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2000年(平成12年)

平成11年門審第1号
    件名
作業船第一俊栄丸のり養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、清水正男、西山烝一
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第一俊栄丸船長 海技免状:六級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
養殖施設を損傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件のり養殖施設損傷は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月20日06時00分
愛媛県西条港外
2 船舶の要目
船種船名 作業船第一俊栄丸
総トン数 157.48トン
登録長 26.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第一俊栄丸(以下「俊栄丸」という。)は、コルトノズル付推進器を装備し、主として瀬戸内海海域において大型クレーン船に随伴して揚錨係船作業に従事する鋼製揚錨船で、A受審人ほか1人が乗り組み、正月休みのため係船する目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成9年12月20日05時40分愛媛県西条新港公共ふとうを発し、大阪港堺泉北区に向かった。
ところで、西条新港は、渦井川河口に築造され、ほぼ352度(真方位、以下同じ。)に向く幅約340メートルの水路を挟んで、その両岸に、いずれも北側を瀬戸内海に面した岸壁が構築されており、公共ふとうは、左岸岸壁の北東端から800メートルばかり奥部に位置していた。また、同岸壁の北面に沿ってその北方1,000メートルばかりから更にその沖合2,000メートルばかりに至る間の海面にあたる、西条港導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から029.5度3,060メートルの地点、同地点から357度1,960メートルの地点(以下「ア点」という。)、ア点から261度1,520メートルの地点(以下「イ点」という。)及びイ点から183度2,200メートルの地点の4地点を順に結ぶ線で囲まれる海域には平成6年4月1日から同11年3月31日までのり養殖施設(以下「養殖施設」という。

)が敷設され、海図第6120号14(漁具定置箇所一覧図第14)にその存在が記載されていたほか、ア点、イ点、イ点から183度2,500メートルの地点(以下「ウ点」という。)、ウ点から080度520メートルの地点(以下「エ点」という。)及びエ点から074度1,300メートルの地点(以下「オ点」という。)に各1個並びにア点とイ点の間に6個、イ点とウ点の間に8個、ウ点とエ点の間に1個及びエ点とオ点の間に6個の株式会社ゼニライトブイ製の公称光達距離4.0キロメートルで4秒間に0.5秒の黄色短閃光を発する簡易標識灯がそれぞれほぼ等間隔に設置されていた。
A受審人は、離岸するとともに船体を水路のほぼ中央部に引き出し、05時42分導灯から068度2,380メートルの地点において、針路を352度に定め、手動操舵のまま、機関を4.0ノットの微速力前進にかけ、速力を徐々に増速させながら水路に沿って進行した。

A受審人は、これまでにも同港に入港した経験があり、前示海図を所持して2日前の昼間の入航時に同港港外を通航し、養殖施設が敷設されていることを知っていたところから、機関の速力を微速力前進に保持したまま、4.0ノットの対地速力で続航し、岸壁端に接近するに従って、右岸岸壁北面至近から北方沖合1,000メートルばかりのところに前夜地元漁船によって設置された漁具の設置位置を示す白色、黄色などに点滅する多数の灯浮標の灯火を視認し、同灯浮標の一部が船首方に及んでいるのを認めた。
A受審人は、05時51分少し前導灯から047度2,850メートルの地点に達したとき、正船首30メートルばかりのところに設置されている灯浮標の灯火を認め、7度左舵をとって同灯火を右舷至近に替わし、間もなく舵を中央に戻したところ、左への回頭惰力でゆっくり左転しながら進行し、05時54分半少し前導灯から038度2,980メートルの地点で養殖施設に向首する態勢となり、同施設に向かって接近し始めたが、前示漁具に付設された灯浮標の灯火を視認することに気をとられ、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うことなく、このことに気付かず、なお舵を中央に保持したまま、わずかに左偏しながら続航中、06時00分導灯から025度2,820メートルの地点において、俊栄丸は、289度に向首して原速力のまま、養殖施設に乗り入れた。

当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、俊栄丸は、損傷がなかったが、養殖施設を損傷し、のち地元漁船によって施設内から引き出された。


(原因)
本件のり養殖施設損傷は、夜間、西条新港を出航する際、船位の確認が不十分で、養殖施設に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、西条新港を出航する際、漁船の設置した漁具に付設の灯浮標の灯火を認めて転舵し、舵を中央に戻して進行する場合、養殖施設が敷設されていることを知っていたのだから、同施設に乗り入れないよう、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁船の設置した漁具に付設の灯浮標の灯火を視認することに気をとられ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、養殖施設に向かって進行し、同施設に乗り入れ、同施設を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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