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2000年(平成12年)

平成11年門審第53号
    件名
漁船金比羅丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、清水正男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
クランク軸、連接棒、各軸受メタルなどに損傷

    原因
主機調速機の作動油量の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機調速機の作動油量の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月19日05時30分
長崎県壱岐島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 19トン
全長 23.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
金比羅丸は、昭和60年3月に進水したいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LX−ET型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダに船首側から順に1番から6番までの番号が付されていた。
主機は、船尾側の油圧湿式多板クラッチ形逆転減速機を介してプロペラを駆動するもので、始動、増減速及びクラッチ操作を船橋の操縦台で行い、回転数の制御を主機船尾側の調時歯車室左舷側上面に取り付けられた、油圧式の調速機で行うようになっていた。

調速機は、NZ61W型と呼称するもので、調時歯車室に貫通した同機の入力軸に主機の回転が伝達され、同軸に取り付けられた歯車式油圧ポンプで調速機内の作動油を吸引・加圧して同機のパワーピストンの上下面に送り、上下面の差圧による同ピストンの動きをトルクに変えて同機の出力レバーを回転させるもので、主機の回転数が変化すると内蔵された重錘に作用する遠心力も変化し、重錘が変位してパイロット弁を上下に移動させてパワーピストンに送る作動油の量及び流入方向を制御するようになっていた。
主機の回転数制御は、船橋の操縦ハンドルで設定された回転数を維持するよう、調速機の出力レバーの動作に連動するリンク装置が燃料噴射ポンプの燃料加減軸の位置を調整することで行われていた。
A受審人は、平成2年から船長として金比羅丸に乗船し、B受審人に調速機の作動油量の点検・補給などについての指導を行いながら運転管理の実務を同受審人に順次委任し、月平均300時間ほど主機を運転して操業を続けていた。

B受審人は、昭和60年から甲板員として金比羅丸に乗船し、A受審人から機関の運転管理についての指導及び整備時期など実務の指示を受け、主機潤滑油の交換、同油こし器の取り替えなどを行うほか、平素、冷却水量の点検、調速機の作動油量の点検・補給なども行っていたが、同機の作動油の補給回数が少ないことから、同油量の点検を励行しないまま、同油の減少に気付かないで操業に従事していた。
ところで、調速機は、同機の上面に設置されたエアブリザーを取り外し、1.3リットルの油量となる油面計の中心線のやや上まで作動油を補給し、規定の油量を常時維持する必要があったものの、同機の入力軸の貫通部に設けられたオイルシール及び同軸の摩耗が進行し、いつしか摩耗部から同油が調時歯車室に漏洩するようになり、同油の減少によって同機が不作動となるおそれのある状況となっていた。

こうして、金比羅丸は、両受審人ほか1人が乗り組み、平成10年5月18日09時00分島根県浜田漁港を発し、長崎県壱岐島北方の漁場に至って操業中、以前から調速機の摩耗部から入力軸を伝って漏洩していた作動油の漏洩量が増加し、油量が不足して同機の歯車式油圧ポンプが空気を吸引するなどして作動油の圧力が低下し、同機の不作動から燃料噴射ポンプの燃料加減軸の位置を維持することができなくなり、同軸が燃料を減らす方向に移動して翌19日00時00分自然に主機が停止した。
船橋で就寝していたA受審人は、自然に主機が停止したことに気付き、漁労に従事していたB受審人と共に機関室に赴き、両人で燃料油こし器を開放して点検を行い、燃料油系統が空気を吸引したことによる停止でないことを確認したうえ、主機を再始動したところ回転が不安定であることを認めたが、主機を運転することに気を取られ、調速機の作動油量の点検を十分に行うことなく、漏洩で同油が減少したまま、同機の出力レバーの動作に連動する停止レバーを紐で縛り、その先端を船橋まで延長して同所で紐の長さを調整することで、燃料加減軸の位置を直接調整する応急措置を施し、操業を打ち切ったうえ、主機を運転し、長崎県勝本港に向かって帰途に就いた。

金比羅丸は、主機の回転数を全速力前進の毎分1,600を下回る毎分1,500にかけて航行中、やがて霧が発生し、視界が制限される状況になったので、A受審人がレーダーを注視しながら操船に当たっているうち、レーダー画面上で他船の映像が接近してきたことから、停止レバーの紐を若干緩めたのち、主機のクラッチを中立として無負荷状態としたところ、調速機の不作動で負荷の急激な低減に対する適切な燃料噴射量の調整が行われず、同日05時30分若宮灯台から真方位015度8.0海里の地点において、主機が急回転して3番シリンダのクランクピン軸受に油膜切れなどの潤滑阻害が生じ、同軸受が焼き付き気味となり、主軸受なども損傷し始めた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
金比羅丸は、主機を低速回転として航行を続け、勝本港の岸壁に着岸中、同機を後進にかけたところ再び停止し、のちに同機を開放した結果、クランク軸、連接棒、各軸受メタルなどに損傷が生じていることが認められ、主機が換装された。


(原因)
本件機関損傷は、調速機が付設された主機を運転するに当たり、主機調速機の作動油量の点検が不十分で、漏洩で同油が減少したまま、運転が続けられ、調速機が不作動となり負荷に対する適切な燃料噴射量の調整が行われず、主機が急回転して軸受部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
金比羅丸の主機調速機の運転管理が適切でなかったのは、船長が自然に主機が停止した際、同機の作動油量の点検を十分に行わなかったことと、甲板員が平素、同機の作動油量の点検を励行しなかったこととによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、調速機が付設された機関の運転管理に当たり、主機の回転が不安定となったことを認めた場合、調速機が不作動となるおそれがあるから、主機調速機の作動油量の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機を運転することに気を取られ、主機調速機の作動油量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、漏洩で作動油が減少したまま主機を運転し、調速機の不作動による主機の急回転を生じさせ、軸受部の潤滑阻害を招き、クランク軸、連接棒、各軸受メタルなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、機関の運転管理の実務を船長から任され、平素、調速機の作動油量の点検・補給などを行っていた際、主機調速機の作動油が減少して不作動とならないよう、同油量の点検を励行しなかったことは、本件発生の原因となる。

しかしながら、以上のB受審人の所為は、自然に主機が停止した際、船長が主機調速機の作動油量の点検を十分に行わなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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