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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年1月27日05時25分 瀬戸内海備讃瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船日成丸 総トン数 197トン 全長 57.20メートル 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
588キロワット 回転数
毎分320 3 事実の経過 日成丸は、昭和62年7月に進水した、主にポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成樹脂の国内輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として住吉マリンディーゼル株式会社が製造したS26G型と称するディーゼル機関を装備し、同機の動力取出軸に装着したプーリによりベルト駆動する電圧225ボルト容量50キロボルトアンペアの交流発電機を備え、操舵室に主機の遠隔操縦装置を設け、同室から主機の回転数制御及びクラッチの嵌脱(かんだつ)操作ができるようになっていた。 主機は、シリンダ径260ミリメートル(以下「ミリ」という。)ピストン行程470ミリのもので、船尾側の6番シリンダとフライホイール間にあるギヤケース内に装備されたカム軸駆動装置、及び同ケース上部の左舷側に株式会社ゼクセルが製造したRHD−6MC型と呼称する油圧式調速機を備え、燃料油にA重油を使用し、年間に約3,000時間運転されていた。 主機のカム軸駆動装置は、クランク軸歯車によりピッチ円径555ミリの第1中間歯車、これのボス部に同一軸心で取り付けられた同円径370ミリの第2中間歯車を介して同円径440ミリのカム軸歯車を駆動し、更に第1中間歯車が潤滑油ポンプ駆動歯車とかみ合うようになっていた。 また、主機の調速機駆動装置は、ギヤケース上部に固定された中間歯車軸の中央部に挿入した青銅製ブッシュを介して同軸の周りを回転する、モジュール5、ピッチ円径225ミリ、歯数45の炭素鋼製中間歯車がカム軸歯車とかみ合い、両端を青銅製ブッシュで支持した増速歯車軸に焼きばめにより固定されたモジュール5、同円径85ミリ、歯数17の炭素鋼製増速歯車、同歯車本体の船首側に厚さ10ミリ、外径100ミリ、内径49ミリの耐油性の合成ゴム製継手(以下「ゴム継手」という。)を装着し、同歯車本体に取り付けたピン6本で結合された第1かさ歯車、及び調速機駆動竪軸にキー止めされた第2かさ歯車を順に駆動して調速機軸を回転させるようになっており、中間歯車軸、増速歯車軸及び同駆動竪軸には潤滑油入口主管から分岐した枝管により強制注油されていた。 ところで、カム軸駆動装置及び調速機駆動装置の各歯車は、運転中、各シリンダの燃料噴射ポンプ及び吸・排気弁の駆動によるねじり振動、長期間の運転による機関振動、クラッチ操作時の負荷変動による衝撃力などにより、各歯面に衝撃荷重が繰り返し作用して歯面の摩耗が進行しやすく、これが進行すると更に同荷重が増大して歯車を損傷させることとなるので、主機取扱説明書には、バックラッシの標準値を0.15ないし0.20ミリ、許容限度を0.40ミリとし、運転時間3,000ないし6,000時間ごとに各歯車の状態を点検のうえバックラッシを計測するよう記載されていた。 また、調速機駆動装置は、ゴム継手がピン穴部周辺で摩耗や変形を生じると第1かさ歯車と第2かさ歯車とのかみ合わせ状態が変化することから、1年ごとにゴム継手を点検するよう主機取扱説明書に記載されており、増速歯車軸支持カバーの片方を開放することによりゴム継手の取替え及び中間歯車、増速歯車などの点検を容易に行うことができるようになっていた。 A受審人は、現船舶所有者である父親が日成丸を購入した平成3年6月から機関長として乗り組み、1人で機関の保守と運転管理にあたり、主機については、2年ごとにピストンを抜き出し、吸・排気弁及び過給機などの整備、潤滑油及びゴム継手の取替えを行い、半年ごとに燃料噴射弁をシリンダヘッドから抜き出して噴霧状態を点検し、約1箇月ごとに潤滑油こし器を切り替えてこし網を掃除するなどしており、同9年7月中間検査工事のため山口県熊毛郡上関町にある株式会社R造船所に入渠した際、主機のピストン、吸・排気弁及び過給機を整備したほか、調速機駆動装置を開放してゴム継手を取り替え、増速歯車などの歯面を目視点検してそのまま復旧したが、いつしか竣工以来、継続使用していた中間歯車軸や増速歯車軸の各ブッシュの摩耗が進み、中間歯車と増速歯車とのバックラッシが大きくなっていた。 その後、A受審人は、主機の運転を繰り返しているうち、同10年9月ごろから調速機駆動装置の作動音が次第に大きくなるのを認めたが、主機の回転にハンチングを生じていないので問題ないと思い、速やかに同装置の点検を行うことなく、中間歯車及び増速歯車の各歯面、中間歯車軸などのブッシュの摩耗が次第に進行し、両歯車のバックラッシが更に大きくなって衝撃荷重が増加するようになり、材料疲労により両歯車の歯面が切損するおそれのある状況となっていることに気付かず、そのまま運転を続けていた。 こうして、日成丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、合成樹脂445トンを載せ、船首2.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同11年1月25日13時35分千葉県千葉港を発し、愛媛県新居浜港に向け、主機を回転数毎分290にかけて備讃瀬戸東航路を西行中、かねてより材料疲労が進行していた増速歯車及び中間歯車の歯面数個が切損し、その破片がカム軸歯車などにかみ込み、同月27日05時25分鍋島灯台から真方位231度780メートルの地点において、異音を発して主機が停止した。 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。 航海当直に就いていたA受審人は、直ちに機関室に赴き、主機各部を点検したところ、調速機駆動装置の中間歯車及び増速歯車の歯面数個が根元から切損しているのを認め、運転不能と判断して事態を船長に報告した。 日成丸は、来援した引船により最寄りの香川県坂出港に引き付けられ、同港において精査した結果、前示調速機駆動装置の両歯車のほか、カム軸歯車、クランク軸歯車、第1中間歯車及び第2中間歯車が切損した歯面の破片をかみ込んで損傷していることが判明し、のち損傷した各歯車、中間歯車軸、増速歯車軸及び各ブッシュなどの取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、主機調速機駆動装置の作動音が次第に大きくなった際、同装置の点検が不十分で、中間歯車と増速歯車とのバックラッシが過大となったまま運転が続けられ、両歯車が材料疲労したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機調速機駆動装置の作動音が次第に大きくなったのを認めた場合、歯車のかみ合せに変化を生じているおそれがあったから、速やかに同装置の点検を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機の回転にハンチングを生じていないので問題ないと思い、速やかに同装置の点検を行わなかった職務上の過失により、中間歯車と増速歯車とのバックラッシが過大となっていることに気付かず、両歯車に材料疲労を招き、歯面の切損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |