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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年6月21日09時20分 沖縄県波照間島北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
旅客船第五十八あんえい号 総トン数 19トン 全長 19.79メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,182キロワット 3 事実の経過 第五十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室が設けられ、その前方の客室内の左右にシートベルトの設置されていない3人掛け座席が7列と操舵室後方の遊歩甲板の左右に3人掛けベンチ型座席が5列配置されている旅客定員66人の3基2軸の軽合金製高速旅客船で、沖縄県石垣港と同港周辺の離島との間で定期運行に従事していたところ、臨時便として運航されることとなり、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客53人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成11年6月21日08時30分石垣港を発し、同県波照間漁港に向かった。 ところで、有限会社Rは、旅客運送事業等を営み、あんえい号など旅客船10隻を使用して石垣港と周辺の離島との間で定期運行もしくは臨時運行の業務に当たっており、B指定海難関係人が平成8年9月から同社の運航管理者を勤めていた。 B指定海難関係人は、平素乗組員に対して運航管理規程の運航基準を遵守するよう指導していたが、高速旅客船が航行中、荒天となって船体の動揺が激しくなってきたときには、旅客の安全確保のため、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することについての指導を行っていなかった。 発航後、A受審人は、操舵室右舷側の運転席に腰を掛けて操舵操船に当たり、竹富島南方を経て大原航路に入り、09時02分大原航路第21号立標を右舷側に10メートル離して航過し、針路を220度(真方位、以下同じ。)に定めたとき、南西からの波浪により船体の動揺が激しくなってきたので、速力を27.5ノットの全速力前進から19.0ノットの半速力に減じ、同じ針路で進行した。 A受審人は、高起した波浪が来ると機関を微速力前進とし、その波浪が過ぎると半速力に戻して南下したが、速力を半速力にしているので大丈夫と思い、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅な減速措置をとることなく、同じ針路及び速力で続航中、09時20分少し前突然高起した波浪を認め、機関を中立とした。 しかし、あんえい号は、その効なく、09時20分波照間島灯台から030度8.4海里の地点において、船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下した。そのとき、客室の前から2列目の右舷及び左舷の座席に座っていた旅客C及び同Dが、上方に放り出されて落下し、座席に打ち付けられた。 当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、波照間漁港入港後負傷者が居ることを知り、負傷者を病院へ搬送した。 その結果、C及びD両旅客は、それぞれ全治4週間の腰椎圧迫骨折の重傷を負った。 B指定海難関係人は、本件後、全乗組員を集め、緊急の乗組員安全講習会を開き、荒天時の大幅な減速について指導し、その後も定期的に同講習会を開き、安全運航の確保についての指導を行った。
(原因) 本件旅客負傷は、荒天下、石垣港から波照間漁港に向け進行中、波浪が高まり船体動揺が激しくなった際、波浪による動揺及び衝撃を緩和する減速措置が不十分で、高起した波浪を受け船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下したことによって発生したものである。 運航管理者が、乗組員に対し、旅客の安全確保のため、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することについての指導を行っていなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) A受審人は、荒天下、石垣港から波照間漁港に向け進行中、波浪が高まり船体動揺が激しくなった場合、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅な減速措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、半速力にしているので大丈夫と思い、大幅な減速措置をとらなかった職務上の過失により、高起した波浪を受け船首部が高く持ち上げられると同時に急激に降下させる事態を招き、座席に座っていた旅客が上方に放り出されて座席に打ち付けられ、旅客2人にそれぞれ腰椎圧迫骨折の重傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B指定海難関係人が、運航管理者として、乗組員に対し、旅客の安全確保のため、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することについての指導を行っていなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、本件後、乗組員に対し、荒天航海中の大幅な減速について徹底させるなどの指導を行っている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |