日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年函審第50号
    件名
漁船第十八海幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年1月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第十八海幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1番、4番及び5番シリンダのピストンがシリンダライナに焼き付き、2番及び3番シリンダのシリンダライナにかじり傷

    原因
主機潤滑油圧力の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油圧力の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月22日16時33分
北海道雄冬岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八海幸丸
総トン数 19トン
登録長 19.33メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,450
3 事実の経過
第十八海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、平成2年12月に進水し、刺網、はえ縄及びいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が昭和63年11月に製造した6NSD−M型と呼称するディーゼル機関を備え、シリンダには船尾側から順番号を付し、軸系とは逆転減速機で連結していた。
主機の潤滑油系統は、総油量100リットルで、油受内の潤滑油が直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧され、潤滑油冷却器、圧力調整弁、ノッチワイヤ式こし器を経て主管に至り、分岐してクランク軸、ピストン冷却、カム軸などの各系統に送られ、各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻るようになっていた。なお、ピストン冷却系統は、主管から分岐した潤滑油が、各シリンダのシリンダライナ下方に設けられた噴油金具から噴出し、アルミ合金製一体型のピストンを内側から冷却してクランク室に落下するものであった。

主機の潤滑油圧力調整弁は、調整ネジでピストン弁を押しつけるスプリングの力を変え、余剰の潤滑油を油受に逃して主管の油圧が4ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)になるように調整するもので、主管の油圧が2.5キロ以下になると警報装置が作動し、船橋の主機操作盤に組み込まれた潤滑油圧力低下警報の表示灯が点灯するとともにブザーが鳴るようになっていた。また、潤滑油圧力計は、船橋の主機操作盤にはなく、機関室の主機付計器盤にのみ設けられていた。
ところで、主機の潤滑油圧力は、4ないし6キロが正常油圧で、圧力計の文字盤にはその油圧の範囲が緑色で示されており、したがって、警報設定値の2.5キロさえあれば十分ということではなく、主機の運転管理に当たる者としては、操業中でも警報装置だけに頼って主機の運転を長時間放置することなく、機関室へときどき降りて潤滑油圧力計を監視し、指針が正常範囲から逸脱していないかどうか確認する必要があった。

A受審人は、平成7年11月に中古の本船を購入して船長で乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも従事していたもので、主機の潤滑油管理に当たっては、年に3回ほど潤滑油を新替えし、その際、油受に新油を約50リットル入れ、フラッシングしたのち油受の潤滑油を排出して新油を張り込むようにし、また、出港時には、潤滑油量を点検して消費分を適宜補給していた。
海幸丸は、はえ縄漁の目的で、A受審人ほか6人が乗り組み、平成10年10月22日04時30分北海道余市港を発し、主機を回転数毎分1,300(以下、回転数は毎分のものとする。)にかけ全速力で同港北方の雄冬岬西方沖合漁場に向かい、07時30分同漁場に達して操業を開始し、主機を停止回転数650から回転数1,300の全速力にかけて、はえ縄の揚縄と投縄を繰り返していたところ、主機の潤滑油圧力調整弁のピストン弁が油中の異物をかみ込んで固着し、このため同調整弁から油受への戻り油量が多くなって油圧が低下し、ピストン冷却油量が不足気味となった。

16時ごろA受審人は、えび約150キログラム漁獲したところで操業を終え、乗組員に漁獲物の整理に当たらせて帰途につくこととしたが、このとき余市港を発してから12時間近く経っていたものの、その間一度も機関室に降りず、主機付潤滑油圧力計にて油圧を確認していなかった。ところが、同人は、潤滑油圧力が低下すれば警報装置が作動するからそのとき対処しても遅くないと思い、潤滑油圧力を確認しなかったので、同圧力が4ないし6キロの正常範囲以下に低下していることに気付かなかった。
こうして海幸丸は、16時30分主機を回転数1,300にかけて漁場を発進し、全速力前進の10.0ノットに整定して間もなく、潤滑油圧力低下によるピストン冷却油量が不足気味であったところへ、シリンダ内燃焼温度が上昇したことからピストンが過熱膨張し、1番、4番及び5番シリンダのピストンがシリンダライナに焼き付き、16時33分雄冬港北防波堤灯台から真方位265度13.6海里の地点において、主機の回転が低下した。

当時、天候は晴で風力2の東南東の風が吹き、海上は平穏であった。
A受審人は、船橋当直中、主機が異常音を発するとともに回転が低下したので船尾方を振り返り、クランク室ミスト抜き管から白煙が出ているのを認め、操縦ハンドルを下げると同時に潤滑油圧力低下警報装置が作動し、主機が自停したので、潤滑油こし器を開放点検したところ、エレメントに白色の金属粉が多量に付着しており、運転不能と判断して僚船に救助を求めた。
海幸丸は、来援した僚船によって余市港に引き付けられ、業者が主機を開放点検した結果、前示損傷のほか2番及び3番シリンダのシリンダライナにかじり傷を認め、のち損傷部品を新替えした。


(原因)
本件機関損傷は、操業を終えて漁場を発進するに当たり、主機潤滑油圧力の確認が不十分で、圧力調整弁の異物のかみ込みにより同圧力が低下したまま漁場を発進し、ピストンが冷却油量不足により過熱膨張したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、操業を終えて漁場を発進する場合、主機潤滑油圧力の低下を見逃すことのないよう、同圧力を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、主機の潤滑油圧力が低下すれば警報装置が作動するからそのとき対処しても遅くないと思い、同圧力を十分に確認しなかった職務上の過失により、圧力調整弁の異物のかみ込みにより同圧力が低下していることに気付かないまま漁場を発進する事態を招き、ピストンを冷却油量不足により過熱膨張させてシリンダライナに焼き付かせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION