳者負傷は、佐賀県唐津港東港の西の浜海水浴場の遊泳区域において、数十人の海水浴客がいる状況下、過大な速力で旋回したばかりか、見張り不十分で、前路の遊泳者を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、佐賀県唐津港東港の西の浜海水浴場において、遊泳区域を横断して沖合に向かう場合、同海水浴場には数十人の海水浴客がいたのであるから、前路の遊泳者を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、旋回していたとき、近くに遊泳者を見かけなかったことから、前路に遊泳者はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路のB遊泳者に気付かず、同人を避けることができないで同人との接触を招き、同人に頭部打撲、頚部捻挫等を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |