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2000年(平成12年)

平成11年広審第100号
    件名
貨物船第二東洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、中谷啓二
    理事官
弓田斐雄

    受審人
A 職名:第二東洋丸一等機関士 海技免状:三級海技士(機関)
    指定海難関係人

    損害
7番シリンダのピストンヘッド、同スカート等が損傷、過給機のタービンノズル、タービンロータ軸及び同ケーシング等も損傷

    原因
主機ピストン抜き整備の際、組立て時に内部金物の装着の有無確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機ピストン組立て時、内部金物の装着の有無についての確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月9日12時40分
瀬戸内海 備讃瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二東洋丸
総トン数 4,428トン
全長 120.00メートル
機関の種類 過給機付2サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 7,060キロワット
回転数 毎分158
3 事実の経過
第二東洋丸(以下「東洋丸」という。)は、平成元年4月に進水した、広島県広島港と青森県八戸港及び北海道苫小牧港間の航路に就航する、財団法人日本海事協会MO船級の船首船橋船尾機関室型自動車運搬船兼貨物船で、主機として株式会社赤阪鐡工所が製造した8UEC45LA型と称するクロスヘッド形自己逆転式ディーゼル機関を装備し、同機に三菱重工業株式会社製MET53SC型と称する排気ガスタービン過給機が備え付けられていた。
主機のピストンは、組立て形で、直径450ミリメートル(以下「ミリ」という。)のクロムモリブデン鋼製ピストンヘッド、直径367ミリ高さ85ミリの鋳鉄製内部金物及び鋳鉄製ピストンスカートなどで構成され、同ヘッドの内側に内部金物を挿入して六角穴付ボルト3本で固定し、同ヘッド内側に植え込まれたねじの呼び径20ミリ長さ191ミリの植込みボルト及び特殊ナット6組でピストン棒上部フランジを固定し、更に同フランジにねじの呼び径16ミリ長さ40ミリの針金穴付ボルト6本で同スカートを取り付けるようになっていた。

主機のピストン冷却油系統は、機関室二重底にあるサンプタンクから電動式潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油の一部が、ピストン冷却油入口主管に至り、同主管からシリンダごとのクロスヘッド部に導かれ、ピストン棒中心部を貫通する内管を通ってピストンヘッドに至り、装着された内部金物の周囲を流れて同ヘッドを冷却したのち、内管の外側を通ってクランクケース内に排出されるようになっており、ピストン棒上部フランジ側面に2本、各特殊ナットの下面に1本のOリングをそれぞれ装着して油密を保持していた。また、ピストン冷却油は、同主管部の圧力が1.5ないし2.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)、同油出口温度が摂氏50ないし55度で、同油圧力が1.1キロ以下及び同温度が摂氏65度以上になると、それぞれ警報装置が作動するようになっていた。
主機の排気系統は、排気ガスが、各シリンダヘッド中央部にある排気弁から主機右舷側にある静圧式排気集合管を経て過給機排気入口ケーシングに至り、タービンロータ軸を回転させたのち排気ガスエコノマイザを経て煙突から放出されていた。
主機の掃気系統は、過給機によって吸入加圧された掃気が、空気冷却器及び水滴分離器を経て主機右舷側にある掃気トランク一次室に入り、逆止め掃気弁、次いで前後に各1個の安全弁及び前後方に消火用蒸気管が敷設された掃気トランク二次室を経て各シリンダライナ下方の掃気室に導かれ、ユニフロー掃気式により同ライナ下部周囲の掃気孔からシリンダ内に供給されるようになっており、掃気トランクの前部端に2基の電動式補助ブロワが備えられていて、主機の低速運転時には同一次室から掃気を吸引加圧して同二次室に送り、掃気量の不足を補うようになっていた。

また、掃気室内は、残留していたシリンダ油などの油分やスラッジなどの可燃物がブローバイにより着火することがあるため、この発生を早期に検知できるよう温度センサを設け、同室内の温度が摂氏80度以上に上昇すれば同室火災警報装置が作動するとともに、自動危急減速装置が作動して主機の回転数を毎分55に減じるようになっていた。
ところで、主機は、全速力時の燃料油をC重油とし、約83パーセント負荷の回転数毎分約148として年間に約5,000時間運転され、運転時間10,000時間を目安として入渠時、又は広島港入港時に修理業者によりピストン抜き整備が行われていたほか、過給機を2年ごとに、排気弁を運転時間約3,000時間ごとに、燃料噴射弁を運転時間約1,500時間ごとに開放整備などが行われていたが、ピストンリング溝の摩耗が早く、各シリンダの同リングがこう着しやすいことから、シリンダオイル注油量の調整、ピストンヘッドの取替え、低負荷時の燃焼状態を良好にするため補助ブロワの手動運転、及び機関メーカーによる同リングの形状変更などが行われていた。

A受審人は、同元年7月にR株式会社に入社し、同社が所有する3隻の船舶に一等機関士、又は二等機関士として乗船を繰り返したのち、同10年10月から東洋丸に一等機関士として乗り組んで主機の運転と保守にあたり、僚船第十二東洋丸の機関が東洋丸の主機と同型であり、一等機関士がこれを担当していたことから、主機取扱説明書や機関メーカーから送付されるサービスニュースなどにも目を通し、主機ピストン抜き整備工事に何回となく立ち会っていたので、ピストンの構造についてはよく理解していた。
A受審人は、前任者から主機7番シリンダのピストンリング数本がこう着気味となっている旨の引継ぎを受けたので、1ないし2週間ごとに主機左舷側の架構中段にあるのぞき穴や掃気トランク二次室から掃気孔を通して同リングを点検し、こう着気味の同リングに洗浄剤を吹き付け、シリンダオイル注油量を増加するなどして主機の運転を続けていたものの、同年12月下旬に点検したとき、同シリンダの2番及び3番の同リングがこう着しているのを認めたので、機関長と打合せのうえR株式会社にその旨を連絡して同シリンダのピストン抜き整備を要請し、同月31日広島港に入港したのち、正月休み期間中の翌11年1月4日に同港で修理業者により同シリンダのピストンを抜き出してピストンヘッドを予備品と取り替えることとし、自らこれに立ち会うこととなった。

同日08時ごろA受審人は、修理業者の作業員5人と主機7番シリンダのピストン抜き整備について打合せを行い、ピストンリング、ピストンヘッド及び各Oリングの取替え、シリンダライナ、同リング溝及び同リングのサイドクリアランスの計測などを指示して同整備を開始し、10時ごろ抜き出したピストンを主機上段の左舷側床面に同ヘッド頂面を下にして立て、同ヘッドからピストン棒上部フランジを取り外したのち各部の掃除を作業員に任せ、自らは作業員1人と主機左舷側の架構中段にある燃料噴射ポンプの取替え作業に取り掛かり、これを終えた12時ごろ作業員から同シリンダ各部の掃除や同ライナなどの計測を終了したとの連絡を受けた。
そこで、A受審人は、ピストンヘッドの予備品を使用しての主機ピストン組立て作業に立ち会ったが、修理業者の作業員は同ヘッドの取替えを何回も行っていて同作業に慣れていたことから、作業員が予備の同ヘッドに内部金物を装着したものと思い込み、ピストン棒上部フランジを取り付ける前に、内部金物の装着の有無を確認することなく、同ヘッドに内部金物が装着されていないことに気付かず、特殊ナット6個で同フランジを固定し、針金穴付ボルト6本でピストンスカートを取り付けたのち、圧縮空気でピストン冷却室の気密試験を行い、ピストンリング4本を装着して7番シリンダライナにピストンを挿入し、15時ごろ同シリンダを復旧し終えた。

その後、主機は、同月8日積荷役のため毎分55ないし60回転数で約1時間かけて岸壁移動で運転されたときには、低負荷のため主機に異常が認められなかったが、7番シリンダのピストンヘッドに内部金物が装着されていなかったので、同ヘッドとピストンスカートが強く接触しており、運転中、燃焼ガス圧力などにより同スカートの取付けつば付根部に過大なせん断応力が作用するおそれのある状態となっていた。
こうして、東洋丸は、A受審人ほか10人が乗り組み、車両128台のほかコンテナ24個及びシャーシ17台を積載し、船首4.80メートル船尾6.75メートルの喫水をもって、翌9日06時36分八戸港に向けて広島港を発し、増速プログラムにより主機の回転数を徐々に上げ、07時ごろ燃料油をA重油からC重油に切り替え、回転数毎分147の全速力前進として航行し、備讃瀬戸南航路を経て、12時14分主機の回転数を毎分120に減じて備讃瀬戸東航路に入り、補助ブロワを手動運転して約12ノットの速力で同航路を東行中、燃焼ガス圧力などの荷重が主機7番シリンダのピストンヘッド頂部に繰り返し作用しているうち、同ヘッドの下面がピストンスカートの上面に強く当たり、同スカートの取付けつば付根部が破損するようになり、ピストン棒上部フランジが徐々に同ヘッド内に押し込まれ、ピストン冷却油が同ヘッド締付け用の植込みボルト穴を伝わって掃気室側に流出し、次第に掃気トランク二次室から容量500リットルのスカベンドレンタンクに流れ込み、12時40分小槌島灯台から真方位264度2,700メートルの地点において、同タンクの高位液面警報装置が作動した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上には少し白波があった。
自室で休息していたA受審人は、機関当直に就いていた二等機関士からスカベンドレンタンクの高位液面警報装置が作動した旨の連絡を受けて機関室に急行し、各部を点検しているうち、13時00分再び同装置が作動したことから、備讃瀬戸東航路に入航する前から主機7番シリンダのピストン冷却油出口温度がほかのシリンダより上昇していたので、同シリンダのピストン冷却油系統に異常を生じているものと考えて同タンク内を調査したところ、潤滑油で一杯となっているのを認めて機関長に同シリンダの異常発生を報告し、同時12分燃料油をC重油からA重油に切り替えたうえで、機関長が船橋に主機の停止を要請したが、東洋丸は同航路内を航行中であり、ただちに主機を停止できずにいるうち、過給機にサージングが生じ始め、同時45分掃気室火災警報装置が作動し、自動危急減速装置により主機の回転数が毎分55に減速したころ、排気集合管内に滞留していた未燃焼ガスが一気に燃え上がって爆発音が生じ、過給機が過回転するのを認めて主機、電動式潤滑油ポンプ及び手動運転していた補助ブロワをそれぞれ停止した。
東洋丸は、掃気室に消火蒸気を吹き込みながら惰力で備讃瀬戸東航路を脱し、14時18分地蔵埼灯台から真方位108度1海里ばかりの地点に投錨し、主機が冷えるのを待って各部の点検が行われ、7番シリンダのピストンスカートが破損して掃気室に落下しており、過給機排気入口ケーシング、補助ブロワシール部などから潤滑油が漏出しているため、主機の運転が不能となり、翌10日来援した引船2隻により最寄りの岡山県宇野港に引き付けられ、同港において主機各部を精査した結果、ピストンヘッドに内部金物が装着されておらず、同シリンダの同ヘッド、同スカート及びシリンダライナなどが損傷していたほか、サンプタンク内の潤滑油量が4,000リットルばかり減少し、過給機のタービンノズル、タービンロータ軸及び同ケーシングなどにも損傷が生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。


(原因)
本件機関損傷は、主機ピストン抜き整備において、ピストンヘッドを予備品と取り替えてピストンを組み立てる際、内部金物の装着の有無についての確認が不十分で、予備の同ヘッドに内部金物を装着しないままピストンの組立てが行われ、航行中、燃焼ガス圧力などによりピストンスカートの取付けつば付根部に過大なせん断応力が作用して破損し、ピストン棒上部フランジが同ヘッド内に押し込まれたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機ピストン抜き整備において、ピストンヘッドを予備品と取り替えてピストンを組み立てる場合、予備の同ヘッドには内部金物が装着されていないことを知っていたのであるから、ピストン棒上部フランジを取り付ける前に、内部金物の装着の有無を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、修理業者の作業員が予備の同ヘッドに内部金物を装着したものと思い込み、内部金物の装着の有無を確認しなかった職務上の過失により、同ヘッドに内部金物が装着されていないことに気付かないままピストンを組み立て、航行中、ピストンスカートの取付けつば付根部が破損して同フランジが同ヘッド内に押し込まれ、多量のピストン冷却油の流出を招き、掃気室火災、排気集合管内爆発及び過給機過回転を生じさせ、7番シリンダの同ヘッド、同スカート及びシリンダライナ並びに過給機などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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