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2000年(平成12年)

平成11年長審第81号
    件名
漁船第六十一源福丸乗組員負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年6月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

亀井龍雄、森田秀彦、平野浩三
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第六十一源福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
甲板長が、1箇月の入院加療を要する右腰椎横突起骨折等

    原因
作業足場の確保不十分

    主文
本件乗組員負傷は、作業足場の確保が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月3日17時55分
鹿児島県串木野港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十一源福丸
総トン数 270トン
全長 56.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
3 事実の経過
第六十一源福丸(以下「源福丸」という。)は、大中型まき網漁業に従事する船尾船橋型運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、鹿児島県串木野港において、漁獲物130トンを水揚げののち、船首2.7メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成9年10月3日17時45分水揚げ岸壁を離岸し、漁獲物冷却用の氷を積む目的で、港奥の給氷塔のある氷積み用岸壁に向かった。
ところで、源福丸は、上甲板下に1番から8番までの魚倉を船首尾方向に1列に設け、各魚倉は横隔壁によって等間隔に仕切られ、それぞれ上甲板に倉口及びハッチコーミングを有していたが、1番と2番魚倉、3番と4番魚倉というように奇数番号と偶数番号との間のエンドコーミングはそれらの横隔壁上に1個設けられ、隣り合う両倉を仕切る構造となっていた。

各ハッチコーミングは、甲板上の高さ0.70メートル、幅3.00メートル、長さ2.20メートルで、奇数番号と偶数番号の魚倉との間のエンドコーミング(以下「中央エンドコーミング」という。)の頂部はU字型となっていて幅20センチメートル、サイドの高さ10センチメートルであった。
各倉口は、長さ3メートル幅55センチメートル厚さ15センチメートルのFRP製ハッチボード4枚を船横方向に置いて閉鎖するようになっていたが、当時、氷は、2番から7番魚倉までの6魚倉に積み込む予定であったので、これらの倉口はすべて開放されていたが、氷を積まない1番と8番魚倉は閉鎖されていた。
また、前部マストと後部マストとの間の、上甲板上の高さ8メートルのところに張られたワイヤにトローリーと称する、テークルで構成する揚貨装置が設置されており、吊り上げた貨物をワイヤに沿って前後移動及び上下移動させることができ、その操作は、船首楼甲板と船橋前の甲板上に設置されたコントロールスタンドでそれぞれ独立して行えるようになっていた。

源福丸では、以前から、氷を積み込む前に、氷捌き用の網モッコを中央エンドコーミング付近の両舷甲板上に準備しており、片舷4箇所計8箇所に振り分けて置いていた。この振分け作業は、1番魚倉前方の甲板上中央部にまとめて置かれた1枚約5キログラムの網モッコを、モッコ1枚に他の10枚を入れ、トローリーで吊り上げ、各中央エンドコーミング付近まで移動させたのち、作業者が同コーミング上に乗って、モッコを甲板上に振り出すことで行っていた。
A受審人は、離岸直後乗組員がモッコの振分け作業を始めたことを操船中の船橋から目にし、モッコをサイドに振り出すときには、幅20センチメートルの中央エンドコーミングの上に乗って行うことを知っていたが、自分が乗船する前から行っている通常の作業であり、乗組員は慣れているので無難に行うものと思い、同コーミングの前後にハッチボードを被せるなどの足場の確保を十分に指示することなく、港内操船に従事した。

B指定海難関係人は、離岸直後、乗組員1人をトローリーの操作、他の1人を前部甲板でモッコのフック掛けに当たらせ、自分は中央エンドコーミングの上でモッコの振出しを行うこととしたが、同コーミングの前後にそれぞれハッチボードを被せるなど足場の確保を十分に行うことなく、作業を開始した。
こうして源福丸は、A受審人が操船して193度(真方位、以下同じ。)の針路及び5.5ノットの対地速力で静穏な港内を進行中、B指定海難関係人が、1、2番魚倉のモッコの振分けを無難に終え、3、4番魚倉の振分けにかかった。
17時55分少し前B指定海難関係人は、トローリー操作の乗組員に指示し、吊り上げたモッコを3、4番魚倉の中央エンドコーミングのやや船首寄りで静止させ、自分は同コーミングの上に乗って左舷側甲板に振り出そうと一旦右舷側に引き込んだのちその反動を利用して左舷側に押し出し始めたところ、17時55分串木野港北防波堤灯台から320度260メートルの地点において、身体のバランスを崩し、4メートル下の3番魚倉倉底に転落した。

当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、港内は静穏であった。
その結果、B指定海難関係人が、右腰椎横突起骨折等で、1箇月の入院加療を要する傷を負ったが、のち完治し、源福丸に復船のうえ定年まで乗船勤務した。


(原因)
本件乗組員負傷は、漁獲物冷却用氷の魚倉内への積込み準備作業を行う際、作業足場の確保が不十分で、乗組員が、ハッチ中央エンドコーミング上から魚倉内に転落したことによって発生したものである。
作業足場の確保が十分でなかったのは、船長が、乗組員に対して作業足場の確保を十分に指示しなかったことと、乗組員が作業足場を確保しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、乗組員に漁獲物冷却用氷の魚倉内への積込み準備作業を行わせる場合、同作業は幅20センチメートルのハッチ中央エンドコーミング上で行うのであるから、魚倉内に転落しないよう、乗組員に対し、同コーミング隣接箇所にハッチボードを被せるなど足場の確保を十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員は同作業に慣れているので無難に行うものと思い、足場の確保を十分に指示しなかった職務上の過失により、乗組員の魚倉内転落を招き、同人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、足場の確保を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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