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2000年(平成12年)

平成11年神審第88号
    件名
旅客船まりーんふらわあ2潜水者死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年2月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、米原健一、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:まりーんふらわあ2船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
潜水夫が、脳幹部断裂で死亡

    原因
プロペラ翼に絡んだ異物の除去作業時における安全措置不十分

    主文
本件潜水者死亡は、プロペラ翼に絡んだ異物の除去作業時における安全措置が不十分であったことによって発生したものである。
潜水者が、作業続行の意志を明確に示さなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月7日19時39分
兵庫県岩屋港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船まりーんふらわあ2
総トン数 104トン
全長 31.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,618キロワット
3 事実の経過
まりーんふらわあ2(以下「ま号」という。)は、直径850ミリメートルの5翼固定ピッチプロペラを有する2基2軸の軽合金製旅客船で、兵庫県明石、岩屋両港間を13分間で結ぶ定期運航に従事していたところ、A受審人ほか機関長B及び操機手が乗り組み、旅客102人を乗せ、船首尾とも0.90メートルの喫水をもって、平成10年10月7日19時00分明石港を発し、岩屋港に向かった。
A受審人は、明石港内で回頭中、船体に異常な振動を感じたことから、水中に浮遊する漁網などの異物が左舷プロペラ翼に絡んだものと判断し、港外に出たところで左舷主機を前進及び後進にかけたが、その振動を解消することができなかったので、右舷主機のみで航海を続行した。そして、その途中の19時10分岩屋港の代理店を経由して潜水夫Cにプロペラ翼異物除去の潜水作業を依頼し、同時27分同港に入港して連絡船発着所浮桟橋(以下「浮桟橋」という。)西側の中央位置にま号の乗降口を合わせ、船首にバウライン及びブレストラインを、船尾にスタンラインをそれぞれ1本取り、入船左舷付けで着桟した。

浮桟橋は、長さ40メートル幅12.5メートル海面から上面までの高さおよそ1.5メートルで北向きに設置され、ま号の船尾照明から陰になっている北面の西端近くには、上面から海面まで昇降できる垂直はしごが取り付けられていた。
ところで、C潜水夫は、兵庫県洲本市に居住し、1年ばかり前に前任者から引き継いで岩屋港における船舶の潜水作業を請け負うようになり、依頼があればおよそ40分で着桟中の船舶に到着して船長と打合せを行ったあと、潜水器具を背負って単独で同作業を始め、通常は5分ないし15分間に1回または複数回潜水して異物を取り除き、それを浮桟橋上に引き揚げたのち、船長に作業内容を報告して潜水作業を終えていた。
また、A受審人は、昭和41年R株式会社に入社以来、同社に所属するフェリー等に甲板員や航海士で乗り組み、平成5年からは船長としてま号を含めた3隻の定期旅客船の運航に当たっていたもので、潜水夫が行う潜水作業の実態を承知していた。

A受審人は、着桟したとき、C潜水夫が浮桟橋の50メートル西方の東防波堤東側に係留されていた旅客船こすもすで、プロペラ翼に絡まった異物除去のための潜水作業に携わっていることを知っていたので、その作業終了後に来船して打合せを行ったのち、すぐに自船の作業に取り掛かってもらうこととし、両舷主機を停止のうえ、旅客を下船させた。やがて、ま号が折からの東風により浮桟橋から1メートルばかり離されたため、脱落の危険があった乗降用タラップを取り外し、19時30分船尾甲板に行ったところ、浮桟橋上にいたB機関長から船尾付近の海面に気泡が上がっているとの報告を受け、同潜水夫が打合せを行わないまま、すでに作業を開始していることを知った。
19時37分A受審人は、船尾甲板にいたとき、海面に浮上してきたC潜水夫が絡まっていたロープと網を持って5メートルばかり離れた浮桟橋北西端に向かって泳いでいくのを認め、いままで1回の潜水で作業が終わることが多かったことから、同潜水夫が潜水作業を終えたものと思い、すでに出航予定時刻を7分過ぎており、浮桟橋上に旅客が待っていたので、作業が終わったかどうか確認することなく、主機を使用して船体を浮桟橋に寄せ乗降用タラップを取り付けることができるよう、船体中央部に配置された操舵室に向かった。

一方、C潜水夫は、浮桟橋北面の垂直はしご付近の海面で、B機関長と操機手にフックを用いて異物を浮桟橋上に引き揚げさせたものの、このとき引き続いて作業を行うことを同機関長などに明確に示し、そのことをA受審人に伝えるよう依頼しないまま、残りの異物除去のため再び潜水した。
操舵室に戻ったA受審人は、浮桟橋北西端上に引き揚げられたロープなどの異物を確認しただけで、C潜水夫から潜水作業終了の報告を受けるなど船尾付近の安全を確認することなく、同潜水夫が同作業を続行していることに気付かないまま、異物の引揚げを手伝っていた操機手を呼んで船首配置に就け、19時38分両舷主機を起動し、同時39分少し前左舵10度とし右舷主機を前進に左舷主機を後進にかけたところ、19時39分岩屋港西防波堤灯台から真方位127度200メートルの地点において、C潜水夫は、回転した左舷プロペラ翼に頭部を強打された。

当時、天候は雨で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、左舷船首部を浮桟橋に寄せ再びタラップを掛けたあと、旅客の乗船開始を浮桟橋側作業員に知らせようと浮桟橋に行ったところ、船尾付近の海面に浮き上がったC潜水夫(昭和23年12月13日生)を見つけた同作業員から事故を聞き、直ちに救助のうえ手配した救急車で病院に搬送したが、同潜水夫は、脳幹部断裂で死亡していた。


(原因)
本件潜水者死亡は、夜間、兵庫県岩屋港において、プロペラ翼に絡んだ異物除去の潜水作業終了を待って機関を使用する際、作業終了を確認するなど安全措置が不十分で、同作業中に機関を使用し、潜水者が回転したプロペラ翼で頭部を強打されたことによって発生したものである。
潜水者が、異物を乗組員に引き揚げさせたとき、作業続行の意志を明確に示さなかったことは、本件発生の原因となる。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、岩屋港において、プロペラ翼に絡んだ異物除去の潜水作業終了を待って機関を使用する場合、潜水者に対して同作業終了の確認を行うなど安全措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同潜水者がロープ等の異物を持って泳いでいく姿を見て潜水作業が終了したものと思い、潜水者に対して同作業終了の確認を行うなど安全措置をとらなかった職務上の過失により、再度潜水した潜水者がプロペラ付近で作業中に機関を使用し、同潜水者の頭部を左舷プロペラ翼で強打して死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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