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2000年(平成12年)

平成10年広審第115号
    件名
油送船第18徳誉丸灯浮標損傷事件(簡易)

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年1月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一
    理事官
尾崎安則

    受審人
A 職名:第18徳誉丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
第1灯浮標の灯器及び浮体部に損傷、同灯浮標の位置が移動

    原因
荒天に対する守錨対策の不適切

    主文
本件灯浮標損傷は、荒天に対する適切な守錨対策を行わず、走錨したことによって発生したものである
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月30日02時12分
千葉県千葉港港内
2 船舶の要目
船種船名 油送船第18徳誉丸
総トン数 698トン
登録長 60.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
第18徳誉丸(以下「徳誉丸」という。)は、船尾船橋型の可変ピッチプロペラを装備した液化石油ガス運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト約350トンを漲水し、船首2.1メートル船尾3.9メートルの喫水をもって平成9年3月28日13時50分宮城県塩釜港を発し、千葉県千葉港に向かった。
翌29日14時25分A受審人は、千葉港浦安沖に達したころ荷役待ちのため港外で錨泊することとし、乗組員の同地での交代が予定されていたことから、陸との交通の便を考慮して陸岸に近い浦安沖灯標から085度(真方位、以下同じ。)1,760メートルの水深7.90メートルで、底質が泥の地点に左舷錨鎖を5節水面まで伸出して投錨した。

ところで、浦安沖の同船の錨地は、浦安沖灯標の北方約500メートルの地点を南西端とし、これから北東方に向けて直線上に延びる埋立地護岸の南側海域で、投錨地点の北方約1,100メートルの護岸には北西方に向け、同護岸とほぼ直角に幅約250メートルの水路が設けられており、その出入口付近の東側には、簡易第4灯浮標(以下「簡易」と冠する灯浮標名については号数のみを表示する。)が、その南東方約800メートルのところには、第2灯浮標が、また同出入口付近の西側には第3灯浮標が、その南東方約800メートルのところには第1灯浮標がそれぞれ設置され、東側のものは灯質が紅色、西側のものは緑色となっていた。
こうしてA受審人は、14時30分第1灯浮標を022度325メートルに認めたとき錨が把駐状態となったのを確かめて、当時、風もなく、海面も平穏であったことから、機関要員及び船橋当直要員の配置を解き、自らも休息することにしたが、このころ九州の日向灘付近には、1,006ヘクトパスカルの発達中の低気圧が北東進中で、ここから南西方に向けて寒冷前線、東方に向けては温暖前線がそれぞれ延びており、このような事情はテレビの報道により知っており、また、同日14時30分には、千葉県北西部に強風波浪注意報が発表されていた。

錨泊後A受審人は、適宣、書類の作成作業に従事し、その後20時30分ごろ就寝することにしたが、低気圧の接近にもかかわらず、風も弱く、投錨時、あらかじめ、風力が強まることを予想して錨鎖を平素より多く延出したことから、風力が強まれば、このとき改めて対処すればよいものと思い、夜間当直要員を配置して風力の増勢を早期に検知するなど、荒天に対する適切な守錨対策を行うことなく、私室で休息した。
翌02時00分ごろ就寝中のA受審人は、私室の外壁にあたる激しい雨音と風音で目覚め、直ちに昇橋して、全員を起床させ、機関用意を令するとともに船首に一等航海士らを配置して、自らはレーダーを作動させて走錨の有無を警戒中、同時09分南南西の風を船首方から受けて船首が左右に振れるうち、風を右舷側から受けた状態となり、南東方を向首したとき、北方に向けて走錨を始めたのを知った。

A受審人は、機関の準備が間にあわず、どう対処することもできないまま、022度の方向に向けて3.5ノットの対地速力をもって走錨中、02時12分浦安沖灯標から076度1,920メートルに設置された前示第1灯浮標に自船の左舷側を接触した。
当時、天候は雨で、風力10の南南西の風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は、02時20分機関準備が完了したとき、揚錨し、その後浦安沖灯標から093度1,700メートルの地点に再度投錨し、事後、第1灯浮標との接触事実を関係先に通知した。
接触の結果、徳誉丸に損傷はなかったが、第1灯浮標の灯器及び浮体部に損傷を生じせしめたほか、同灯浮標の位置を移動させるに至った。


(原因)
本件灯浮標損傷は、千葉県北西部に強風・波浪注意報が発表されている状況下、同県浦安沖に投錨して翌朝まで仮泊する際、夜間当直要員を配置するなど、荒天に対する適切な守錨対策を行わず、走錨したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、千葉県北西部に強風・波浪注意報が発表されている状況下、同県浦安沖に投錨して翌朝まで仮泊する場合、低気圧の接近に伴う強風が発生することがあったから、風浪が強くなったら早期に走錨防止措置がとれるよう、就寝にあたり、夜間当直要員を配置するなど、荒天に対する適切な守錨対策を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、錨鎖を平素より多く延出していたことから、風力が強まれば、このとき改めて対処すればよいものと思い、夜間当直要員を配置するなど、荒天に対する適切な守錨対策を行わなかった職務上の過失により、走錨して第1灯浮標損傷を招き、同灯浮標の灯器及び浮体部に損傷を生じせしめたほか、同灯浮標の位置を移動させるに至った。






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