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2000年(平成12年)

平成11年長審第34号
    件名
漁船第5光生丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年1月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第5光生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機の主軸受、クランク軸受、カム軸受等が焼き付き

    原因
主機警報監視盤の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機警報監視盤の整備が不十分であったことと、主機潤滑油系統の点検が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月14日12時55分ごろ
長崎県臼浦港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第5光生丸
総トン数 16.01トン
登録長 13.44メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 216キロワット
回転数 毎分2,200
3 事実の経過
第5光生丸は、昭和54年3月に進水し、長崎県浅子漁港を基地とした中型旋網漁業船団所属のFRP製運搬船で、甲板上のほぼ中央部から船尾方にかけて操舵室及び機関室囲壁を順に配置し、主機として、キャタピラートラクター社製の3306TA型と称するディーゼル機関を機関室中央に据え付けたうえ、機関室囲壁の上に主機の煙突とミスト抜き管を設置し、操舵室内に主機の遠隔操縦ハンドルと警報監視盤を設け、同盤には、回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計、警報ブザー、各種警報ランプ等を備えてあった。

ところで、主機は、前部上方に冷却清水タンク兼クーラを、後部上方に過給機をそれぞれ備えたほか、一体となったシリンダブロックの前方から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、1番シリンダの前方にギアケースを配置し、1番シリンダから3番シリンダにかけての右舷側に6シリンダ分を一体にまとめた燃料噴射ポンプを取り付け、オイルパン内の潤滑油張込量を約50リットルとしてあった。そして、燃料噴射ポンプの底面とギアケースの右舷側面とにそれぞれねじ込んだ、いずれも外径10ミリメートル及び11ミリメートル、全長約40ミリメートルの異径ニップル状をした鋼製継手(以下「潤滑油管継手」という。)の間を、長さ約33センチメートルの耐油・耐圧ゴム製ホースでもって連結し、オイルパンから主機直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧された潤滑油が、潤滑油クーラ、潤滑油フィルタ等を経てシリンダブロック内に開けられた油路に入ったのち分岐し、同油の一部が同ホースを通って同ポンプに至るようになっており、最高設定圧力を約5キログラム毎平方センチメートルとした同油の圧力が0.4キログラム毎平方センチメートル以下になると、警報装置が作動し、警報監視盤に備えられた同油の圧力異常低下を示す赤ランプが点灯するとともに、警報ブザーが吹鳴するようになっていた。
一方、A受審人は、平成7年3月高等学校を卒業後、祖父が創立した有限会社Rに入社して前示船団の網船の甲板員となり、同8年4月一級小型船舶操縦士の資格を取得し、同年6月から本船に船長として乗り組み、船団とともに通常夕刻出港して朝方帰港するといういわゆる日帰り操業に従事しながら、自ら主機の取扱いにあたっていたところ、主機の発停時に、主機警報監視盤上で潤滑油圧力の異常低下を示す赤ランプが点灯せず、警報ブザーが吹鳴しないことに気付き、また、同10年春ごろには潤滑油圧力計が作動しなくなったことを認めたが、それまでに重大な機関損傷事故を起こしたことがなかったこともあって、いずれも大したことはあるまいと思い、修理業者に依頼するなどして同盤の整備を十分に行うことなく、警報装置と潤滑油圧力計の故障を放置したままであった。
さらに、A受審人は、主機始動時には、オイルパン内の油量を点検し、減少していれば補給することとしていたところ、いつしか補給量が次第に多くなったことに気付いたが、大したことはあるまいと思い、発航前に冷却清水タンク兼クーラの水量とオイルパン内の油量とを確認して補給を繰り返す程度で、主機潤滑油系統の点検を十分に行うことなく、燃料噴射ポンプの底面にねじ込まれた潤滑油管継手のねじ部に経年疲労による亀(き)裂を生じ、これから潤滑油が漏れ出したことに気付かないまま運航に従事していた。
こうして本船は、長崎県五島列島宇久島北西方沖合の漁場で操業を行う目的をもって、A受審人と甲板員1人が乗り組み、主機のオイルパンに潤滑油約5リットルを補給し、操舵室で主機を始動したのち、平成11年2月14日12時30分ごろ僚船とともに浅子漁港を発し、A受審人が操舵室で主機の回転数を毎分約800に定めて操船にあたり、甲板員が船首甲板上で魚倉のビルジ排出にあたって臼浦港内を航行中、前示亀裂が著しく進展してこれから潤滑油が噴出するようになり、やがてオイルパン内の油量が激減して潤滑油圧力が異常に低下したものの、警報装置も潤滑油圧力計も故障していて、A受審人が同圧力の異常低下に気付かないまま主機の運転を続けているうち、主機の主軸受、クランク軸受、カム軸受等が焼き付き始め、魚倉のビルジ排出が終わったので、A受審人が主機の回転数を上げ始めて間もなく、12時55分ごろ臼浦港楠泊東防波堤灯台から真方位130度1.1海里ばかりの地点において、甲板員が主機のミスト抜き管から多量の白煙が出ているのに気付いた。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、甲板員からの知らせで主機ミスト抜き管からの白煙排出を知り、直ちに主機を停止して調査したところ、オイルパン内の潤滑油がほとんど流出しているのを認め、主機は各部に焼付きを生じていて運転不能と判断し、僚船に救助を求めて浅子漁港に戻り、後日、主機を換装した。


(原因)
本件機関損傷は、主機警報監視盤の整備が不十分で、主機の警報装置と潤滑油圧力計がいずれも故障したまま放置されていたことと、主機潤滑油系統の点検が不十分で、主機燃料噴射ポンプ底部からの潤滑油漏れが放置されていたこととのため、長崎県臼浦港内を漁場に向けて航行中、オイルパン内の油量が激減したまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、小型漁船の船長として自ら主機の取扱いにあたる場合、主機警報監視盤に備えられた潤滑油圧力の異常低下を示す赤ランプや潤滑油圧力計が作動しなくなったばかりか、オイルパン内への潤滑油補給量が次第に多くなったのであるから、修理業者に依頼するなどして同盤の整備と主機潤滑油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、過去に重大な機関損傷事故を起こしたことがなかったこともあって、いずれも大したことはあるまいと思い、発航前に冷却清水タンク兼クーラ内の水量とオイルパン内の油量とを確認して補給を繰り返す程度で、同盤の整備も同系統の点検も十分に行わなかった職務上の過失により、警報装置と潤滑油圧力計の故障を放置していたうえ、燃料噴射ポンプの底面にねじ込まれた潤滑油管継手のねじ部に生じた亀裂からの漏油に気付かないで、長崎県臼浦港内を航行中、同亀裂が著しく進展してオイルパン内の油量が激減したまま主機の運転を続ける事態を招き、主軸受、クランク軸受、カム軸受等に焼付きを生じ、主機を換装させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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