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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月27日11時25分 福井県常神半島東岸 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートアルバトロスII 全長 2.99メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
36キロワット 3 事実の経過 アルバトロスII(以下「ア号」という。)は、ヤマハ発動機株式会社製のMJ650TLと称するFRP製3人乗り水上オートバイで、A受審人が夏の休暇時などに福井県三方五湖付近において、これに乗って航走していた。 A受審人は、3家族12人のグループで、海水浴客の少ない美浜湾に面する同県常神半島東岸の海水浴場に出かけて水上オートバイや海水浴などを楽しむこととし、平成10年8月27日10時ごろア号とモーターボートなど3艇に分乗して同海水浴場を訪れ、折から他に海水浴客のいない常神岬灯台から118度(真方位、以下同じ。)2,700メートルの海岸で、テントの設営などに取り掛かった。 テントの設営を終えたA受審人は、ア号に1人で乗り組み、航走する目的で、10時55分テント設営地点前面の海岸を発進し、沖合に向かった。こうして、同受審人は、30分間ばかり航走を楽しんだのち、海岸にいるグループの様子を見るために発進地点付近まで戻ることとし、11時22分半常神岬灯台から105度3,700メートルの地点において、針路を陸岸に沿う232度に定め、スロットルレバーを調整して21.6ノットの対地速力で進行した。 11時24分少し前A受審人は、海岸線に沿って右転し、同時24分常神岬灯台から118度3,120メートルの地点で、10.8ノットに減速するとともに海岸線の50メートルばかり沖合をほぼこれに並航する315度に転じたところ、正船首わずか右300メートルのテント設営地点に近い海面上に、浮遊する外径約1.5メートルのオレンジ色をした遊泳者用のビニール製膨張式浮き輪(以下「浮き輪」という。)を初認した。 このときA受審人は、浮き輪の浮遊場所からしてその周辺に遊泳者がいると考えられたから、遊泳者を見落とすことのないように前路の見張りを十分に行う必要があったが、その後船体中央部付近に配置された操縦席に座り、ハンドルを握った姿勢のまま左舷方の海岸で群がる鳥や子供達の遊ぶ様子などに気をとられ、前路の見張りを行うことなく続航した。 A受審人は、11時25分少し前常神岬灯台から117度2,920メートルの地点に達したとき、右舷船首3度100メートルのところに浮き輪の周辺で泳ぐ遊泳者Bを視認できる状況となったものの、依然として海岸の様子に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、その存在に気付かず、同遊泳者を避けることなく進行した。 11時25分直前A受審人は、もうしばらく沖合に出て航走を楽しもうと、右舷方を確認することなくハンドルを右一杯にとったところ、11時25分常神岬灯台から116度2,850メートルの地点において、船首が000度に向いたとき、ア号は、原速力のまま、その左舷船首がB遊泳者の前頭部に接触した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、海上は穏やかであった。 A受審人は、衝撃を感じ、直ちに行きあしを止めて後方を振り返ったところ、左舷後方3メートルに負傷して浮いているB遊泳者を初めて認め、急いで同人を収容し、手配した漁船で病院に搬送するなど、事後の措置に当たった。 その結果、ア号に損傷はなかったが、B遊泳者は、75日間の入院加療を要する開放性頭蓋骨骨折、脳挫傷及び髄液鼻漏を負った。
(原因) 本件遊泳者負傷は、福井県常神半島東岸の海水浴場沖合において航走中、見張り不十分で、遊泳者を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、福井県常神半島東岸の海水浴場沖合において航走中、船首方近距離に遊泳者用の浮き輪を認めた場合、その周辺に遊泳者がいると考えられたから、遊泳者を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷方の海岸で群がる鳥や子供達の遊ぶ様子などに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同浮き輪の周辺で泳ぐ遊泳者の存在に気付かず、遊泳者を避けないまま進行して接触を招き、開放性頭蓋骨骨折、脳挫傷及び髄液鼻漏を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |