日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年横審第132号
    件名
貨物船第一横須賀丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、勝又三郎、河本和夫
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第一横須賀丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
減速機の船首側軸受付近のケーシングが焼け焦げ、軸受、潤滑油ポンプ、クラッチ摩擦板など損傷等

    原因
主機逆転減速機の潤滑油の性状確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機逆転減速機の潤滑油の性状確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月10日13時45分
神奈川県真鶴港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一横須賀丸
総トン数 497トン
全長 58.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 882キロワット
回転数 毎分750
3 事実の経過
第一横須賀丸(以下「横須賀丸」という。)は、昭和63年2月に進水した、主としてし尿及び工場廃液を運搬する廃棄物排出船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したT240−ET型と呼称するディーゼル機関と、株式会社神崎高級工機製作所が製造したY−1100型と呼称する逆転減速機(以下「減速機」という。)とを組み合わせて装備していた。
減速機は、前後進切替え用の多板型油圧クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵し、入力軸に後進クラッチを介して後進小歯車を、また2つの前進軸にクラッチを介して前進小歯車をそれぞれ取り付け、各小歯車が大歯車とかみ合い、クラッチの切替えで大歯車を前進または後進に回転させるもので、歯車にはすべてはすば歯車が、また軸受には円すいころ軸受がそれぞれ用いられ、全体を上部及び下部の鋳鉄製(ちゅうてつせい)のケーシングと上ぶたに収め、上ぶたには小さな点検窓が取り付けられていた。また、主機との連結は、入力軸船首側のたわみ軸継手に16個の筒形ゴムを取り付け、主機後部のフライホイルにあけられた円筒形の穴に同ゴムを収める方式になっていた。

減速機の潤滑油は、入力軸後端に取り付けられた潤滑油ポンプがケーシング底部の潤滑油を吸い上げ、高圧作動油として切替電磁弁を通して前進又は後進クラッチの油圧作動筒に送るほか、圧力調整弁で約2.5キログラム毎平方センチメ−トルに減圧されたものが分岐して、内径約3.8ミリメートルの圧力配管用炭素鋼管製の給油管を通して各軸受に供給されていた。
ところで、減速機の入力軸は、一体構造の入力歯車が上部ケーシングに近接した位置で回転し、歯車の回転でわずかながら船首方向に推力を生じていたので、船首側軸受が異常摩耗すると運転中に船首側に偏位するおそれがあった。
減速機は、平成8年1月の定期検査に際して開放され、クラッチ摺動(しゅうどう)部の部品が一部取り替えられたほか各軸受などの点検が行われ、潤滑油も取り替えられたが、いつごろからかケーシング底部の掃除がされていなかった。

A受審人は、横須賀丸に平成9年に初めて一等機関士として乗り組んで以来、機関長職も含め数回乗船して機関の運転管理に当たり、減速機の潤滑油量の点検と補給を定期的に行っていたが、同年10月に潤滑油こし器を開放して異物が付着していなかったので大丈夫と思い、その後同こし器を開放するなど、潤滑油の性状を確認することなく運転を続け、後任者にも同こし器開放を励行するよう引き継ぎをしなかった。
減速機は、平成10年2月の第一種中間検査に際しても潤滑油が取り替えられず、ケーシング内側に結露する水分や、摩耗粉などを含むスラッジがケーシング底部にたまり、その量が増えるにつれて、スラッジが潤滑油ポンプに吸われて各軸受の給油管の内面にも付着するようになったが、潤滑油こし器の開放が行われず、また同11年4月にA受審人が再び機関長として乗船したのちも、同こし器を開放して潤滑油の性状を確認しなかったので、同こし器にスラッジが付着していることに気付かないまま運転が続けられ、特に入力軸船首側の軸受への給油管の内径が極度に小さくなって通油量が不足し、同軸受の摩耗が進行して運転中の入力軸位置が船首側に偏位していった。

こうして、横須賀丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、し尿1,054キロリットルを積み、船首3.70メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、平成11年6月9日05時35分和歌山下津港海南区を発し、主機を毎分回転数680にかけて紀伊半島南東方沖合の海域に向かい、同日16時から17時にかけてし尿を投棄し、その後北上して神奈川県真鶴港に向かっていたところ、船首側に大きく偏位した減速機の入力軸がケーシングに接触し始め、入力歯車の船首側面がケーシング内面を削って外面が焼け焦げたが、翌10日11時10分同港に入港してまもなく主機が停止された際、A受審人が機関室の点検をしなかったので、ケーシングの異常に気付かず、新たにし尿500キロリットルを積載したのち、出港準備のため主機を点検中、13時50分同港北防波堤灯台から真方位284度220メートルの係留地点で、同人が減速機の船首側軸受付近のケーシングが焼け焦げていることを発見した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹いていた。
横須賀丸は、A受審人が主機が運転不能と判断し、船長に報告したところ、出港を取り止め、手配した修理業者が減速機を精査した結果、円すいころ軸受の異常摩耗で入力歯車がケーシングに接触して削っていることがわかり、同業者が軸受に応急的に調整ライナを取り付け、主機を減速運転して千葉県館山港に回航し、のち損傷した軸受、潤滑油ポンプ、クラッチ摩擦板など損傷部が取り替えられた。


(原因)
本件機関損傷は、主機減速機の運転管理に当たって、潤滑油の性状確認が不十分で、ケーシング底部にたまったスラッジが軸受給油管の内面に付着し、入力軸の軸受への通油量が不足したまま運転が続けられ、同軸受が異常摩耗したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機減速機の運転管理に当たる場合、平素は減速機内部が詳しく点検できないのであるから、各部の潤滑が正常に保たれるよう、潤滑油こし器を開放するなどして、潤滑油の性状を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、潤滑油量の点検と補給を定期的に行い、以前に同こし器を開放して異物が付着していなかったので大丈夫と思い、同こし器を開放するなどして、潤滑油の性状を確認しなかった職務上の過失により、潤滑油中のスラッジに気付かないまま運転を続け、入力軸の軸受の給油管の内面にスラッジが付着して通油量が不足する事態を招き、船首側軸受が異常摩耗して入力軸が船首側に偏位し、ケーシング、潤滑油ポンプ、クラッチ摩擦板などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION