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2000年(平成12年)

平成11年神審第1号
    件名
プレジャーボート鬼丸遊泳者負傷事件(簡易)

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

黒岩貢
    理事官
蓮池力

    受審人
A 職名:鬼丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
遊泳者1人が、1週間の休業加療を要する右肩甲部擦過傷、右大腿部裂傷及び同部擦過傷、遊泳者1人が、左前頭部打撲

    原因
前路の安全確認不十分

    主文
本件遊泳者負傷は、前路の安全確認が不十分で、船体及び推進器翼が遊泳者に接触したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適 条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月6日08時55分
福井県若狭湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート鬼丸
全長 4.22メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 18キロワット
3 事実の経過
鬼丸は、船外機付きの和船型FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成9年7月6日06時00分福井県白木漁港の船揚場を発し、その北東方800メートルの荷揚岸壁付近に至って釣りを行ったのち、08時49分同漁港北西方の門ケ埼南東部に位置する21メートル頂の三角点(以下「三角点」という。)から067度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点を発進して低速力で門ケ埼西方400メートル付近の釣り場に向かった。
ところで、白木漁港北側には、前示三角点東方の陸岸から東に延びる防波堤があり、その付け根部から北西方の門ケ埼に至る陸岸に沿って数個の水上岩が存在し、それらは互いに10ないし50メートル離れ、陸岸から10ないし20メートルの距離にあったが、当時、その最も東側に位置する水上岩(以下「東岩」という。)から同港北方沖合400メートルにある定置網に向け、魚群を同網に誘導するための垣網が設置されていた。

A受審人は、20年以上同漁港に来ていて水路事情に詳しく、次の釣り場に移動するにあたり、垣網を避けて定置網の沖合をう回すると大分遠回りとなることから、地元の漁船がよく利用する前示水上岩群と陸岸との間の幅10メートルばかりの水路を通航することにした。
08時54分A受審人は、三角点から085.5度180メートルの地点に達したとき、針路を東岩の南に向首する269度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力とし、船尾台に腰を掛けて右手で船外機のハンドルを持ち、友人を船体中央部に2人、船首部に1人それぞれ座らせて左側の防波堤に沿って進行した。
08時55分少し前A受審人は、三角点から074度40メートルの地点に達し、東岩を右舷正横に認めたとき、機関を極微速前進として速力を2.0ノットに減じ、東岩の西側の岩と陸岸との間の幅10メートルばかりの水路に向け右転を開始したところ、20メートル前方の同水路左側の陸岸上で休憩するウェットスーツ着用者を含む数人の遊泳者を認めた。

A受審人は、東岩付近でさざえ等を採る遊泳者がときどき目撃されることを聞いていたことから、休憩中の遊泳者の仲間が付近海上にいることも予測でき、右舷船首方20メートルの水路付近をよく見れば、体を水面に浮かせて頭部を沈め、黄色のシュノーケルを水面上に出して海中を伺う遊泳者B及び同Cほか2人を認めることができる状況であったが、水路をいちべつしただけで前路に遊泳者はいないものと思い、船首部の友人に前路を見張らせるなどの安全確認を十分に行っていなかったので、遊泳者に気付かず、これを避けないまま右転を続けた。
08時55分わずか前A受審人は、船首至近に遊泳者を認めた友人の「あっ」という声で機関中立としたが及ばず、08時55分鬼丸は、三角点から047度30メートルの地点において、原速力のまま324度を向いたその船首部がB遊泳者の右肩及びC遊泳者の頭部に、推進器翼がB遊泳者の大腿部に、それぞれ接触した。

当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、B遊泳者及びC遊泳者は、同日08時30分ごろ仲間8人とともに、遊泳の目的で白木漁港を訪れ、B遊泳者は、黒のウェットスーツ、足ひれ、黄色の水中眼鏡及びシュノーケルを着用し、C遊泳者は、海水パンツ、黄色の水中眼鏡及びシュノーケルを着用し、同人と同様の装備を付けたほか2人とともに同時40分ごろから海に入り、前示事故発生地点付近において、体を水面に浮かせて頭部を水中に入れていたとき、前示のとおり接触した。
その結果、B遊泳者は、1週間の休業加療を要する右肩甲部擦過傷、右大腿部裂傷及び同部擦過傷を負い、C遊泳者は、左前頭部打撲を負った。


(原因)
本件遊泳者負傷は、白木漁港沖合において、陸岸と沖合の水上岩との間の狭い水路を次の釣り場に向け移動中、前路の安全確認が不十分で、遊泳者を避けないまま進行し、船体及び推進器翼が遊泳者に接触したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、白木漁港沖合において、陸岸と沖合の水上岩との間の狭い水路を次の釣り場に向け移動する場合、同所付近ではときどきさざえ採りの遊泳者が目撃されていたうえ、当時も陸岸上にはウェットスーツ着用者を含む数人の遊泳者が休憩し、付近海上にその仲間の存在が予測されたから、船首部にいた友人に船首方の見張りを頼むなどして前路の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路をいちべつしただけで遊泳者がいないものと思い、前路の安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、遊泳者を避けないまま進行して接触事故を招き、1人の遊泳者に右肩甲部擦過傷、右大腿部裂傷及び同部擦過傷を、もう1人の遊泳者に左前頭部打撲をそれぞれ負わせるに至った。






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