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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年10月14日05時10分 鹿児島県奄美大島久慈湾 2 船舶の要目 船種船名
引船第十弘洋丸 起重機船弘恵21号 総トン数 19トン 全長 17.70メートル 48.00メートル 幅
20.00メートル 深さ 3.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
956キロワット 3 事実の経過 第十弘洋丸(以下「弘洋丸」という。)は、鋼製の引船で、専ら港湾工事に使用する起重機船のえい航作業に従事し、A受審人が単独で乗り組み、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、船首尾とも1.5メートルの等喫水で、B及びC両指定海難関係人ほか2人の作業員を乗せた非自航の起重機船弘恵21号(以下「弘恵」という。)の船尾にえい航索を取り、台風避難のため、平成10年10月13日15時00分鹿児島県沖永良部島知名漁港を発し、同県奄美大島久慈湾に向かった。 ところで、B指定海難関係人は、一級小型船舶操縦士の海技免状を受有し、新造時から弘恵に乗り組み、その後同船の作業責任者として約3年の経験があり、これまで、何度となく弘恵の投錨作業の経験を有していた。そして、夜間投錨の際には、錨地に到着した弘洋丸が、灯火による合図を送ると同時に減速を始めるので、同人がこの合図を認めて数分後に錨を投入するよう指示していた。 A受審人は、翌14日05時01分オネン埼灯台から105度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点で、針路を036度に定め、4.5ノットのえい航速力で、手動操舵により進行し、同時03分錨地に着いたので、これまで通り自船の通路灯を点滅して合図を送ったが、前方の養殖筏の灯火に気をとられ、弘恵の投錨に備えて速やかに減速することなく、同じ針路及び速力で続航した。 一方、B指定海難関係人は、錨地に接近したので、作業員を配置に就け、同日05時03分合図の灯火の点滅を認め、同時08分投錨することとしたが、これまで通り弘洋丸が減速したものと思い、えい航索の張り具合を見るなどして、減速措置がとられているかどうかの確認をすることなく、C指定海難関係人に錨を投入するよう指示した。 C指定海難関係人は、弘恵の船首右舷側の揚錨機に就き、B指定海難関係人の指示を待っていたところ、05時08分投錨の指示を認め、揚錨機のブレーキを解除して錨を投入し、鋼製の錨索を150メートルばかり延出したところで同ブレーキを利かせたものの、行き足が過大であったため同錨索の延出が止まらず、前方に養殖筏があることを知っていたので、ブレーキハンドルを増し締めした。 弘恵は、05時10分少し前B指定海難関係人が行き足が過大であることに気付いて弘洋丸に停止するよう電話で連絡したが及ばず、弘洋丸に引かれて続航中、05時10分オネン埼灯台から071度1.1海里の地点において、弘恵の船首右舷側の揚錨機のブレーキライニングを焼損して約300メートルの錨索が全量延出し、同索端が外れて跳ね、安全なところに避難しようとしていたC指定海難関係人の左手に当たった。 当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 その結果、C指定海難関係人は左前腕手を切断した。
(原因) 本件作業員負傷は、夜間、奄美大島久慈湾において、弘洋丸がえい航中の非自航の弘恵を錨泊させるため投錨作業を行う際、弘洋丸が減速しなかったことと、弘恵が減速措置がとられているかどうかの確認をせず、過大な速力のまま錨を投入し、ブレーキライニングを焼損して錨索を全量延出し、同索端が外れて跳ねたこととによって発生したものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、奄美大島久慈湾において、えい航中の非自航の弘恵を錨泊させるため投錨作業を行う場合、これまで通り、錨地に到着したとの合図を送ったあと速やかに減速すべき注意義務があった。ところが、同人は、前方の養殖筏の灯火に気をとられ、速やかに減速しなかった職務上の過失により、錨を投入した弘恵の揚錨機のブレーキライニングを焼損して鋼製の錨索を全量延出させ、同索端が外れて跳ね、C指定海難関係人の左手に当たって同人の左前腕手を切断せしめるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、奄美大島久慈湾において、非自航の弘恵の錨を投入するよう指示する際、減速措置がとられているかどうかの確認を行わなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しないが、今後、えい航索の張り具合を見るなどして、減速措置がとられていることを確認した後、錨を投入するよう指示するべきである。 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |