日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年那審第34号
    件名
旅客船フェリーかけろま旅客負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年1月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:フェリーかけろま船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
旅客1人が約2箇月の入院加療を要する左足関節及び両下腿骨骨折

    原因
甲板上における台車の移動防止措置及び旅客の安全確保の配慮不十分

    主文
本件旅客負傷は、荷物運搬用手押し台車の移動防止措置及び旅客の安全確保についての配慮がいずれも不十分であったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年3月3日14時01分半
鹿児島県古仁屋港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーかけろま
総トン数 194トン
全長 35.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
3 事実の経過
フェリーかけろま(以下「かけろま」という。)は、平成6年7月に進水した鋼製船首船橋型旅客船兼自動車渡船で、鹿児島県古仁屋港の奄美大島古仁屋のフェリー専用岸壁(以下「専用岸壁」という。)を基点として、同県加計呂麻島瀬相及び生間間の定期航路に従事していた。
船体は、1層甲板型で、船首台甲板後方の船体のほぼ3分の2を占める船楼が、上方を遊歩甲板、下方を船尾楼甲板とした2層構造となっていて、遊歩甲板は操舵室の後方が事務室、船員休憩室及び客室にそれぞれ区画され、客室外側の暴露部と船尾楼甲板には、椅子席を設置して旅客搭載区画としていた。また、上甲板は、後方に操舵機室及びシルバー室と称する主に高齢者用の旅客定員が15人の客室(以下「シルバー室」という。)等が配置され、その前方が車両区域(以下「車両甲板」という。)となっていて、車両甲板船首側に旅客及び車両乗降用のランプウェイを備えていた。上甲板下は、ボイドスペース、サイドスラスタ室、燃料油槽、機関室、汚水処理装置室及びバラストタンクが区画されていた。

A受審人は、平成6年7月、進水時から船長として乗り組み、入出航操船に当たるとともに、運航管理規程に基づいて乗組員に対して安全管理の確保に努めるよう指導していた。
B指定海難関係人は、平成8年6月から事務長及び甲板員として乗り組むとともに、運航管理規程に定められた船内作業指揮者としての業務にも従事していた。
C指定海難関係人は、平成2年2月から鹿児島県大島郡瀬戸内町の運航管理者として、同町所有の旅客船2隻の運航を管理するとともに、1箇月に1ないし2回は訪船し、乗組員に対して運航管理規程の遵守及び輸送の安全確保などについての安全教育を実施していた。
ところで、車両甲板は、両舷側が歩行者用通路として白線で仕切られ、中央部両舷に荷物置場として木製のすのこが設置され、さらに同部左舷に手荷物用の棚が設けられ、その後方には、荷物運搬用手押し台車(以下「台車」という。)が1台、鉄製の車輪止めで固定して格納されていた。

また、運航管理規程に基づく作業基準では、船内作業指揮者は、船内作業員を指揮して乗下船する旅客及び車両の誘導、固縛装置の着脱並びにその他旅客及び車両の乗下船に関する作業を実施し、さらに、車両の積込みが終了したときには、作業員を指揮して旅客が車両甲板に残留していないことを確認したのち客室と車両甲板間の通路または昇降口を遮断し、船長にその旨を報告するよう定められていた。
かけろまは、専用岸壁を出航するにあたり、平成11年3月3日13時40分から旅客の乗船を開始し、その後荷物などの搭載を行った。
13時45分B指定海難関係人は、旅客Dが杖をついて、車両甲板の左舷側歩行者用通路の船首付近を船尾方向に向かって1人でゆっくり歩いているのを見かけ、同旅客がこれまでもシルバー室を利用していたことから、同室に行くものと思い、そのまま同甲板上の旅客の手荷物が置いてある棚を点検するなどの作業に当たった。

B指定海難関係人は、14時少し前折から25キログラム入りのセメント袋を10個搭載したトラックが車両甲板の右舷側に停車したので、同袋を降ろすため、同甲板左舷に置いてあった台車を右舷中央位置に移動させ、これに積み替えさせたが、その後、他の貨物の点検作業などに気を取られ、台車の車輪止めを取り付けるなど移動防止措置をとることなく、そのまま放置し、引き続き同作業に当たり、車輪止めのことについては失念し、車両甲板上に車両が搭載されていなければ、船体の傾斜によって、台車が左舷側に向かって滑りだすおそれがあることに気付かなかった。
こうして、かけろまは、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、旅客31人及びオートバイ1台などを載せ、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、14時00分専用岸壁を発し、瀬相へ向かった。

B指定海難関係人は、発航直後、車両甲板中央の左舷側通路をシルバー室に向かって歩いていたD旅客を再び見かけ、乗船券を受け取ったものの、すでに出航して車両甲板への旅客の立入りが禁止されていたにも拘らず、すみやかに同甲板から退避させるよう、安全な場所に誘導するなど、旅客の安全確保について十分配慮せず、そのまま、他の旅客の乗船券を回収するためにシルバー室に赴き、その後、事務室に戻った。A受審人は、船橋で操舵操船に当たり、14時00分機関を微速力後進にかけて離岸後、機関及びサイドスラスタを使用しながら船尾を左方に振り、その後、機関を微速力前進にかけ、船首を港口に向けるため、右転した。
かけろまは、防波堤手前でほぼ船首が港口に向くとともに、大きく左舷側に傾斜し、14時01分半奄美瀬戸埼灯台から真方位110度1,260メートルの地点において、車両甲板右舷側にセメント袋を積んだまま置いてあった前示台車が、同甲板上を左舷側に向かって滑りだし、折から同甲板左舷側通路を歩行中のD旅客を直撃した。

当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、14時20分機関長から、機関室を出て車両甲板を通ったときに、同甲板左舷側の荷物置場の上に負傷して座っていたD旅客を発見した旨の報告を受け、瀬相の入航が間近であったことから、B指定海難関係人に同旅客の処置を指示し、入航作業に備え、入航後、直ちにD旅客を最寄りの病院に搬送するなど、事後の措置に当たった。
その結果、D旅客は約2箇月の入院加療を要する左足関節及び両下腿骨骨折を負った。
C指定海難関係人は、本件後、直ちに全乗組員に対し、運航管理規程の遵守の徹底を図り、旅客の誘導及び船内巡視の励行並びに車両及び台車などの車輪止めの施行を徹底させるなど、旅客の安全確保についての指導を行った。


(原因)
本件旅客負傷は、鹿児島県古仁屋港の専用岸壁を発航する際、車両甲板上における台車の移動防止措置及び旅客の安全確保についての配慮がいずれも不十分で、右転して生じた船体の傾斜で移動した台車が、同甲板を歩行中の旅客を直撃したことによって発生したものである。


(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、鹿児島県古仁屋港の専用岸壁を発航する際、台車の移動防止措置を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対して勧告しないが、以後、運航管理規程の遵守に努めなければならない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION