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2000年(平成12年)

平成11年門審第32号
    件名
貨物船日泰丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、西山烝一、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:日泰丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機の軸受の摩耗、タービン翼車及びコンプレッサ翼車が損傷等

    原因
主機潤滑油の圧力低下の原因調査方法不適切

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の圧力が低下した原因の調査方法が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月31日09時30分
大韓民国ウルサン港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船日泰丸
総トン数 499トン
全長 64.89メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
日泰丸は、平成6年4月に進水し、ナイロンの原料であるカプロラクタムの輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、主機として株式会社赤阪鐵工所が製造したA28SR型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダに船首側から順に1番から6番までの番号が付されていた。
主機の過給機は、石川島播磨重工業株式会社が製造したRH203型と呼称する、水冷式の排気ガスタービン過給機で、単段の遠心式コンプレッサと単段の斜流タービンが一本のタービン軸で結合されたもので、同軸の軸方向の移動を抑える推力軸受が備えられ、また同軸を支持するために潤滑油膜が軸受メタルの内外面で形成され、軸受メタルがつれ回りすることでタービン軸の回転速度よりも軸受面の滑り速度が遅くなり、固定式の軸受より動的安定効果が増加する、フローティングメタルと呼称される浮動式軸受が使用されていた。

過給機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめに入れられた約3,500リットルの潤滑油が、ろ過能力32メッシュの複式金網潤滑油こし器である同一次こし器を経て主機駆動の主潤滑油ポンプで吸引・加圧され、同二次こし器で清浄されたのち潤滑油冷却器を経て主機潤滑油主管に至り、同主管から分岐して過給機の軸受を潤滑したのち、再び潤滑油だめに戻るようになっていた。
潤滑油二次こし器は、過給機のメーカーが目開き50ミクロン以下のこし器を装備するよう要請していることから、IHI−MOATTIオートフィルタGM150A−E型と呼称するろ過能力30ミクロンの逆洗式自動こし器が装備されていた。
ところで、日泰丸は、A受審人が一等機関士として乗り組んで同6年10月に保証入渠した際、潤滑油二次こし器が閉塞した場合を考慮して、同こし器に80Aのバイパス配管及びバイパス弁として5K−80Aの玉型弁が増設されていた。

A受審人は、平成4年にR株式会社に入社以来、一等機関士及び機関長として日泰丸に度々乗り組んでいたもので、同10年5月21日機関長として同船に乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、翌22日主機潤滑油主管圧力が2.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)となっているのを認め、以前に乗り組んでいた時と比べ同油圧が0.2キロ低下していたことから、潤滑油二次こし器の閉塞が懸念されたので、圧力が低下した原因の調査を行うこととしたが、潤滑油一次こし器で同油中の異物が取れているから大丈夫と思い、潤滑油二次こし器の取扱説明書に記載されているように、同こし器を手動で駆動して逆洗を行うなり、同こし器のドレン抜きを行うなりして、圧力が低下した原因の調査を適切な方法で行うことなく、増設したバイパス弁を開弁する方法で行い、原因調査を行ったものの、潤滑油の圧力が変わらなかったので原因を究明できないまま、調査を打ち切って直ちに閉弁した。
A受審人は、バイパス弁を開弁したことによって潤滑油二次こし器に捕捉されなくなった潤滑油中の異物が過給機の浮動式軸受などに流入して軸受メタルに噛み込み、同メタルが損傷してタービン軸の軸心に狂いが生じ、潤滑油膜の形成が不十分となって潤滑が阻害されるようになり、軸受の摩耗でタービン翼車及びコンプレッサ翼車が各車室と接触するおそれのある状況となっていたものの、このことに気付かないまま、主機の回転数を毎分290及び過給機の回転数を毎分31,000の通常状態で運転を続行していた。
こうして、日泰丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、大韓民国ウルサン港で揚荷役を行ったのち、船首1.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同月31日09時00分同港を発し、愛媛県新居浜港に向け、主機の回転数を毎分250の半速力前進にかけて進行中、過給機の軸受の摩耗が進行したことから、タービン翼車及びコンプレッサ翼車が各車室と接触して損傷し、同日09時30分ウルサン港内の北緯35度31.10分東経129度22.96分の地点において、同機が異音を発した。

当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
日泰丸は、主機を停止して過給機を開放した結果、同機の継続使用が不能と判断されたので、無過給運転が可能なように処置を施し、主機の回転を下げて航海を続行し、のち過給機の損傷部品が取り替えられるとともに、潤滑油二次こし器のバイパス配管及びバイパス弁が撤去された。


(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油で過給機が潤滑されている機関の運転管理に当たり、同油の圧力が低下した原因の調査方法が不適切で、潤滑油二次こし器のバイパス弁の開弁により、同こし器で捕捉されなくなった潤滑油中の異物が過給機の軸受メタルに噛み込み、タービン軸の軸心に狂いが生じ、軸受の潤滑が阻害され、軸受の摩耗が進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機潤滑油で過給機が潤滑されている機関の運転管理に当たり、同油の圧力が低下した原因の調査を行う場合、潤滑油二次こし器のバイパス弁を開弁して調査を行うと、同こし器で捕捉されなくなった潤滑油中の異物が過給機の浮動式軸受などに流入し、軸受メタルに噛み込むおそれがあったから、同こし器を手動で駆動して逆洗を行うなど、潤滑油の圧力が低下した原因の調査を適切な方法で行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潤滑油ポンプ入口の潤滑油一次こし器で同油中の異物が取れているから大丈夫と思い、同油の圧力が低下した原因の調査を適切な方法で行わなかった職務上の過失により、過給機の軸受メタルに異物の噛み込みを生じさせ、タービン軸の軸心の狂いによる軸受の潤滑阻害を招き、軸受の摩耗が進行したことによって、タービン翼車、コンプレッサ翼車、各車室などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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