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2000年(平成12年)

平成11年広審第96号
    件名
漁船第十八金幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
弓田斐雄

    受審人
A 職名:第十八金幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主軸受及びクランクピン軸受の各メタルが焼損等

    原因
主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月30日05時30分
島根県恵曇港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八金幸丸
総トン数 15トン
登録長 14.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 301キロワット
回転数 毎分2,000
3 事実の経過
第十八金幸丸(以下「金幸丸」という。)は、昭和59年4月に進水した中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、主機として平成5年ごろ中古機関に換装されたヤンマーディーゼル株式会社製の6KH−ST型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の計器盤及び警報装置を設け、同室で主機を遠隔操作できるようになっていた。
主機は、燃料油にA重油を使用する清水間接冷却機関で、各シリンダに船首方を1番として6番までの順番号が付され、動力取出軸により交流発電機及び操舵機用油圧ポンプをベルトで駆動し、全長1,250ミリメートル(以下「ミリ」という。)、クランクピン径88ミリ、ジャーナル径110ミリのクロムモリブデン鋼製の一体型クランク軸を有し、主軸受及びクランクピン軸受にはそれぞれ薄肉完成メタルが使用されていた。

主機の潤滑油系統は、クランク室底部に設けられた容量52リットルのオイルパンから直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧された潤滑油が、潤滑油こし器(以下「こし器」という。)及び潤滑油冷却器を経て潤滑油入口主管に至り、同主管から主軸受、カム軸、中間歯車、燃料噴射ポンプ及び過給機などの各系統に分岐して各部の潤滑と冷却を行ったのち、いずれもオイルパンに戻り循環しているもので、定格運転時5ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の同主管の潤滑油圧力が0.5キロまで低下すると、警報装置が作動するように設定されていた。また、主機の潤滑油系統にはこし器以外の清浄装置が設けられていなかった。
主機のこし器は、中空円筒形紙製フィルタエレメント(以下「フィルタエレメント」という。)を内蔵した二連式のもので、フィルタエレメントが目詰まりしてこし器の入口側と出口側の圧力差が1.5キロ以上に達すると、注油の途絶を防止するためこし器に付設されたバイパス弁が開弁し、潤滑油がこし器をバイパスして主機各部に注油されるようになっていた。

ところで、主機の潤滑油は、燃料油及び冷却清・海水のほか、運転中に生じたカーボンやスラッジなどの燃焼生成物の混入により汚損劣化が進行するうえ、潤滑油を取り替える際にオイルパンの内部掃除を行わないままウイングポンプで古油をくみ出したのみで、そのまま新油の張り込みを繰り返していると、オイルパン内に残留していたカーボン、スラッジ、金属粉などの不純物及び古油の影響を受けて新油の汚損劣化が急速に進行することがあるので、主機の運転や整備状況などを考慮して潤滑油の取替え時期を決定する必要があり、機関メーカーでは潤滑油及びフィルタエレメントの取替え基準をそれぞれ運転時間250時間、500時間と定め、これを主機取扱説明書に記載していた。
金幸丸は、中型まき網船団に所属する網船で、島根県恵曇港を基地として、僚船である灯船及び運搬船とともに16ないし17時ごろ出港して島根半島沖合の漁場に至って操業し、翌朝07時ごろ帰港する操業形態で、1箇月間に10ないし15回出漁し、これを周年繰り返していた。

A受審人は、同元年3月から金幸丸に船長として乗り組み、機関の運転管理にもあたり、漁場が基地の近くにあって運航が日帰り操業でもあり、主機を毎分1,700ないし1,800の全速力前進にかけて航行する時間が少なく、操業時の主機の負荷もあまり高くなかったことから、主機換装後、ピストン及びシリンダヘッドなどの整備を行っていなかった。
また、A受審人は、同10年1月上旬に主機の潤滑油及びフィルタエレメントを取り替えたのち、操舵室で主機を始動する前にオイルパン油量を検油棒で点検し、同棒目盛の高位と下位の8分目になるよう潤滑油の消費量のみ補給して運転を続けていたが、潤滑油量が不足しなければ大丈夫と思い、機関メーカーが推奨する取替え基準を考慮のうえ、適正間隔で潤滑油及びフィルタエレメントを取り替えるなどして、潤滑油の性状管理を十分に行うことなく、長期間にわたり継続使用していたうえ、主機換装後、潤滑油の取替えの際にもオイルパン内の掃除を行わないままウイングポンプで古油をくみ出して新油の補給を繰り返していたので、いつしか潤滑油の汚損劣化が進行してフィルタエレメントが目詰まりし、バイパス弁が開弁して潤滑油がろ過されないまま、主軸受及びクランクピン軸受の各メタルなどの各部に注油される状態となったことに気付いていなかった。
こうして、金幸丸は、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同年11月29日17時ごろ船団の僚船とともに恵曇港を発し、同時40分ごろ同港から4海里ばかり沖合の漁場に至って操業し、翌30日05時25分ごろ操業を終えて同港に帰港するため主機の回転を徐々に上げ、毎分約1,200の回転数となったとき、潤滑油に混入した不純物により著しく潤滑が阻害されていた1番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼損してクランク軸に焼き付き、05時30分恵曇灯台から真方位002度3海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
操舵室で操船中のA受審人は、異音に気付いて主機を毎分600の停止回転として機関室に急行したところ、主機の内部から連続した大きな異音が発生しているのを認めて直ちに停止し、主機各部を点検したが原因が分からず、損傷の拡大を懸念して僚船に救助を求めた。

金幸丸は、来援した僚船により恵曇港に引き付けられ、同港において主機各部を精査した結果、主軸受及びクランクピン軸受の各メタルが焼損していたほか、クランク軸、1番シリンダのピストン及び連接棒などが損傷していることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油が著しく汚損劣化したまま運転が続けられ、こし器のバイパス弁が開弁してスラッジなどを混入した潤滑油がろ過されないまま主機各部を循環し、クランクピン軸受メタルなどの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、クランクピン軸受メタルなどの潤滑が阻害されることのないよう、機関メーカーが推奨する取替え基準を考慮のうえ、適正間隔で潤滑油及びフィルタエレメントを取り替えるなどして、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潤滑油量が不足しなければ大丈夫と思い、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、こし器のバイパス弁が開弁してスラッジなどを混入した潤滑油がろ過されないまま主機各部を循環していることに気付かず、各部に潤滑阻害を招き、主軸受及びクランクピン軸受の各メタルを焼損させ、クランク軸、1番シリンダのピストン及び連接棒などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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