|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月13日11時05分 兵庫県東播磨港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第十八岬秀丸 総トン数 414トン 全長 56.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,103キロワット 3 事実の経過 第十八岬秀丸(以下「岬秀丸」という。)は、旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を装備した船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人、一等航海士B及び二等航海士Cほか3人が乗り組み、海砂1,000トンを載せ、船首3.10メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、平成10年9月12日11時45分山口県徳山下松港を発し、翌13日06時20分兵庫県東播磨港に入港して海砂の除塩作業を行ったのち、10時35分同港高砂公共ふ頭に右舷付け着岸した。 ところで、岬秀丸は、船体中央部に長さ15.95メートル幅9.10メートルの倉口を有する船倉1個を備え、倉口の周囲に高さ90センチメートル(以下「センチ」という。)のハッチコーミングが設けられ、船首側ハッチコーミングの外側には左右両端からそれぞれ1.40メートル内寄りに、倉内の海水を排出するための排水トランク(以下「トランク」という。)が突き出ていて、倉口横の右舷側通路沿いにほぼ船体全長にわたり、直径約45センチの海砂採取用サンドホース1本が収めてあった。 クレーン機械室は、長さ7.20メートル幅5.30メートル高さ3.00メートルで、ジブブームが取り付けてある前部右側に操縦席が設けられ、船体中心線上の船首側ハッチコーミングから2.60メートル前方の位置を中心とする上甲板の台座上に据え付けられていて、機械室の最大旋回半径は台座中心から4.80メートルで、クレーンを旋回させると機械室後部の一部がハッチコーミングを越えて船倉上に2.20メートルはみ出すようになっており、機械室外縁下端とハッチコーミング上縁との間隔が20センチであった。 また、操縦席からの見通しについては、前方及び右方は良いものの、左方は小窓のみで、前部左舷側下方が構造物により妨げられ、また後方は壁に遮られて全く見通すことができなかった。 上甲板上には、クレーン台座を囲んでクレーン機械室の旋回範囲の外周に沿って、危険区域を示す高さ約1メートルのハンドレール式防護柵(以下「防護柵」という。)がほぼ円弧状に設けられていたが、船首側ハッチコーミングから前方約1メートルの範囲は、海砂採取時に排水設備のバルブを操作するなどの必要から、防護柵が設けられておらず、旋回圏内へ立ち入ることが可能となっていた。 A受審人は、平成6年岬秀丸に乗り組み、安全担当者を兼ね作業全般の統括に当たっており、クレーンの運転中に乗組員がクレーン機械室の旋回の合間をみて、防護柵が設けられていない箇所から同柵の内側に立ち入り左舷または右舷に通行することがあることを知っていた。しかし、同人は、乗組員が乗船した当初、クレーンの運転中にクレーン機械室の旋回圏内に立ち入らないようにと注意を与え、乗組員も経験豊富でこれまで事故もなかったことから、改めて対策をとる必要はないものと思い、防護柵が設けられていない箇所に立入禁止ロープを張らせなかったうえ、クレーン運転中は防護柵の内側に入らないよう指示していなかった。 B一等航海士は、岬秀丸に乗船して6箇月余りで、これまで何十回となく海砂採取や揚荷作業に従事し、長袖の作業服上下に、ゴム長靴及び軍手を着用し、野球帽及びヘルメットをかぶって、着岸作業に引き続き海砂の揚荷準備に取り掛かり、海砂落下防止用ビニールシートを倉口前部横の右舷側通路から岸壁に展張し、その後砂で汚れた船首甲板の洗浄作業に当たった。 一方、A受審人は、着岸後、自ら船橋前の上甲板に設けた貨物用選別機のシューターをトップアップしたのち、落下防止用ビニールシートが敷かれ、揚荷作業の準備が整ったことを確認したところで、C二等航海士にクレーンの運転を行わせて、船倉に積んでいた海砂の陸揚げ開始を指示し、間もなくたばこを買うため上陸した。 こうして岬秀丸は、海砂の陸揚げが開始され、B一等航海士は、船首甲板の洗浄作業を終えたところで、防護柵が設けられていない箇所を右舷側から左舷側に通行したものか、クレーンの運転中、誰も気付かないまま左舷側トランク付近の防護柵の内側に立ち入っていたところ、11時05分東播磨港高砂西防波堤灯台から真方位028度450メートルの着岸地点において、旋回してきたクレーン機械室後部とハッチコーミングとの間に胸部を挟まれた。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 C二等航海士は、クレーンのジブブームを船倉から岸壁上に往復させ、グラブバケットで20回ほど揚げたとき、船首側ハッチコーミング横の左舷側通路付近に倒れているB一等航海士(昭和24年4月25日生、四級海技士(航海)免状受有)を目撃して駆けつけてくる機関長の合図で異常に気付き、直ちにクレーンの運転を中止した。 一方、A受審人は、帰船途中、異常事態の発生を伝えにきた一等機関士からの報告を受けて事故の発生を知り、急いでB一等航海士を最寄りの病院に搬送したが、12時02分同航海士は気道破裂及び出血性ショックにより死亡した。
(原因) 本件乗組員死亡は、東播磨港において、クレーンを使用して海砂の陸揚げを行う際、クレーン運転時の安全措置が不十分で、乗組員がクレーン機械室の旋回範囲の危険区域を示す防護柵の内側に立ち入り、同機械室とハッチコーミングとの間に挟まれたことによって発生したものである。 安全措置が十分でなかったのは、船長が乗組員に防護柵の設置されていない箇所に立入禁止ロープを張らせなかったうえ、クレーン運転中は防護柵の内側に立ち入らないよう指示していなかったことと、乗組員がクレーン運転中に防護柵の内側に立ち入ったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、船長兼安全担当者として船内の安全管理に当たり、クレーンを使用して海砂の陸揚げを行う場合、乗組員がクレーン運転中にクレーン機械室の旋回の合間をみて、旋回範囲の危険区域を示す防護柵が設置されていない箇所から同柵内に立ち入り左舷または右舷に通行することがあることを知っていたのであるから、クレーン運転中は防護柵の内側に立ち入ることのないよう、乗組員に防護柵の設置されていない箇所に立入禁止ロープを張らせるべき注意義務があった。ところが、同人は、乗組員が乗船した当初、クレーンの運転中にクレーン機械室の旋回圏内に立ち入らないようにと注意を与え、乗組員も経験豊富でこれまで事故もなかったことから、改めて対策をとる必要はないものと思い、乗組員に防護柵の設置されていない箇所に立入禁止ロープを張らせなかった職務上の過失により、クレーン運転中、乗組員がクレーン機械室の旋回圏内に立ち入り、同機械室後部とハッチコーミングとの間に挟まれて死亡するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |