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2000年(平成12年)

平成11年横審第85号
    件名
貨物船新相馬丸・漁船第2大宝丸漁船第1大宝丸漁具漁船第24八洲丸漁船昭新丸漁具損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年9月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、西村敏和
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:新相馬丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第2大宝丸船長兼漁撈長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第24八洲丸船長 海技免状:三級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大宝2号及び八洲の各漁網に損傷

    原因
新相馬丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
第2大宝丸、第1大宝丸・・・注意喚起信号不履行(一因)
第24八洲丸、昭新丸・・・注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件漁具損傷は、新相馬丸の操業漁船群を避航する措置が適切でなかったことによって発生したが、2そう引き網漁業に従事中の第2大宝丸及び第1大宝丸並びに第24八洲丸及び昭新丸が、注意喚起の措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月18日06時05分
伊勢湾
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新相馬丸
総トン数 498トン
全長 71.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
船種船名 漁船第2大宝丸 漁船第1大宝丸
総トン数 15.82トン 15.82トン
登録長 12.94メートル 12.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 90
船種船名 漁船第24八洲丸 漁船昭新丸
総トン数 9.85トン 3.2トン
登録長 12.97メートル 9.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 60 70
3 事実の経過
新相馬丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、硅石1,543トンを積載し、船首3.90メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成9年3月17日11時00分徳島小松島港を発し、四日市港に向かった。

翌18日03時45分A受審人は、伊勢湾第2号灯浮標(以下、伊勢湾各灯浮標の名称については「伊勢湾」を省略する。)の近くで昇橋して船橋当直に就き、伊良湖水道航路を経て、05時11分第4号灯浮標の北東方900メートルにあたる、野間埼灯台から217度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点において、針路を354度に定めて自動操舵とし、機関を引き続き全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、操業している多数の漁船の灯火を見ながら、また、適宜避航しながら北上し、05時50分第5号灯浮標を左舷側500メートルに見る、常滑港西防波堤灯台(以下「常滑灯台」という。)から213度4.8海里の地点に至り、針路を338度に転じたところ、ほぼ正船首2.5海里のところに第2大宝丸(以下「大宝2号」という。)、第1大宝丸(以下「大宝1号」という。)、第24八洲丸(以下「八洲」という。)、昭新丸(以下「昭新」という。)などを含む漁船数隻が一団となって操業中の灯火を認めた。

A受審人は、伊勢湾内では漁船が密集して操業している間を縫航することを常々経験しており、前方に認めた一団の漁船群の左方にはかなりの避航水域があったことから、もっと接近してから避航しても大丈夫と思い、早期にこれら一団の漁船群から十分に遠ざかるなどこれらを避航することなく同速力のまま進行し、06時03分前示漁船群のうち最も南西側に位置していた大宝2号と500メートルの距離に接近したところで左舵をとり、船首が308度を向いたとき、左舷船首方から赤旗を左右に振って近づいてくる漁船を認め、あわてて今度は右舵をとったところ、06時05分常滑灯台から245度3.7海里の地点において、新相馬丸は、船首が042度を向き、同速力のまま、大宝2号と大宝1号が2そう引きしていた漁網を乗り切り、更に右舵一杯として回頭中、船首が064度を向いたところで、続いて八洲及び昭新が2そう引きしていた漁網を乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日出時刻は06時00分であった。
A受審人は、多数の漁船が自船の近くに集結するのを見て、漁網を破損させたことを知り、事態に気付いて昇橋してきた船長とともに事後の措置にあたった。
また、大宝2号は、大宝1号を従船として2そう引きにより船曳(ひき)網漁業に従事する鋼製網船で、大宝2号にB受審人ほか2人が、大宝1号に3人がそれぞれ乗り組み、操業の目的で、運搬船3隻とともに、同月18日05時30分四日市港内にある磯津漁港を出航し、06時00分前示衝突地点付近に至って投網に掛かり、針路を343度として、大宝1号を自船の右側に配して、2.0ノットの速力で曳(えい)網を始めた。

ところで、漁網は引き綱が約30メートル、手網部分の長さが約200メートル、魚取り部が約50メートルから成り、手網の後部及び魚取り部の最後部に各1個のオレンジ色浮子が取り付けられていて、曳網時には両船の船尾から漁網の最後部まで約280メートルに達していた。
B受審人は、法定灯火のほか大宝2号の操舵室上部に赤色全周灯を、大宝1号の操舵室上部に白色全周灯をそれぞれ点灯し、加えて黒色鼓形形象物をそれぞれ掲げて343度の針路で曳網していたところ、06時04分少し過ぎ船尾少し左方200メートルのところに自船に向けて接近してくる新相馬丸を初めて視認し、運搬船に指示して自船から離れるよう促しただけで、電気ホーンを使用するなどして注意喚起の措置をとらずに曳網中、前示のとおり、漁網が乗り切られた。
また、八洲は、昭新を従船として2そう引きにより船曳網漁業に従事するFRP製網船兼運搬船で、八洲にC受審人1人が、昭新に2人がそれぞれ乗り組み、操業の目的で、同月18日05時30分磯津漁港を出航し、06時00分衝突地点付近に至って投網に掛かり、針路を343度として、昭新を自船の右側に配して、2.0ノットの速力で、大宝1号の右側近くで大宝2号とほぼ平行に曳網を始めた。

ところで、漁網は引き綱が約30メートル、手網部分の長さが約120メートル、魚取り部が約40メートルから成り、手網の後部及び魚取り部の最後部に各1個のたるが取り付けられていて、曳網時には両船の船尾から漁網の最後部まで約190メートルに達していた。
C受審人は、法定灯火のほか八洲の操舵室上部に緑色全周灯を、昭新の操舵室上部に白色全周灯をそれぞれ点灯し、加えて黒色鼓形形象物をそれぞれ掲げて343度の針路で曳網していたところ、06時04分少し過ぎ船尾左方200メートルのところに大宝2号に向けて接近してくる新相馬丸を初めて視認したが、自船の左側に大宝1号、更にその左方に大宝2号がいたことから自船に向かってくることはないと思い、何ら注意喚起の措置をとらずに曳網中、前示のとおり、漁網が乗り切られた。
この結果、新相馬丸に損傷はなかったが、大宝2号及び八洲の各漁網に損傷を与えた。


(原因)
本件漁具損傷は、日出時、伊勢湾において、四日市港に向けて北上中の新相馬丸が、前路に大宝2号ほか数隻の漁船が一団となって操業しているのを認めた際、避航措置が不適切で、2そう引きしていた漁網に接近したところで漁網側に転舵したことによって発生したが、2そう引き網漁業に従事中の大宝2号及び大宝1号並びに八洲及び昭新が、注意喚起の措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人が、日出時、伊勢湾において、四日市港に向けて北上中、前路に大宝2号ほか数隻の漁船が一団となって操業しているのを認めた場合、これら一団の漁船群から十分に遠ざかるよう、早期に避航措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これら一団の漁船群の左方に避航水域があったことから、もっと接近してから避航しても大丈夫と思い、早期に避航措置をとらなかった職務上の過失により、そのままの針路で進行し、2そう引きしていた漁網に接近したところで漁網側に転舵して、引いている漁網に損傷を与えるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
B受審人が、日出時、伊勢湾において、2そう引き網漁業に従事する場合、自船に接近する新相馬丸に対して注意喚起の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、同人の所為は、自船からの注意喚起がなかったものの、合図が伝わらなかったとはいえ、運搬船を使って合図させた点、日出時機で周囲は明るくなっており、操業模様が明らかに認められる点及び作業灯、形象物など掲げていた点などに徴し、職務上の過失とするまでもない。

C受審人が、日出時、伊勢湾において、大宝2号及び大宝1号と近くに並航して2そう引き網漁業に従事する場合、大宝側に接近する新相馬丸に対して注意喚起の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、同人の所為は、大宝側が運搬船を使って合図させた点、日出時機で周囲は明るくなっており、操業模様が明らかに認められる点及び作業灯、形象物など掲げていた点などに徴し、職務上の過失とするまでもない。
ただし、伊勢湾において、2そう引き船曳網漁業に従事する漁船は、多数出漁する場合、名古屋、四日市各港と伊良湖水道を結ぶ一般船舶の通航路を閉塞する状況を醸成させる可能性がある点に配慮して操業に当たることが望まれる。


よって主文のとおり裁決する。






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