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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月6日06時40分 伊勢湾 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七三隆丸 漁船第一三隆丸 総トン数 13トン 14トン 全長 20.27メートル 19.70メートル 幅 4.38メートル
4.35メートル 深さ 1.44メートル 1.58メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 160
160 3 事実の経過 第七 三隆丸は、従船として、第一 三隆丸は、主船として、両船で2そう船びき網漁業に従事するFRP製漁船で、第七
三隆丸(以下「従船」という。)にはA受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、第一
三隆丸(以下「主船」という。)にはB受審人及び甲板員Dが2人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、いわし漁の目的で、平成10年2月6日04時30分愛知県豊浜漁港を発し、05時40分同漁港の南東方約5海里の漁場に至り、主船から投じた漁具の左側を従船が、右側を主船がそれぞれ曳(ひ)き、操業を開始した。 ところで、主船は、船首端から後方8.4メートルまでが前部甲板で、船体中央部に操舵室とそれに続く機関室を設け、機関室囲壁の右舷側後部には操舵及び機関遠隔操縦装置(以下「後部操縦装置」という。)があり、同室後端から船尾端に至る長さ6.6メートルの間が後部甲板で、船尾端から前方4.4メートルの後部甲板上には、ドラム2台を左右に並べたトロールウインチが備えられ、その右舷側に操縦レバーが設置されていた。船尾端から前方7.0メートルのところには門型マストがあって、その上部両舷に直径3センチメートル(以下「センチ」という。)長さ7メートルのY字状の曳(えい)網索が取り付けられ、同索の後端には右曳き綱に連結するためのフックが付けられていた。そして、操舵室前面から後方に1.75メートル甲板上の高さ45.5センチの機関室両舷側の囲壁には、直径19センチ高さ30センチの索巻取り用ウインチのワーピングエンドが、縦60センチ横50センチ厚さ6センチの補強木板で囲壁を補強した上に外側に突出するように設けられ、ワーピングエンドの中心から前後方向へ各20センチの位置には、綱寄せと称する直径4センチ長さ52センチの金属製スタンドローラ2基が、L字状となった下部を直径1.2センチ長さ12センチのステンレス製ボルト3本で甲板上の高さ26センチの補強木板上にそれぞれ取り付けられていて、索類をスタンドローラと囲壁との間に導いてからワーピングエンドで巻き取るようになっていた。左右のドラム後方の船尾ブルワークには、揚網時に直径6センチ高さ60センチのたてころと称する金属製ローラを、左右2本ずつ4本を立てて2組の仮設フェアリーダとし、それらの間に漁具の左右両側を導いて左右のドラムに別々に巻き取るようになっていた。 また、従船は、主船とほぼ同型の構造及び設備であるものの、直径3センチ長さ7メートルの曳網索が、その中間で3本に枝分かれして、船尾端から前方7.0メートルのところに備えられた十字型マストの左右両舷及び中央の3点に取り付けられ、同索の後端にはえびじゃこと称する左曳き綱に連結するためのスリップフックが取り付けられていた。 漁具は、直径3センチ長さ120メートルの合成繊維製左右曳き綱、同綱に続く長さ180メートルの手網及び長さ50メートルの袋網で構成されていて、左右の曳き綱は、前端から長さ45メートルのところで、長径13.5センチ短径9センチ太さの直径2.3センチ重さ1.5キログラムのC型金具2個で連結され、同綱前端のアイにもC型金具が付けられていて、主船の左右ドラムにより漁具を投網及び揚網するようになっていた。左曳き綱を主船と従船との間で受け渡しするためには、まわし綱と称する直径2センチ長さ25メートルで、端にアイが入り、もう一方の端にC型金具が付けられた合成繊維製索が使用されていた。 B受審人は、従船を左側に、主船を右側に位置させ、両船を指揮しながら操業を続け、06時19分尾張野島灯台から235度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点において、両船の針路を117度に定め、2.0ノットの曳網速力として手動操舵で進行し、同時30分従船を主船の左舷側数メートルに位置させて揚網準備のためのよせ曳きを行うこととしたが、その際、主船が漁具の巻取りを開始すれば後退して従船と離れるので、まわし綱の受け渡しをしたのちに従船が機関を使用することはあるまいと思い、従船船長としての操業経験の浅いA受審人に対し、揚網作業中の機関操作時には、推進器付近の状況確認を十分に行うよう指示しなかった。 A受審人は、手動操舵で主船の左側について曳網していたところ、06時30分B受審人の合図を受けて、主船の左舷側至近に位置させてよせ曳きを開始し、後部甲板に移動してスリップフックに掛けられた左曳き綱前端とまわし綱とをC型金具で連結したうえ、まわし綱のもう一方の端を主船のD甲板員に手渡し、再び後部操縦装置についてB受審人の次の指示を待った。 一方、主船では、従船から受け取ったまわし綱のアイを左舷後側のスタンドローラに掛けて仮止めし、仮設フェアリーダを立ててその間にまわし綱を導くなどの作業がD甲板員によって行われた。 B受審人は、従船に左曳き綱のスリップフックを解放させたら、D甲板員に左舷側ワーピングエンドでまわし綱及び左曳き綱の45メートル部分までを巻き揚げさせ、左曳き綱をC型金具の部分で切り離して左ドラムに連結させるとともに、右曳き綱を曳網索のフックから右ドラムに付け替えさせたうえ、左右のドラムによって曳き綱、手網、袋網の順で巻き揚げることとし、06時39分半従船の機関を中立にするようA受審人に指示し、自身も主船の機関を中立に操作した。 A受審人は、B受審人の指示を受けて、直ちに従船の機関を中立とし、後部甲板に移動してスリップフックを解放する機会を待ったところ、やがて両船が漁網の重みで極ゆっくりと後退を始め、その後左曳き綱がたるんだので、06時40分少し前スリップフックを解放したが、従船船長としての操業に慣れていなかったことから急いで主船より離れようと思い、主船に渡したまわし綱等の漁具の伸張方向を確かめるなど、機関操作時の推進器付近の状況確認を行うことなく、直ちに後部操縦装置に移動し、同時40分わずか前中立回転のままクラッチを前進に操作したところ、C型金具の重みで沈み従船の推進器至近に存在していたまわし綱を巻き込み、推進器の異音とD甲板員の叫び声を聞いて主船上の同綱が緊張していることに気付き、機関を中立にしたものの、06時40分尾張野島灯台から195度1,700メートルの地点において、主船と従船が船首を117度に向け舷側を2.5メートル離して並び、行きあしがなくなったとき、まわし綱のアイを仮止めしていた主船の左舷後側スタンドローラが、同綱に働いた張力によりその取付け部の機関室囲壁及び補強木板を破壊して左端の仮設フェアリーダに向かって飛び、まわし綱を左舷側ワーピングエンドで巻き取るために主船後部甲板の左舷側前部を移動中の、D甲板員の左鼠蹊(そけい)部を強打した。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、海上は穏やかで、日出時刻は06時46分であった。 B受審人は、主船の機関を中立にして操舵室からトロールウインチの操縦レバー付近に移動し、従船の方を見たところ、D甲板員が海中に落ちていることに気付いて事故を知り、事後の措置にあたった。 D甲板員(昭和42年3月10日生)は、左舷側より海中に転落し、タイヤフェンダにつかまって自力で海中から従船に這(は)い上がったものの、左大腿静脈断裂による出血が続き、巻き込んだまわし綱を切断した従船によって豊浜漁港に運ばれ、病院で手当てを受けたが、出血多量により死亡した。
(原因) 本件乗組員死亡は、日出前の薄明時、伊勢湾において、従船及び主船の両船が2そう船びき網漁の操業中、揚網作業を行う際、機関操作時の推進器付近の状況確認が不十分で、従船が主機を前進にかけて推進器付近に存在するまわし綱を巻き込み、その張力により同綱アイを仮止めしていた主船のスタンドローラが船体取付け部を破壊して飛び、主船の甲板員を強打したことによって発生したものである。 推進器付近の状況確認が不十分であったのは、主船船長が、操業時の操船経験の浅い従船船長に対して、機関操作時の推進器付近の状況確認について指示しなかったことと、従船船長が、機関操作時に推進器付近の状況確認を行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、日出前の薄明時、伊勢湾において、2そう船びき網漁の従船船長として揚網作業を行う場合、主船に渡したまわし綱等の漁具の伸張方向を確かめるなど、機関操作時の推進器付近の状況確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、急いで主船より離れることに気を取られ、機関操作時の推進器付近の状況確認を十分に行わなかった職務上の過失により、まわし綱が従船の推進器至近に存在していることに気付くことなく、主機を前進に操作して推進器に巻き込み、その張力により同綱アイを仮止めしていた主船のスタンドローラが船体取付け部を破壊して飛び、主船甲板員の左鼠蹊部を強打して出血多量により死亡させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、日出前の薄明時、伊勢湾において、2そう船びき網漁の主船船長として揚網作業を指揮する場合、従船船長の操業経験が浅いことを知っていたのであるから、機関操作時の推進器付近の状況確認について従船船長に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、主船が漁具の巻取りを開始すれば後退して従船と離れるので、従船が機関を使用することはあるまいと思い、機関操作時の推進器付近の状況確認について従船船長に指示しなかった職務上の過失により、従船が推進器付近の状況確認をしないまま機関を操作し、前示のとおり甲板員を死亡させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |