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2000年(平成12年)

平成11年長審第73号
    件名
漁船第十五山田丸養殖施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年7月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

森田秀彦、平野浩三、河本和夫
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第十五山田丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第十五山田丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
養殖施設及びその付属漁具に損傷

    原因
減速措置不十分

    主文
本件養殖施設損傷は、減速措置が不十分で、養殖施設に向けて転舵進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月25日04時03分
長崎県三重式見港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十五山田丸
総トン数 150トン
全長 40.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 698キロワット
3 事実の経過
第十五山田丸(以下「山田丸」という。)は、以西底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B受審人ほか8人が乗り組み、平成10年1月7日08時00分僚船とともに長崎県長崎港を発し、東シナ海の漁場に至って連日操業を行い、漁獲物約30トンを獲たところで操業を終え、船首尾とも2.3メートルの喫水をもって、同年2月24日18時00分女島灯台の北西方約19海里の漁場を発進し、水揚げのため同県三重式見港に向かった。
ところで、三重式見港は、三重式見港三重南防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)を北西端として同灯台から109度(真方位、以下同じ。)方向に400メートル、そこからさらに118度方向に700メートル延出する南防波堤と同灯台から024度320メートルの地点を南東端として331度方向に陸岸にまで至る北防波堤とにより防波堤入口を形成しており、東泊地に向かう入航船は、防波堤入口付近では南防波堤先端に近づいて右転し、同先端を付け回すようにして進行しなければならず、また港内からの出航船の状況は、沖合から南防波堤越しに十分余裕のある時期に認めることはできず、防波堤入口付近にまで達しないと分からなかった。そして、南防波堤の内側には、西灯台から250メートルの同防波堤上の地点から、北側に約130メートルの幅で、防波堤に沿って東南東方に約700メートルの水域内に養殖施設が設置され、夜間には標識灯が表示されていた。そしてA、B両受審人は、ともに同港への出入港の経験が豊富で、これらのことについてはよく知っていた。
漁ろう長を兼ねていたB受審人は、漁場発進後は乗組員が漁獲物の整理や後片付けを行うので、発進時から船橋当直にはいり、同日21時次直のA受審人に船橋当直を引き継いで降橋した。またA受審人は、翌25日00時黄島灯台の東方約14海里の地点で甲板員と船橋当直を交替した。
03時30分B受審人は、ノ瀬灯標の南西方約3海里の地点で再び昇橋し、前直の甲板員から当直を引き継ぎ、同時53分西灯台から196度1,800メートルの地点において、針路を防波堤入口に向首する010度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、同時55分同灯台から200度1,130メートルの地点で入港スタンバイベルを鳴らしたが、自身が以前に船長職をとっていたことから、入港の操船指揮をとることとし、A受審人に対し昇橋を要請しなかった。

一方、A受審人は、入港に当たり、B受審人が船長経験もあり、十分に操船能力もあるので問題ないものと思い、自ら昇橋して操船の指揮をとることなく、船尾の入港配置についた。
03時56分B受審人は、西灯台から203度920メートルの地点で、針路を013度に転じ、機関を微速力に落として6.0ノットの対地速力とし、同時59分少し過ぎ南防波堤先端まで300メートルになったとき、ゆっくりと右転を始め、04時01分同灯台から309度80メートルの地点に達し、中央ふ頭東側の東泊地入口に向く084度を向首したとき、船首方300メートルのところに出航船の白、白、紅、緑4灯を認めた。B受審人は、同船と左舷対左舷で航過するために右転すると、右舷船首方の養殖施設に著しく接近することとなり、同施設に進入のおそれがあったが、転舵しても同施設を替わすことができるものと思い、同施設に著しく接近することのないよう十分な減速措置をとることなく続航した。

04時02分少し前B受審人は、西灯台から024度80メートルの地点で右転し、針路を100度にしたところ養殖施設に向首接近する状況となったが、出航船に気をとられてこのことに思い及ばず、さらに同船に引き続いて出航する船舶を認め、同じ針路、速力のまま進行中、同時03分わずか前船首至近に養殖施設の標識灯及び発泡スチロールの浮子などを認め、急ぎ左舵一杯、機関を全速力後進としたが、及ばず、04時03分山田丸は、西灯台から085度270メートルの地点において、速力が3.0ノットとなったとき、100度の針路のまま養殖施設に進入した。
当時、天候は曇で風力2の北東の風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で視界は良好であった。
この結果、山田丸に損傷はなく、養殖施設及びその付属漁具に損傷を生じたが、のち修理された。


(原因)
本件養殖施設損傷は、夜間、長崎県三重式見港に入港中、南防波堤の内側に設けられた養殖施設付近において、出航船を認めて避航措置をとる際、減速措置が不十分で、養殖施設に向けて転舵進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、入港する際、船長が自ら昇橋して操船の指揮をとらなかったことと、一等航海士が船長に昇橋を要請しなかったばかりか、出航船を認めて避航措置をとる際、減速措置が十分でなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、三重式見港に入港する場合、自ら昇橋して操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、B受審人が船長経験もあり、十分に操船能力があるので問題ないものと思い、操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、入港に当たって船尾配置につき、養殖施設進入を招き、同施設及び付属漁具に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、三重式見港に入港中、防波堤内側に設けられた養殖施設付近において、出航船を認めて避航措置をとる場合、右舷船首方の養殖施設の存在を知っていたのだから、転舵によって同施設に著しく接近することのないよう、十分な減速措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は転舵しても同施設を替わすことができるものと思い、十分な減速措置をとらなかった職務上の過失により、養殖施設に向け転舵して進入し、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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