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2000年(平成12年)

平成11年長審第67号
    件名
漁船明光丸定置網損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:明光丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
定置網の網、ワイヤー等に損傷

    原因
走錨に対する監視不十分

    主文
本件定置網損傷は、走錨に対する監視が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月30日05時20分
長崎県玉之浦港
2 船舶の要目
船種船名 漁船明光丸
総トン数 165トン
全長 40.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 698キロワット
3 事実の経過
明光丸は、以西底びき網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首2.90メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成10年9月6日09時00分長崎県長崎港を僚船とともに発し、翌7日早朝大韓民国済州島南方沖合の漁場に至って操業を開始し、その後、漁場を移動しながら操業を続けていたところ、同月29日早朝から接近中の台風9号の影響で次第に荒天模様となったので、操業を打ち切って避難することとし、同日夕刻同県五島列島福江島南西方沖合の漁場を発進し、福江島玉之浦港内の荒川漁港に向かった。

ところで、玉之浦港は、北方を除いて三方が陸岸で囲まれ、港内の小島北方沖合には、玉之浦港荒川北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から250度(真方位、以下同じ。)1,020メートルのところを北東端とし、これから西方へ長さ約200メートル幅約50メートルの定置網が設置されており、北防波堤灯台から251.5度1,050メートルのところには、同網の存在を示す、ゼニライト20−P型と称する太陽電池を電源とする赤色点滅式簡易標識灯(以下「赤色点滅灯」という。)1個が設けられていた。
翌30日未明A受審人は、暴風、波浪警報が発表されている状況下、玉之浦港に入港したが、北北東風が極めて強く吹き、雨が激しく、視界も悪かったので、荒川漁港への入港をあきらめ、夜が明けて周囲の状況が分かるようになるまで小島の北北東方沖合で錨泊することとし、05時00分北防波堤灯台から281度700メートルの水深40メートルの地点に、重さ365キログラムの左舷錨を投入し、直径22ミリメートルのワイヤーロープ製錨索を100メートルばかり延出して錨泊を開始した。

A受審人は、船首が北北東方を向いて錨が効いたことを確かめたのち、機関を中立運転とし、船首配置の乗組員を船橋の陰に待機させたまま、自ら在橋して走錨の有無を監視することとしたが、6海里レンジのGPSプロッターの画面に表示された自船マークと自船位置の緯度、経度表示を見ていれば、走錨を検知できるものと思い、同プロッターの画面を大尺度に切り換えて表示したり、近距離レンジとしたレーダーを使用したりするなどの走錨に対する監視を十分に行うことなく、同プロッターには画面に島や陸岸を表示させる機能がなかったこともあって、投錨して間もなく走錨を始めたことに気付かないまま、同プロッターの画面を眺めていた。
A受審人は、走錨に対する監視を十分に行っていなかったので、風波により定置網に向かって圧流されていることに気付かず、右舷錨を投入したり、機関を使用したりするなどの走錨を止めるための措置をとることができないまま南南西方へ走錨を続け、05時19分半ふと左舷後方を見て左舷船尾至近に定置網の赤色点滅灯を視認して走錨に気付き、急ぎ船首に乗組員を行かせて錨索を巻かせたものの、機関の使用をためらっているうち、05時20分北防波堤灯台から251度1,050メートルの地点において、船首を北北東方に向けたまま、右舷船尾から定置網に乗り入れた。

当時、天候は雨で風力9の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、暴風、波浪警報が発表されていた。
その結果、明光丸は、損傷がなく、付近で錨泊していた僚船に曳航されて定置網から脱出し、荒川漁港に着岸したが、定置網は、網、ワイヤー等に損傷を生じ、のち修理された。


(原因)
本件定置網損傷は、夜間、暴風、波浪警報が発表され、北北東風が極めて強く吹いている状況下、長崎県玉之浦港内に錨泊中、走錨に対する監視不十分で、定置網に向かって圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、暴風、波浪警報が発表され、北北東風が極めて強く吹いている状況下、長崎県玉之浦港内に錨泊した場合、激しい風波によって走錨するおそれがあったのであるから、走錨の有無を検知できるよう、GPSプロッターの画面を大尺度に切り換えて表示したり、近距離レンジとしたレーダーを使用したりするなどの走錨に対する監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、6海里レンジのGPSプロッターの画面に表示された自船マークと自船位置の緯度、経度表示を見ていれば走錨を検知できるものと思い、走錨に対する監視を十分に行わなかった職務上の過失により、走錨に気付くのが遅れて定置網に乗り入れ、網、ワイヤー等に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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