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2000年(平成12年)

平成11年門審第52号
    件名
漁船第三静海丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、清水正男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第三静海丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
4番シリンダのクランクピン軸受など損傷、クランク軸、連接棒など損傷

    原因
主機冷却清水の漏洩箇所の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却清水の漏洩箇所の点検が不十分で、清水が潤滑油中に混入するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月11日17時14分
長崎県対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三静海丸
総トン数 18トン
全長 21.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 314キロワット
3 事実の経過
第三静海丸(以下「静海丸」という。)は、昭和63年12月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機として株式会社小松製作所が製造したEM665A−A型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
主機の冷却清水系統は、海水間接冷却式の清水密閉循環方式で、主機側面の右舷船首側下部に設置された主機直結の遠心式冷却清水ポンプ(以下「清水ポンプ」という。)で吸引加圧された清水が、潤滑油冷却器を経由して各シリンダジャケットを冷却する系統及び排気集合管を経由してシリンダヘッドを冷却する系統に分岐し、各々の出口で合流して自動温度調節弁に至り、同調節弁から清水冷却器を経由するものと、同冷却器をバイパスするものとに分かれ、冷却清水膨張タンク(以下「清水タンク」という。)と接続している同ポンプの吸入管で再び合流して循環するようになっていた。

冷却清水系統は、保有水量が約43リットルで、自動温度調節弁入口側の清水温度が設定温度以上に上昇すると作動する冷却清水温度上昇警報装置及び容量約7リットルの清水タンクの水量が1.8リットル減少すると作動する熱交換器水量低下警報装置が備えられ、各装置が作動すると操舵室の主機計器盤に組み込まれた赤ランプが点灯したうえ警報ブザーが鳴るようになっていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室底部の油だめに入れられた約60リットルの潤滑油が、主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引加圧され、潤滑油冷却器及び同油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管からクランク軸、カム軸、ピストンピン、動弁機構、燃料噴射ポンプなどを潤滑する系統、噴霧ノズルから各ピストン内面に噴射されてピストンを冷却する系統及び過給機を潤滑する系統にそれぞれ分岐して給油され、いずれも油だめに戻って循環するようになっていた。

潤滑油系統は、同油圧力が設定圧力以下に低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動し、操舵室の主機計器盤に組み込まれた赤ランプが点灯したうえ警報ブザーが鳴るようになっていた。
ところで、静海丸は、清水ポンプのポンプ軸がポンプケーシングを貫通する部分に、空気の漏入及び清水の漏洩を防止する軸封装置として、カーボン製のシールリングとセラミック製のシートで摺動面を構成するメカニカルシールが用いられ、同装置が損傷して清水の漏洩が発生した場合、漏洩水がポンプケーシングに設けられたドレン穴を経て機関室内に排出されるようになっていた。
A受審人は、平成元年の就航時から船長として静海丸に乗船し、機関の運転及び保守管理に当たり、主機潤滑油、同油こし器、過給機のエアフィルタ、防食亜鉛などの取替え並びに潤滑油量及び冷却清水量の点検などを行っていたものの、いつしか清水ポンプの軸封装置が不良となったが、同ポンプのドレン穴がごみなどで塞がれていたことから、漏洩水がポンプケーシングなどを伝わって同ポンプ駆動歯車部の開口部から主機のクランク室内に浸入するようになり、同9年12月ごろ清水タンクの水量が減少して熱交換器水量低下警報装置が作動し、その後も約1箇月毎に同装置が作動するようになり、清水の補給量が3日毎に約3リットルに増加したうえ、主機潤滑油の補給量が徐々に減少し、月平均約40リットルであった同油の補給量が同10年4月ごろから月平均20リットル以下に減少したことに気付いたが、減少分の清水を補給しておけば大丈夫と思い、修理業者に依頼するなどして、主機冷却清水の漏洩箇所の点検を十分に行うことなく、月平均400時間ほど主機の運転を続けていた。
こうして、静海丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、同年6月11日13時00分山口県特牛(こっとい)港を発し、主機を全速力前進の回転数毎分1,800にかけて対馬東方沖合の漁場に向けて航行中、16時40分熱交換器水量低下警報装置が作動し、警報に気付いた同受審人が主機を停止して清水タンクに約15リットルの清水を補給したのち、17時00分主機を再始動して同回転数で航行を続けたものの、清水の混入による潤滑油の著しい性状劣化により潤滑が阻害されていた4番シリンダのクランクピン軸受などが損傷し、17時14分北緯34度30分東経130度00分の地点において、主機の回転が急に低下し始め、そのまま停止した。

当時、天候は晴で風力5の北東風が吹き、海上には約2メートルの波があった。
操船中のA受審人は、機関室に赴き、主機潤滑油量の点検を検油棒で行ったところ、同棒に水滴及び乳化した潤滑油の付着を認めたことから、主機が運転不能と判断し、僚船に曳航を依頼した。
静海丸は、僚船に曳航されて長崎県櫛漁港に引き付けられ、のちに主機を開放した結果、クランク軸、連接棒などに損傷が生じていることが認められ、損傷部品が取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、主機冷却清水の補給量が増加し、主機潤滑油の補給量が減少した際、同清水の漏洩箇所の点検が不十分で、清水が同油中に混入するまま主機の運転が続けられ、同油の著しい性状劣化により軸受などの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機冷却清水の補給量が増加し、主機潤滑油の補給量が減少したことを認めた場合、同清水が同油中に混入しているおそれがあったから、修理業者に依頼するなどして、同清水の漏洩箇所の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、減少分の清水を補給しておけば大丈夫と思い、同清水の漏洩箇所の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、清水ポンプの軸封装置から漏洩した清水の主機潤滑油への混入を生じさせ、潤滑油の著しい性状劣化による潤滑阻害を招き、クランク軸、連接棒などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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