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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月22日12時20分 和歌山県湯浅湾 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートいさみ丸 登録長 6.80メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
52キロワット 3 事実の経過 いさみ丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾とも0.40メートルの喫水をもって、平成10年3月22日07時20分和歌山県湯浅広港を発し、同時50分同港沖合に存在する鷹島付近の釣り場に至り錨泊した。 その後、A受審人は、同乗者とともに正午過ぎまで釣りを行っていたが、釣果があまり上がらなかったので、海図150号Cに記載されている黒島南西沖の魚礁へ移動するために錨を揚げ、12時10分鷹島南方灯標から305度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点を発進した。 ところで、当時、黒島西岸近くには定置網が存在し、紀伊海鹿島灯標から044.5度2.3海里の同岸を基点として、魚群の通路を遮りこれを本網へ誘導するための道網が沖に向けて315度方向に300メートル延び、これから本網が50メートルの幅で北東及び南西各方向にそれぞれ150メートルにわたって設置されていた。定置網には多数の浮子が取り付けられていたので、昼間同網に接近すれば、その存在が分かる状況であった。 A受審人は、発進と同時に針路を黒島北端の少し北に向く248度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、同時17分同島北端に近づいたところで7.0ノットの半速力に減速した。 12時18分A受審人は、鷹島南方灯標から264度1.6海里の地点に達したとき、針路を238度に転じ、同時18分半右舷船首100メートル付近を北東端として南西方へ帯状に延びた海面に点在する多数の浮子を初めて認め、これらが定置網のものであると判断した。 このときA受審人は、定置網に著しく接近すると、これに乗り入れるおそれがあったが、同網を十分離しその沖側に向く針路を選定することなく、左舷船首方の黒島寄りに浮子の少ない水域を見つけたことから、同水域に向ければ大丈夫と思い、12時19分黒島北西端を左舷側に100メートル隔てて通過中、針路を215度に転じ、道網を横切る態勢で続航していたところ、12時20分紀伊海鹿島灯標から043度2.3海里の地点において、いさみ丸は、原針路、原速力のまま、定置網に乗り入れ、道網及び付属の化繊ロープにプロペラを絡ませ、機関が停止した。 当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 その結果、船体は地元漁船によって定置網から引き出されたが、道網及び付属の化繊ロープの各一部が切断した。
(原因) 本件定置網損傷は、和歌山県湯浅湾において、黒島西岸近くを航行中、針路の選定が不適切で、定置網に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、和歌山県湯浅湾において、釣り場を移動するため、黒島西岸近くを航行中、前路に点在する多数の浮子を初めて視認し、これらを定置網のものであると判断した場合、定置網に著しく接近すると、これに乗り入れるおそれがあったから、同網を十分離しその沖側に向く針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、黒島寄りに浮子の少ない水域を見つけたことから、同水域に向ければ大丈夫と思い、定置網を十分離しその沖側に向く針路を選定しなかった職務上の過失により、同網に向首進行してこれに乗り入れ、道網及び付属の化繊ロープの各一部を切断させるに至った。 |