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2000年(平成12年)

平成11年門審第119号
    件名
貨物船第八保榮丸乗組員負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年8月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

原清澄、米原健一、西山烝一
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第八保榮丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
甲板員が、全身を強打して右肺挫傷及び頭部、頚骨並びに肋骨を骨折などして入院6箇月の加療を要する重傷

    原因
転落防止措置不十分(格納状態のハッチカバー上の作業中)

    主文
本件乗組員負傷は、格納状態のハッチカバー上における作業時の転落防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月25日09時20分
愛知県衣浦港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八保榮丸
総トン数 199トン
全長 55.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
第八保榮丸(以下「保榮丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、船橋前方に長さ28.00メートル幅6.80メートルの倉口を有し、その周囲に上甲板からの高さ75センチメートル(以下「センチ」という。)のハッチコーミング(以下「コーミング」という。)を設け、コーミングの縁上にはハッチレストが取り付けられ、電動油圧モーターを船橋と船尾側コーミングとの間に設置されたレバーで操作することにより、駆動用チェーンによって連結された12枚(以下、船首側から順に番号を付す。)のポンツーン型鋼製ハッチカバー(以下「カバー」という。)が、ハッチレスト上を移動して倉口を開閉する構造となっていた。

カバーは、縦2.00メートルないし2.47メートル横7.05メートル厚さ0.20メートルで、倉口を開放するとき、1番から順次倉口の船首側上甲板上へ6ないし7センチの間隔を置いて垂直に折り畳まれて格納され、格納状態となったとき、1番から12番までの前後長さが3.15メートルとなり、12番のカバー後面から船首側コーミングまでは87センチの間隔があった。
格納状態のカバー上部は、最も船尾側となる12番を除いて、倉口を閉鎖した際、隣合うカバーが接合する面で、上甲板からの高さが1番から11番までは2.80メートルであるが、12番のみ低く、11番とは32センチの段差がある状態で、12番の上部から貨物倉床面までの高さが6.98メートルであった。
ところでA受審人は、保榮丸を所有する会社の代表を務め、安全ベルト等の保護具を船内に配備するとともに、安全靴については、各乗組員の申出により適宜購入して支給し、作業の実施に当たっては、その都度事前に打合せを行い、保護具の使用を指示するなど事故防止の措置をとっていたもので、2年ばかり前カバー接合面の錆打ち及び塗装作業を格納状態のまま行った際、前部マスト及びカバーに取り付けられた金具を利用して安全ベルトや命綱を使用させた。

こうして保榮丸は、A受審人、B指定海難関係人及び機関長の3人が乗り組み、珪砂粉を積み込む目的で、空倉のまま、船首1.10メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成8年8月23日10時05分千葉県木更津港を発し、愛知県衣浦港に向かい、翌24日04時10分同港武豊岸壁に入船左舷付けで係留した。
A受審人は、24日及び翌25日がそれぞれ土曜日、日曜日に当たり荷役の予定がなかったので、24日を休養日とし、25日午前中に整備作業を行う計画を立て、係留作業終了後打合せを行い、自らが船橋前側の補油パイプの錆打ちを担当することとし、他の2名にカバーの接合面の塗装を格納状態として行わせることとしたが、長年保榮丸に乗り組んでいるB指定海難関係人や機関長が高所作業に十分慣れているので大丈夫と思い、安全ベルトなどの保護具の使用や前部マストの上部から命綱を取るなどして転落防止措置をとるよう指示しなかった。

翌25日08時30分A受審人は、船橋前側の補油パイプの錆打ちを開始し、時折振り向いては格納状態としたカバー上部を見上げ、B指定海難関係人及び機関長が塗装作業に当たっている姿を確認しながら自らの作業を続けた。
一方、B指定海難関係人は、野球帽、作業服及び運動靴を着用し、船首方を向いて腰を落とした姿勢で、安全ベルトや命綱などの保護具を使用しないまま、カバーの右舷側の塗装を開始し、同じ姿勢で順次船尾方に移動しながら塗装作業を続行中、9番の塗装を終え、10番の塗装に取り掛かろうとして足場を11番と12番との段差のあるところに移したとき、身体の平衡を失い、12番と船首側コーミングとの間隙を越え、09時20分衣浦港武豊灯台から真方位325度450メートルの地点において、貨物倉に転落した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、平穏な海面で潮候は上げ潮の初期であった。

A受審人は、船尾方を向いて作業を続行中、転落に気付いた機関長の大声を聞いて事故を知り、直ちに救急車を手配してB指定海難関係人を病院に搬送した。
転落の結果、B指定海難関係人は、全身を強打して右肺挫傷及び頭部、頚骨並びに肋骨を骨折などして入院6箇月の加療を要する重傷を負った。


(原因)
本件乗組員負傷は、愛知県衣浦港において、空倉のまま着岸中、格納状態としたカバー上部の塗装作業を行う際、転落防止措置が不十分で、作業に従事していた乗組員が、身体の平衡を失して貨物倉へ転落したことによって発生したものである。
転落防止措置が適切でなかったのは、船長が、乗組員に対し安全ベルトや命綱などの保護具を使用して転落防止措置をとるよう指示しなかったことと、乗組員が、安全ベルトや命綱などの保護具を使用しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、愛知県衣浦港において、空倉のまま着岸中、格納状態としたカバー上部の塗装作業を行わせる場合、カバー上部が平坦でなかったうえ、貨物倉床面までの高さがあったから、貨物倉に転落することがないよう、安全ベルトや命綱などの保護具を使用して転落防止措置をとるよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、長年保榮丸に乗り組んでいるB指定海難関係人が高所作業に十分慣れているので大丈夫と思い、安全ベルトや命綱などの保護具を使用して転落防止措置をとるよう指示しなかった職務上の過失により、B指定海難関係人が安全ベルトや命綱などの保護具を使用しないまま作業を行って貨物倉への転落を招き、同人に右肺挫傷及び頭部、頚骨並びに肋骨の各骨折等入院6箇月の加療を要する重傷を負わせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、愛知県衣浦港において、空倉のまま着岸中、格納状態としたカバー上部の塗装作業を行う際、安全ベルトや命綱などの保護具を使用しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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