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2000年(平成12年)

平成12年函審第19号
    件名
漁船長福丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成12年6月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

織戸孝治、酒井直樹、大山繁樹
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:長福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
甲板員が溺死

    原因
投縄作業の安全措置不十分

    主文
本件乗組員死亡は、ツブかご漁業に従事中、投縄作業の安全措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月30日06時50分
釧路港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船長福丸
総トン数 7.86トン
全長 15.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 235キロワット
3 事実の経過
長福丸は、中央部船橋型のFRP製漁船で、A受審人が甲板員Bと乗り組み、ツブかご漁業の目的で、船首0.4メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成10年7月30日01時45分釧路港を発し、同港南東方沖合10海里ばかりの水深約100メートルの漁場に向かった。
長福丸の前部甲板は、右舷前部にラインホーラーが装備され、周囲のブルワークの高さが約65センチメートルであり、漁具置き場とされていた。
ところで、ツブかご漁の操業方法は、浮玉に旗竿を取り付けた浮標、同浮標に結び付けられた長さ150メートルで重量約19キログラムの錨を取り付けた瀬縄を海中へ投入し、次に同縄に結ばれた長さ30メートルの捨て縄及びこれに接続された長さ1,200メートルの幹縄の順に投入し、その後他端の捨て縄・錨・瀬縄及び最後に浮標を投入して漁具の敷設を終了し、幹縄には枝糸を介して鉄枠・網地等で作られたツブかごが約10メートル間隔で120個取り付けられ、同かごに入ったツブを捕獲するものである。また、引揚作業はラインホーラーで瀬縄・錨・捨て縄・幹縄及びかごと順次に巻き揚げ、かごから漁獲物を取り出し餌を補充して敷設に備え、通常、敷設した翌日に引き揚げるという操業形態であった。

A受審人は、発航時から操舵室で操舵操船及び操業の指揮に当たり、03時ごろ釧路埼灯台の南東方10海里ばかりの第1本目のツブかご漁具敷設地点に到着後、操舵室を離れて前部甲板に赴き、ラインホーラーに付いて作業を行うB甲板員の傍らで、ツブ出し・餌入れ・かごの操舵室前側への甲板積み作業を行い、最後に捨て縄を巻き揚げたところで操舵室に戻り、瀬縄の伸びている方向に船首を向けて操船し、最後の浮標を揚収して第1本目の同漁具の巻揚作業を終了し、再び同漁具の敷設を行った後、次の敷設地点に向かうことを繰り返していた。
ところで、操業中、B甲板員はカッパ・ゴム手袋・ゴム長靴・野球帽・救命胴衣を着用して、常にラインホーラーの傍に付いており、巻き揚げた捨て縄や瀬縄を右舷甲板上にコイルして繰り込み、そのまま投縄スタンバイの状態となるように各縄の整理をしていた。

こうしてA受審人は、第3本目のツブかご漁具敷設地点に至って通常の手順に従って操業を続行し、最後の捨て縄を巻き揚げた後、操舵室に戻って操船に当たり、B甲板員が最後の浮標を揚収したのを見たので、06時49分釧路埼灯台から154.5度(真方位、以下同じ。)11.8海里の地点において、同漁具投入の目的で、自動操舵により針路を270度に定め、機関を回転数毎分900にかけ、5.0ノットの対地速力で進行した。
このときA受審人は、操舵室からは積み上げられたツブかごが視界の妨げとなってB甲板員の足元を確認できない状況の下、同甲板員が自分より年長で、かつ、操業経験が豊富であることなどから、同甲板員が投縄時投入する縄のコイルに足を踏み入れることあるまいと思い、同甲板員が走出する縄に足を取られたりして危険であるから、同甲板員に対して投縄時縄のコイルに足を踏み入れることのないよう、平素から安全指導を行うことなく、ラインホーラーの後方に控えていた同甲板員に「いいぞ」と投縄の合図をした。

前示の合図を聞いたB甲板員は、浮標とコイルしたままの瀬縄を海中に投げ込んだのち、縄のコイルに自分の足を踏み入れていないことを確認することなく、捨て縄のコイルの中に右足を踏み入れたまま、次に錨を投入したところ、走出する捨て縄に右足が取られて引きずられ、06時50分釧路埼灯台から155度11.8海里の地点において、右舷前部甲板のブルワーク越しに海中へ転落した。
当時、天候は、晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、B甲板員が浮標・瀬縄・錨を投入するのを認めたので、船尾方を向き操舵室後方にあるプロッターに投縄位置を入力して船首方へ振り返ったとき、同人が足から海中に落ちて行くのを見て驚き、直ちに行きあしを止め、前部甲板に出てラインホーラーで延出していた幹縄を巻き揚げたところ、捨て縄を右足に3回巻き付けたB甲板員(昭和13年7月20日生)が正立状態で水面に浮き上がったので、06時52分甲板に引き揚げて人工呼吸を施すもかい無く、同時55分溺死した。


(原因)
本件乗組員死亡は、ツブかご漁業に従事中、投縄作業の安全措置が不十分で、前部甲板に置いたツブかご漁具の捨て縄のコイルに足を踏み入れた乗組員が、海中へ投入した錨とともに走出した同縄に足を取られて引きずられ、海中に転落したことによって発生したものである。
安全措置が不十分であったのは、投縄作業を指揮する船長が、投縄作業を行う乗組員に対し、投縄時縄のコイルに足を踏み入れることのないよう、平素から安全指導を行わなかったことと、同乗組員が、投縄時縄のコイルに足を踏み入れていないことを確認しなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、ツブかご漁業に従事して投縄作業を指揮する場合、投縄作業を行う甲板員が走出する縄に足を取られたりして危険であるから、同甲板員に対して投縄時縄のコイルに足を踏み入れることのないよう、平素から安全指導を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同甲板員の操業経験が豊富なこと等から、同甲板員が投縄時縄のコイルに足を踏み入れることはあるまいと思い、平素から前示の安全指導を行わなかった職務上の過失により、投縄時捨て縄のコイルに足を踏み入れた同甲板員が、海中へ投入した錨とともに走出する同縄に足を取られて引きずられ、海中転落を招き、同甲板員を溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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