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2000年(平成12年)

平成11年横審第98号
    件名
漁船第十八和幸丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、猪俣貞稔、河本和夫
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第十八和幸丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
主機の6番シリンダヘッドの破孔、1、2、及び4番のシリンダヘッドの排気口付近に腐食、過給機タービンロータ等の折損等

    原因
主機シリンダヘッドの排気口付近の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機シリンダヘッドの排気口付近の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月15日15時00分
南鳥島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八和幸丸
総トン数 19トン
登録長 16.48メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 253キロワット
回転数 毎分1,150
3 事実の経過
第十八和幸丸(以下「和幸丸」という。)は、昭和62年9月に進水した、日本近海の太平洋を漁場としてまぐろはえ縄漁に従事する、FRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6R2F−MTK型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、間接冷却方式で、冷却器を内蔵する冷却水タンクを船首部に取り付けて標準水量が約120リットルの冷却水を保有し、船首側を1番として順に6番までシリンダ番号が付されていた。
主機のシリンダヘッドは、ねずみ鋳鉄製で、吸気弁と排気弁を各2個備えて右舷側に排気口を有し、排気弁取付穴から排気口に至る流路が冷却水室に囲まれており、同室の部材の厚さが5ミリメートルであった。

A受審人は、昭和62年の就航当時から和幸丸に操機長として乗船し、平成7年以降は機関長として機関の運転と整備全般に携わり、主機の冷却水については、水量と防錆剤濃度の管理を行っていた。
ところで、主機のシリンダヘッドは、就航以来、整備を繰り返して使用されており、各シリンダヘッドの排気口付近の部材に排気ガスによる腐食が進行し、部材の厚さが減少していた。
和幸丸は、平成8年7月に3年ごとの定期整備としてピストン抜き整備が行われたのち、翌9年2月に3番及び5番の排気口付近に腐食による破孔を生じて冷却水が燃焼室側及び排気管に漏れ、主機が運転不能となって根拠地までえい航された。
A受審人は、帰港して破孔場所の確認やその他の点検を機関整備業者に任せ、3番及び5番のシリンダヘッドを取り替えたのち、復旧させて運転を続け、翌10年6月に、1年ごとに行う燃料噴射弁、過給機などの整備を同業者に行わせた際、冷却水の取替えや冷却水タンクに加圧するチェックなど、同業者に任せたので大丈夫と思い、就航以来使用されていた1、2、4及び6番の排気口付近の腐食状況について、シリンダヘッドを点検することなく、6番シリンダヘッドの排気口付近の腐食が更に進行していることに気付かなかった。

こうして、和幸丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で平成10年9月24日18時00分和歌山県勝浦港を発し、10月2日南鳥島南方の漁場に至って操業を開始し、同月15日には12回目の操業にかかり、主機を回転数毎分680(以下回転数は、毎分のものとする。)にかけて揚げ縄を行っていたところ、主機の6番シリンダヘッドの排気口付近に破孔を生じ、冷却水が漏れて排気管に入り、同日15時00分北緯20度13分東経151度12分の地点で煙突から蒸気を噴出した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
和幸丸は、異状を知らされたA受審人が機関室に入り、主機の運転音の異状と冷却水タンクの水位低下を認めたが、冷却水を補給しながら運転を続けて翌16日01時ごろ操業を終了し、主機を1,020回転まで増速して帰港の途に就き、造水器からの補給量では不足のため海水も補給していたところ、過給機が異音を発してタービン出口エルボに破孔を生じて再び減速し、台風の北上も伝えられたので、越えて22日手配した引船と会合してえい航され、23日勝浦港に帰港した。

精査の結果、主機の6番シリンダヘッドの破孔のほか、1、2、及び4番のシリンダヘッドについても排気口付近に排気ガスによる腐食が認められ、また過給機タービンロータが折損してロータ翼端が折損し、主機各部に海水による腐食が生じているのが分かり、のち損傷部の取替えと冷却水及び潤滑油各系統のフラッシングが行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の定期整備に当たって、シリンダヘッドの排気口付近の点検が不十分で、就航以来使用され、排気ガスによる腐食で部材の厚さが減少したシリンダヘッドが取り替えられず、同部が破孔して冷却水が漏れたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の1年ごとの定期整備に当たる場合、就航以来使用されていたシリンダヘッドが、既に腐食による破孔を生じており、同じ原因で破孔を生じるおそれがあったのであるから、シリンダヘッドの排気口付近を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、整備業者に任せたので大丈夫と思い、シリンダヘッドの排気口付近を点検しなかった職務上の過失により、就航以来使用されていたシリンダヘッドが取り替えられず、操業中、6番シリンダヘッドが破孔して冷却水が排気管に漏れる事態を招き、過給機タービンが損傷し、運転不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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