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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月16日06時30分 青森県北西岸(鰺ケ沢港西方)沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船第七十三長生丸 総トン数 17トン 登録長 16.98メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
478キロワット 3 事実の経過 第七十三長生丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年1月から4月にかけて長崎、山口及び鳥取の各県沖合で操業を行い、さらに5月上旬から日本海を北上するいかを追って操業を続け、6月上旬ごろ山形県酒田港沖合に達していた。 こうして、同月15日11時00分A受審人は、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、酒田港を発し、秋田県能代港沖合で操業を行い、翌16日03時00分能代港外港南防波堤灯台から287度(真方位、以下同じ。)17.8海里の地点で操業を終え、その後、能代港から青森県にかけての沖合操業の基地となる同県鰺ケ沢港に向かった。 漁場発航後、A受審人は、単独で船橋当直に当たり、針路法として青森県深浦町沿岸沿いに北上して大戸瀬埼を付け回し、鰺ケ沢港に向かうことにした。 ところで、大戸瀬埼を付け回して鰺ケ沢港に向かう途上にあたる、大戸瀬埼北方0.3海里沖から1海里沖にかけては、通称「籠島漁場」と称する定置網が設置されていた。その設置区域は、大戸瀬埼灯台から055度950メートルの地点から東西方向各50メートル及び同灯台から027度2,010メートルの地点から東西方向各400メートルの各地点を順次結んだ線によって囲まれた範囲で、同定置網の随所に黄色ボンデンが取り付けられてその存在位置を容易に識別することができるように施されていた。 A受審人は、僚船仲間から大戸瀬埼沖には定置網が設置されていることを聞いていたので、大戸瀬埼を付け回して鰺ケ沢港に向かう際に、同網を目視して船位を確かめ、同定置網を替わすつもりでいた。 こうして、A受審人は、大戸瀬埼を約0.8海里離して付け回し、06時22分大戸瀬埼灯台から307度1.5海里の地点で、鰺ケ沢港に向かう088度の針路に定め、機関を全速力前進にかけて10.6ノットの速力で自動操舵により進行した。 ところが、定針後、A受審人は、籠島漁場に向いた状況であったが、まもなく僚船との漁況情報の交信を始め、そのうちに交信に気を取られ、同漁場に設置された定置網の標識により船位の確認を十分に行わなかったので、前路に設置された同定置網に接近していることに気付かず、針路を沖に転じないまま続航中、06時30分大戸瀬埼灯台から013度1海里の地点において、同定置網に原針路、原速力のまま乗り入れた。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。 その結果、船体には損傷を生じなかったが、定置網に損傷を生じた。
(原因) 本件定置網損傷は、秋田県能代港沖合漁場から青森県深浦町沿岸沿いに北上し、大戸瀬埼を付け回して鰺ケ沢港に向かう際、船位の確認が不十分で、同埼北方沖に設置された定置網に向いたまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、秋田県能代港沖合漁場から青森県深浦町沿岸沿いに北上し、大戸瀬埼を付け回して鰺ケ沢港に向かう場合、同埼北方沖合に定置網が設置されていたことを知っていたのであるから、これに乗り入れることのないよう、同定置網の標識により船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、大戸瀬埼を付け回して鰺ケ沢港に向けたのち僚船との漁況情報の交信に気を取られ、同定置網の標識による船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、前路の定置網に気付かないまま進行して、定置網設置区域への乗り入れを招き、定置網を損傷させるに至った。 |