日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年門審第76号
    件名
貨物船第五松伸丸のり養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、清水正男、平井透
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第五松伸丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
のり網破損、同網のいかだ固定索の切断

    原因
守錨当直が行われず

    主文
本件のり養殖施設損傷は、守錨当直が行われず、走錨して風下の同施設内に侵入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月9日06時00分
東京湾東部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五松伸丸
総トン数 339トン
登録長 48.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
第五松伸丸(以下「松伸丸」という。)は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A受審人ほか4人が乗り組み、トルエン500トンをほぼ満載し、船首3.2メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成10年1月8日17時00分千葉港千葉区第4区の三井石油化学工業株式会社7号さん橋を発し、茨城県鹿島港に向かった。
発航後間もなくA受審人は、みぞれが降り出して視程が狭められ、折から北風も強く、低気圧の通過に伴い悪天候が予想される旨の気象情報を入手していたので、何度も錨泊したことのある千葉県木更津市沖合で避泊することとし、18時00分東京湾木更津人工島灯(以下「人工島灯」という。)から058度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点において、風力6の北風と波高1メートルの波浪に船首を立て、水深が19メートルで泥底質の海底に重さ660キログラムの右舷ストックレス錨を投じ、7節備えていた右舷錨鎖のうち、平素よりも多目の5節を延出して単錨泊した。

錨泊したときA受審人は、木更津市沖合には広範囲に渡ってのり養殖施設が設置され、錨地が同施設の1.5海里風上側であったが、これまで何度も錨泊して走錨したことがなかったうえ平素よりも多目に錨鎖を延出しているから大丈夫だろうと思い、更に強い風が吹いたら錨鎖を延ばすとか振れ止め錨を投下するとか走錨防止措置をとることができるよう、守錨当直者を配置することなく、自らが時々昇橋するつもりで降橋し、他の乗組員と共に休息した。
22時00分A受審人は、昇橋し、風向、風速や波浪の状態が投錨した当時とほぼ同じで、船位が変化していないことを確かめ、2時間後に再び昇橋する予定で降橋したところ、程なくして北風が強まり、風力9に達して走錨のおそれを生じたものの、これに気付かず、自室で休息するうち眠りに陥り、走錨防止措置をとることができないまま錨泊を続けた。

松伸丸は、強風と高波浪によっていつしか走錨を始め、風下ののり養殖施設に向かって圧流され、やがて船首を000度に向けて走錨中、人工島灯から103度1.9海里の地点において、同施設内に侵入し、船尾がのり網のいかだ固定索に接触して同網を破損したのち走錨が止まり、翌9日06時00分目覚めて昇橋したA受審人が、このことを発見した。
当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、波高1メートルの波浪があった。
その結果、松伸丸に損傷はなく、のり養殖施設は、のり網破損のほか、同網のいかだ固定索の切断を生じたが、のち修理された。


(原因)
本件のり養殖施設損傷は、夜間、東京湾東部において、低気圧の通過に伴う悪天候が予想されるなか、みぞれによる狭視界を避け、のり養殖施設の風上側で錨泊した際、守錨当直が行われず、強風と高波浪によって走錨し、風下の同施設内に侵入したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、東京湾東部において、みぞれによる狭視界を避け、のり養殖施設の風上側で錨泊した場合、低気圧の通過に伴う悪天候が予想されていたから、更に強い風が吹いたら錨鎖を延ばすとか振れ止め錨を投下するとか走錨防止措置をとることができるよう、守錨当直者を配置すべき注意義務があった。しかし、同人は、これまで当錨地付近に何度も錨泊して走錨したことがなかったうえ平素よりも多目に錨鎖を延出しているから大丈夫だろうと思い、守錨当直者を配置しなかった職務上の過失により、強風と高波浪によって走錨し、風下ののり養殖施設内に侵入して同施設の損傷を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION