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2000年(平成12年)

平成11年那審第43号
    件名
旅客船サザンキング旅客負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年2月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

清重隆彦、金城隆支、花原敏朗
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:サザンキング船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
旅客1人が、全治4週間の胸椎圧迫骨折の重傷

    原因
減速措置不十分(うねりと波浪とによる動揺及び衝撃緩和)

    主文
本件旅客負傷は、うねりと波浪とによる動揺及び衝撃を緩和する減速措置が十分でなかったことによって発生したものである。
運航管理者が、乗組員に対し、荒天航海中の大幅な減速及びシートベルトの着用についての指導を行っていなかったことは本件発生の原因となる。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月6日08時35分
沖縄県西表島仲間港沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船サザンキング
総トン数 19トン
全長 26.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,529キロワット
3 事実の経過
サザンキングは、船首部に操舵室が、その後方に長さ約10メートル、幅約3.5メートルの客室が、さらにその後方に遊歩甲板がそれぞれ配置され、客室にシートベルトが取り付けられた66席、遊歩甲板に24席のいずれもいす席が設置された旅客定員90人の2基2軸軽合金製高速旅客船で、沖縄県石垣港と同港周辺の離島との間で定期運航に従事していたところ、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客36人を乗せ、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年6月6日08時10分石垣港を発し、同県西表島仲間港に向かった。
ところで、石垣島地方気象台は、同月5日15時00分波浪警報及び強風注意報を、沖縄気象台は、同日17時00分、先島諸島は台湾の南西海上を北西に進む大型の台風3号の台風域に入って東の風が強まっており、明日にかけて東のち南東の風が強い見込み、波がうねりを伴って高く、今夜から大しけとなるので船舶は厳重に警戒するようにとの天気概況を、それぞれ発表していた。

一方、B指定海難関係人は、R株式会社の運航管理者として、同社所有の15隻の船舶の運航を管理するとともに、乗組員に対して運航管理規程の運航基準を遵守するよう指導し、必要と認められるときには乗組員を集めて運航についての安全教育を行い、荒天時の船体動揺に対しては、過去の船体動揺による旅客負傷事件に照らし、旅客の安全確保のため減速するよう一応指導していたが、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速すること及びサザンキングの客室各座席にはシートベルトが取り付けられていたにもかかわらず、同ベルトの装着を促す船内放送を行うなど、旅客の安全確保について適切な措置がとれるよう、乗組員に対する指導を十分に行っていなかった。
発航後、A受審人は、甲板員を見張りに配し、自らは操舵室右舷側の運転席に腰を掛けて操船にあたり、竹富島南方を経て大原航路に入り、大原航路第8号立標(以下、立標の名称については「大原航路」の冠称を省略する。)に接近したとき、南西からのうねりが高まってきたので、速力を38.0ノットの全速力前進から27.0ノットに減じ、旅客に対し、荒天となったので椅子から立たないよう船内放送を行ったものの、シートベルトの装着を促すことも、甲板員に船内巡視を行わせることもしないで、その後機関を適宜使用して高波を避けながら同航路を西行した。

A受審人は、08時31分少し前第15号立標から163度(真方位、以下同じ。)110メートルの地点で、針路を253度に定め、機関を20.0ノットの半速力に掛けて進行し、同時34分半少し過ぎ第17号立標から060度500メートルの地点に達したとき、左舷船首方からのうねりによって船体の動揺が激しくなったので、11.0ノットに減速したが、速力を減じたので大丈夫と思い、旅客に危険を及ぼさない程度に動揺と衝撃を緩和するため、大幅な減速措置をとることなく、同じ針路及び速力で続航し、同時35分少し前突然高起した波浪を認め、機関を極微速力前進とした。
しかし、サザンキングは、その効なく、08時35分第17号立標から045度300メートルの地点において、船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下した。そのとき、客室右舷前部で前席の背もたれに取り付けられた取っ手に掴まり、中腰状態で身体への衝撃を和らげていた旅客Cが、上方に放り出されて落下し、床面に打ち付けられた。

当時、天候は曇で、風力6の南東風が吹き、南西方からのうねりが高く、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には前日から波浪警報及び強風注意報が発表されていた。
A受審人は、船内巡視を行った甲板員から激しい船体の動揺で旅客が負傷しているとの報告を受け、そのまま仲間港に向かい、他の旅客を降ろした後、石垣港に引き返して負傷者を病院に搬送した。
その結果、C旅客は、全治4週間の胸椎圧迫骨折の重傷を負った。
B指定海難関係人は、本件後、全乗組員を集め、緊急の乗組員安全講習会を開き、荒天時の大幅な減速及びシートベルトの着用等について指導し、その後も定期的に同講習会を開き、安全運航の確保についての指導を行った。


(原因)
本件旅客負傷は、波浪警報及び強風注意報が発表され、南西からの高いうねりがある状況下、石垣港から仲間港に向け、大原航路を西行中、船体動揺が激しくなった際、うねりと波浪とによる動揺及び衝撃を緩和する減速措置が不十分で、高起した波浪により船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下し、中腰状態の旅客が上方に放り出されて落下し、床面に打ち付けられたことによって発生したものである。
運航管理者が、乗組員に対し、荒天航海中の大幅な減速及びシートベルトの着用についての指導を行っていなかったことは本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、波浪警報及び強風注意報が発表され、南西からの高いうねりがある状況下、石垣港から仲間港に向け、大原航路を西行中、船体動揺が激しくなった場合、高起した波浪による動揺及び衝撃を緩和する減速措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、少し速力を減じたので大丈夫と思い、大幅な減速措置をとらなかった職務上の過失により、高起した波浪により船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下し、中腰状態の旅客が上方に放り出されて落下し、床面に打ち付けられて胸椎圧迫骨折の重傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、運航管理者として、乗組員に対し、荒天航海中の大幅な減速及びシートベルトの着用についての指導を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。

B指定海難関係人に対しては、本件後、乗組員に対し、荒天航海中の大幅な減速及びシートベルトの着用等について徹底させるなどの指導を行っている点に徴し勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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