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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月9日15時30分(南アフリカ共和国標準時) 南アフリカ共和国ケープタウン港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船碧風 総トン数 1,963トン 全長 94.32メートル 機関の種類
過給機付2サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 2,625キロワット 回転数
毎分210 3 事実の経過 碧風は、昭和61年11月に進水した、船尾船橋機関室型の鋼製冷凍貨物運搬船で、三段構造となっている機関室下段のほぼ中央部に主機を据え付け、上段の船尾寄りに2基の発電機用原動機(以下「補機」という。)が船首尾方向に並行して設置されていた。 補機は、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した、T220L−UT型と称する定格出力610キロワット同回転数毎分720の4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、船尾側に電圧450ボルト容量700キロボルトアンペアの発電機を連結し、右舷側を1号補機、左舷側を2号補機と呼び、各シリンダには船尾側から順番号が付されており、同機の連接棒大端部は、斜め割りセレーション合わせ方式で、クランクピン径が170ミリメートル(以下「ミリ」という。)であった。 補機の連接棒ボルトは、クロムモリブデン鋼(材料記号SCM435)製で、ねじの呼びM30、ピッチ2ミリの六角リーマボルトが使用されており、全長188ミリ、頭部の長さ25ミリ、円筒部の長さ125ミリ、ねじ部の長さ38ミリ、頭部の二面幅36ミリ及びリーマ部径31ミリで、連接棒大端部の軸受キャップの上下に各1本が85キログラムメートルの締付けトルクで締め付けられたうえ、回り止め金具を装着するようになっていた。 碧風は、静岡県清水港を基地とし、南大西洋においてまぐろ延縄漁に従事している20ないし30隻の漁船を巡回し、漁獲物を積み取るほか、積載してきた餌、燃料油、食料及び託送品などを配送する、いわゆる仲積船業務を1航海に約半年かけて行っているもので、乗組員は2航海を終えて休暇下船したのち、別の所属船に転船する勤務形態をとっていた。 また、碧風では、補機について、冷凍機と荷役ウインチとを同時運転する際には並列運転とするなどして年間に約6,000時間運転しており、運転時間が8,000ないし10,000時間に達したころ、全数のピストン抜きを伴う開放整備を実施し、整備予定時期が入渠時期と重なるときは業者に開放整備を行わせていたが、これ以外のときは航海中に乗組員の手で行うようにしていた。 A受審人は、平成8年10月に機関長として乗り組み、日本人の一等、二等両機関士、フィリピン人の三等機関士、操機長及び機関員3人を指揮して機関の保守運転管理に当たり、二等機関士に補機を担当させて運転時間及び保守整備などのデータ管理も行わせていた。 ところで、補機の連接棒ボルトは、運転中にピストン上昇時の慣性力によって繰り返し引張り応力が作用し、材料疲労が進行することから、機関メーカーでは運転時間が20,000時間に達するごとに新替えするよう、機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。 しかしながら、A受審人は、1号補機の連接棒ボルトが同5年9月以来使用されているもので、同受審人が乗り組んだとき、すでに使用時間が約18,000時間を経過し、乗船後約4箇月経過した同9年2月ごろには同ボルトの使用時間が20,000時間を超える状況にあったが、新替え時期になれば二等機関士から報告があるものと思い、自ら同機関士に次回の新替え時期を確かめるなどして新替えすることなく、同ボルトが使用限度を超えていることに気付かないまま継続使用していた。 こうして、碧風は、A受審人ほか19人が乗り組み、同9年5月30日17時00分神奈川県横須賀港を発し、越えて7月3日18時50分(南アフリカ共和国標準時、以下同じ。)ケープタウン港に寄せたのち、操業中の漁船を巡回し、まぐろ約700トンを積載して8月3日同港に戻り、翌4日15時15分同港内のダンカンドック構内のE岸壁に係留した。 碧風は、引き続き同岸壁に係留したまま、同港に入港する漁船からまぐろを積み取ることとなり、連日補機を並列運転としているうち、同月9日15時30分、1号補機の材料疲労が進行していた1番シリンダの上側連接棒ボルトが伸び、下側の同ボルト及び連接棒大端部の軸受受金部に衝撃力とせん断力とが作用したため、両ボルトともねじ部で破断し、次いで上側ボルトがセレーション合わせ部付近で破断して連接棒が振れ回り、架構を突き破って右舷側に飛び出した。 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、港内は穏やかであった。 折から甲板上で休憩していたA受審人は、煙突からの白煙と機関室からの異音とに気付き、機関室に急行したところ、1号補機が停止し、右舷側床面にピストンと連接棒が転がり、架構から冷却清水が吹き出ているのを認め、運転中の2号補機及び発電機に影響が及ばないよう、事後措置に当たった。 その結果、1号補機は、前示損傷のほか、クランク軸に打ち傷、台板に亀裂及びシリンダライナに欠損が生じていることなどが判明し、保有予備品を使用して仮修理が行われ、のち清水港において損傷した部品がいずれも新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、補機連接棒ボルトの整備が不十分で、同ボルトが使用限度を超えて継続使用され、材料疲労が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の保守運転管理に当たる場合、補機連接棒ボルトには繰り返し引張り応力が作用し、長時間使用すると材料疲労が生じて破断するおそれがあったから、取扱説明書に記載された使用限度を超えることのないよう、所定の周期で同ボルトを新替えすべき注意義務があった。ところが、同人は、新替え時期に達すれば補機担当機関士から報告があるものと思い、自ら同機関士に次回の新替え時期を確かめるなどし、所定の周期で同ボルトを新替えしなかった職務上の過失により、使用限度を超えていることに気付かないまま運転を続け、材料疲労が進行して同ボルトの破断を招き、連接棒の曲損、シリンダライナの欠損及び台板に亀裂等を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |