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2000年(平成12年)

平成11年神審第96号
    件名
引船第八美栄丸被引はしけ第2千福丸係留作業員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年6月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、阿部能正、黒岩貢
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:第八美栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
係留作業員が、胸腹部の打撲により死亡

    原因
係船索に対する安全措置不十分

    主文
本件係留作業員死亡は、第八美栄丸が、係船索に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
第一千福丸の係留作業員が、緊急時には係船索を容易に解き放すことができるよう措置しなかったことは、本件発生の原因となる。
第2千福丸の係留作業員が、係船索が緊張した際、安全な場所に退避しなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月18日08時50分
大阪港大阪区第2区
2 船舶の要目
船種船名 引船第八美栄丸 はしけ第2千福丸
総トン数 48.40トン
全長 22.75メートル 40メートル
幅 13メートル
深さ 3メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
第八美栄丸(以下「美栄丸」という。)は、船体前部に操舵室を有し、同室後方の機関室囲壁後部にフックを備えた鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、荷役用の無動力鋼製はしけ第一千福丸及び第2千福丸を曳航する目的で、係留作業員として第一千福丸にはB指定海難関係人を、第2千福丸にはCをそれぞれ乗せ、いずれも空倉の両船を並べて船尾に引き、船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年7月18日07時00分大阪港大阪区第3区の尻無川はしけ桟橋を発し、同第2区梅町岸壁に停泊している総トン数4,997トン長さ101.1メートル幅17.8メートル深さ9.0メートルで、喫水船首5.2メートル船尾5.8メートルの貨物船ジャヘグアン(以下「ジ号」という。)に向かった。

A受審人は、07時50分入り船左舷付けで接岸中のジ号に到着し、同船の右舷中央部に第2千福丸を出船右舷付けに、その左舷側に同船とほぼ同型の第一千福丸を入り船左舷付けとし、第2千福丸の船尾と第一千福丸の船首からそれぞれジ号の船首へ、また、第2千福丸の船首と第一千福丸の船尾からそれぞれジ号の船尾へ直径40ミリメートルの合成繊維製の係船索を各1本ずつ送って係船を終えたのち、第一千福丸の右舷側に美栄丸を接舷し、第2千福丸の積荷役の終了を待った。
ところで、第2千福丸は、長さ26.5メートル幅9.5メートルの倉口を有し、その後方に鋼製ハッチカバーを格納するため、倉口とほぼ同じ幅で長さ2.4メートル甲板上の高さ50センチメートルの、前面が開口した格納箇所を設けていた。そして、格納箇所上部には、その前面の開口を鋼製仕切板によって閉鎖することができるよう、ワイヤ及びチェーンを導くための3本の円筒形支柱(以下「後部支柱」という。)のほか、ウインチが設置されていた。

後部支柱は、船体中心線上の支柱を中央にして、左右対象の位置に各1本が配置され、左右の支柱とも直径16センチメートル甲板上の高さ1.79メートル、中央の支柱は直径17センチメートル甲板上の高さ2.21メートルで、その頂部船首側にはシャックル等の取付け金具として1辺の長さ15センチメートルの方形鋼製板を備えていた。
08時45分A受審人は、ジ号からイルミナイトと称する微粉状貨物1,000トンの積載を終え、喫水が船首尾とも2.8メートルとなった第2千福丸を、ジ号と第一千福丸との2船の間から引出すこととした。
そして、A受審人は、第2千福丸を引出すにあたり、第一千福丸の船尾の係船索をB指定海難関係人が適当に緩めて引出しやすくする手はずになっていて、第2千福丸の積荷が終了したとき、同船の後部中央支柱の頂部よりも強く張った係船索の方が約1メートル高かったが、その緩める量や船体の動揺などがあると、同索の垂れ下がり具合によってはその下を引出される同船の後部支柱に引っ掛かるおそれがあったので、同索の取扱いについては十分に注意する必要があった。

ところが、A受審人は、第2千福丸の引出しを開始すると後方の係船索の状態を確かめることが難しくなるものの、同索の取扱いは各はしけの係留作業員の仕事であり、作業員自身が気を付けているはずなので大丈夫と思い、第2千福丸の後部支柱に同索が引っ掛かったら容易に解き放せるよう、また、同索が緊張するようなときには安全な場所に退避するよう前もって各はしけの係留作業員と打ち合わせておくなど、同索に対する安全措置を十分にとらなかった。
こうして、A受審人は、第2千福丸に乗るC係留作業員から直径70ミリメートル長さ50メートルの合成繊維製の曳航索を受けて自船のフックに掛け、短時間機関を前進にかけて同船から離れ、同索を延ばし終えたところで待機し、08時49分同作業員から係船索を放したとの手の合図を見て、針路をジ号の船側に沿う真方位205度に定め、機関を前進にかけて2.0ノットの曳航速力で、手動操舵により第2千福丸の引出しを開始した。

08時49分半A受審人は、第2千福丸の船尾が第一千福丸の船尾を航過するころ第一千福丸の係船索が第2千福丸の後部中央支柱の金具に引っ掛かり、そのときジ号船上にいた荷役作業員のストップという叫び声を聞き、直ちに機関を停止したものの、第2千福丸はしばらく惰力で前進した。
一方、B指定海難関係人は、ジ号に第一千福丸を係船したとき、船尾の係船索を船尾部左舷側のボラードに8の字に数回掛け回し、同索末端のアイを船尾中央の十字型ビットに掛けて係止していたが、第2千福丸の引出しにあたり、ボラードに最小限度に掛け回しておくなど係船索が引っ掛かるような緊急時には同索を容易に解き放すことができるよう措置しないで、同索を数メートル緩めただけで第2千福丸の引出しを見守っていたところ、同船の後部中央支柱に係船索が引っ掛かったのに気付き、急いでボラードから同索を取外し、続いてビットからアイを外そうとしたが、強く緊張したので危険を感じ、同索を完全に解き放せないままその場から退避した。

また、C係留作業員は、保護帽、安全靴及び作業服の服装で、A受審人に引出し開始の合図を送って船首部付近にいたところ、後部中央支柱に第一千福丸の係船索が引っ掛かったのを認め、安全な場所に退避しないで、これを外そうとして船尾に赴き、08時50分大阪北港口防波堤灯台から真方位072度740メートルの地点において、緊張して切断した係船索に強撃された。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その結果、A受審人は、行き脚が止まるや急いで反転し、第2千福丸に接舷して事後の措置にあたり、C係留作業員(昭和10年9月11日生)は、手配された救急車で最寄りの病院に搬送されたが、胸腹部の打撲により間もなく死亡した。


(原因)
本件係留作業員死亡は、大阪港大阪区第2区において、美栄丸が、係船索に対する安全措置が不十分で、第2千福丸を曳航して岸壁係留中のジ号と同船に係船中の第一千福丸との2船の間から引出し中、第一千福丸からジ号に取った係船索が第2千福丸の後部支柱に引っ掛かり、緊張して切断した同索が同船係留作業員を強撃したことによって発生したものである。
第一千福丸の係留作業員が、緊急時には係船索を容易に解き放すことができるよう措置しなかったことは、本件発生の原因となる。
第2千福丸の係留作業員が、係船索が緊張した際、安全な場所に退避しなかったことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、大阪港大阪区第2区において、自船の船尾に第2千福丸を曳航して岸壁係留中のジ号と同船に係船中の第一千福丸との2船の間から引出す場合、第一千福丸からジ号に取った係船索の垂れ下がり具合によってはその下を引出す第2千福丸の後部支柱に同索が引っ掛かるおそれがあったから、そのときには容易に解き放せるよう、また、同索が緊張するようなときには安全な場所に退避するよう前もって各はしけの係留作業員と打ち合わせておくなど、同索に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、係船索の取扱いは各はしけの係留作業員の仕事であり、作業員自身が気を付けているはずなので大丈夫と思い、同索に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、第2千福丸の引出し中に第一千福丸の係船索が後部支柱に引っ掛かり、同索が緊張して切断し、第2千福丸の係留作業員の胸腹部を強撃して死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、大阪港大阪区第2区において、第2千福丸が美栄丸に曳航されて岸壁係留中のジ号と同船に係船中の第一千福丸との2船の間から引出される際、緊急時には係船索を容易に解き放すことができるよう措置しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後、係船索の係止方法などその取扱いについての検討を行い、再発防止に心掛けている点に徴し勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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