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2000年(平成12年)

平成12年仙審第9号
    件名
貨物船金昌丸漁船第一福吉丸漁具損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成12年5月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、根岸秀幸、上野延之
    理事官
保田稔

    受審人
A 職名:金昌丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第一福吉丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第一福吉丸漁撈長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
浮子綱下部の外側に膨らんだ身網上部が長さ約400メートルにわたって寸断、一部流失

    原因
船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件漁具損傷は、金昌丸が、避航動作が不十分で、漁撈に従事している第一福吉丸が展開していたまき網漁具から十分に遠ざからなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月6日01時55分
岩手県久慈湾南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船金昌丸 漁船第一福吉丸
総トン数 499トン 135トン
登録長 72.68メートル 36.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 860キロワット
3 事実の経過
金昌丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長D及びA受審人ほか3人が乗り組み、砕石1,250トンを積み、船首3.2メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成9年11月5日22時30分青森県八戸港を発し、京浜港東京区に向かった。
ところで、D船長は、平素から船橋当直者に対し、予定針路線にこだわらず、操業中の漁船を大きく避けること、定置網には近づかないこと及び不安を感じたら知らせることなどを指示していた。
23時00分A受審人は、D船長から単独の船橋当直を引き継ぎ、同時15分鮫角灯台から111度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、針路を145度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。


01時18分A受審人は、牛島灯台から080度3.9海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首2度6海里のところに第一福吉丸(以下「福吉丸」という。)の作業灯を初めて認め、同時にレーダーにより同船の映像を探知し、その後福吉丸が停留して船団でまき網による漁撈に従事していることを知り、平素同業種の船団を替わすときには一番端の船を左右どちらかに見て替わしていたので、もう少し近づいてから対処するつもりで、同じ針路、速力のまま進行した。
01時31分A受審人は、牛島灯台から107度4.5海里の地点に達し、福吉丸の灯火を右舷船首3度4.0海里に認めたとき、船団の中で一番西端に位置する福吉丸を左舷側に見るように右舵をとって替わすこととし、針路を170度に転じて続航した。

01時41分A受審人は、牛島灯台から124度5.6海里の地点に達し、福吉丸の灯火をほぼ正船首2.3海里に認めたとき、同船を左舷側に見るよう更に3度右転して針路を173度に転じ、同じ速力で進行した。
01時52分半A受審人は、福吉丸の灯火を左舷船首10度800メートルに認めたとき、同船の西方に直径約150メートルで展開されているまき網漁具に接触のおそれがある態勢で接近する状況となり、左舷側で漂泊していた船団の運搬船が探照灯の照射と汽笛により自船に向けて警告信号を行っていることを認めたが、小角度の転針を2回行って福吉丸を左舷側に見るようになったので、このまま進行すれば安全に航過できるものと思い、同漁具から十分に遠ざかるため、大幅に転針するなど十分な避航動作をとることなく、同漁具に接近していることに気づかず、その後運搬船が引き続き警告信号を行いながら自船の進路に向けて間近に接近したものの、依然同漁具を避けずに続航中、01時55分牛島灯台から137度7.1海里の地点において、金昌丸は、原針路、原速力のまま、福吉丸が展開していたまき網漁具の浮子綱下部の外側に膨らんだ身網に接触し、同網を寸断しながら乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、左舷側至近に浮子綱を見ながら航過し、福吉丸の漁具を損傷したことに気づかないまま続航しているうち、同船からの船舶電話により初めて事故を知り、D船長が同受審人から報告を受けて事後の措置に当たった。
また、福吉丸は、大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人及びC受審人ほか21人が乗り組み、さば漁の目的で、船首2.2メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、同月4日14時30分八戸港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かい、翌5日朝まで夜間操業を行ったのち漂泊し、12時00分から魚群探索をしながら南下し、夕刻から岩手県久慈湾南東方沖合の水深約80メートルの海域で操業を再開した。

ところで、福吉丸は、第七十五富丸(以下「富丸」という。)ほか1隻の運搬船、探索船、網船及びレッコボートで構成する合計5隻のまき網船団の網船で、浮子綱の長さ約1,800メートル網丈150メートルの身網に大手及び環各ワイヤを取り付けたまき網漁具を搭載し、夜間操業中はトロール従事船以外の漁撈に従事している船舶が表示する所定の灯火のほかに、紅色旋回灯1個及び500ワットの赤色灯2個をマストに掲げたほか、作業灯として500ワットの水銀灯16個を点灯し、網船を中心とする周囲に船団構成船舶が配置に就き、必要に応じて探照灯により漁網投入海面を照射し、接近する他の船舶に対して注意を喚起していた。
福吉丸のまき網操業は、投網開始時に網船が、漁網上縁の浮子綱片端に取り付けた大手ワイヤ及び同下縁を絞る環ワイヤを渡してあるレッコボートを離したのち、魚群を発見した探索船を中心にして右回りで直径約300メートルの円を描くように全速力前進で進行しながら投網し、約5分後に投網を終えて同ボートから両ワイヤを受け取り、展開した漁網に寄り付かないように探索船にうらこぎをさせながら、環ワイヤの自船側と受け取った側の両端及び大手ワイヤを同時にウインチで巻き、巾着状に漁網下縁を絞るとともに揚網を開始して浮子綱の直径を縮め、約35分間で環ワイヤの巻き締めを終えたのち、揚網を続けて同漁網の直径が約150メートルになったころ、網船の右舷前方に運搬船を移動させて両船の船首尾をロープでつなぎ、更に揚網を続けて運搬船とほぼ並行になったら同船に漁獲物の取り込みを行っていた。
B受審人は、自ら港の出入航時の操船に当たるほか、漁場と港との往復航時には、一等航海士と甲板員9人を2人5組として2時間交代制で船橋当直に就かせ、この間も在橋して見張りに当たり、漁場に至ればC受審人に同当直を委ね、探索、移動時には、同受審人の指示の下に自らと一等航海士又は甲板長が交代で操船に当たり、操業時には、投網から環ワイヤ巻き締めが終わるまで在橋し、ゾンデやソナーを使用して漁網の展開状態、魚群の羅網状態などの確認作業を行い、同巻き締め終了後に降橋して船尾甲板に行き、うらこぎ中の探索船や運搬船との無線交信に当たっていた。
翌6日00時45分C受審人は、牛島灯台から136度7.1海里の地点で、前夜から第3回目の投網を開始し、同時50分直径約300メートルの漁網の展開を終え、その後探索船にうらこぎをさせながら大手ワイヤと環ワイヤの巻き締めを始めた。

01時20分B受審人は、投網開始地点で環ワイヤの巻き締めが終わったとき、3海里レンジに設定したレーダーで接近する他船がいないことを確認後、降橋して船尾甲板に行き、探索船にうらこぎの強さと方向の指示に当たった。
01時37分C受審人は、同地点で浮子綱の巻き込みを行っているとき、船尾方約800メートルの地点で漂泊待機中の富丸から他船が漁具に向かってくる旨の報告をVHFで受け、レーダーと肉眼とにより左舷船尾5度3海里に金昌丸を初めて認めたが、自船は所定の灯火のほかに多数の作業灯を点灯してまき網の漁撈に従事しているので、航行中の他船が避けていくものと思い、富丸に引き続き金昌丸の動静監視を続けるよう指示して揚網を続行した。
01時41分C受審人は、同地点で船首を166度に向けて揚網を行っているとき、富丸から依然金昌丸が漁具に向首接近している旨の報告を受け、同船が左舷船尾4度2.3海里に自船及び展開している漁具に接近するのを認め、富丸に直ちに探照灯の照射及び汽笛により金昌丸に向かって警告信号を行うように指示した。

01時52分半C受審人は、同地点及び同船首方位で揚網中、富丸から金昌丸に対して警告信号を行ったが避航せずに接近している旨の報告を受けたとき、展開している漁具に接触のおそれがある態勢で、避航動作をとらないまま接近する金昌丸を右舷船尾3度800メートルに認め、富丸に探照灯の照射及び汽笛による警告信号を続けながら直ちに金昌丸の前方に進行するよう指示した。
01時55分少し前福吉丸は、海中に残っているほぼ半量のまき網漁具に金昌丸が接触するのを防ぐため、接近する同船に対して富丸の警告信号とともに自船の探照灯を照射して同信号を行ったが及ばず、前示のとおり、金昌丸が漁具に接触して乗り切った。
その結果、金昌丸は損傷がなく、福吉丸のまき網漁具は、浮子綱下部の外側に膨らんだ身網上部が長さ約400メートルにわたって寸断され、一部流失したが、のち修理された。


(原因)
本件漁具損傷は、夜間、岩手県久慈湾南東方沖合において、南下中の金昌丸が、避航動作が不十分で、まき網による漁撈に従事中の福吉丸が展開していた漁具から十分に遠ざからなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、岩手県久慈湾南東方沖合において、単独の船橋当直に就いて南下中、まき網による漁撈に従事している網船の福吉丸を避航する場合、漁具が網船を中心に広範囲に展開されることを知っていたから、福吉丸が展開していた漁具から十分に遠ざかるため、大幅に転針するなど十分な避航動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、小角度の転針を2回行い、まき網船団の中で一番西端に位置する福吉丸を左舷側に見るようになったので、このまま進行すれば安全に航過できるものと思い、十分な避航動作をとらなかった職務上の過失により、福吉丸が展開していた漁具から十分に遠ざからずに進行し、同漁具との接触を招き、長さ約400メートルにわたって身網上部の寸断及びその一部流失等の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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