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2000年(平成12年)

平成11年仙審第68号
    件名
漁船第十一羽前丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

内山欽郎、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第十一羽前丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機5番主軸受が焼損、クランク軸や連接棒に損傷、全主軸受及びクランクピン軸受メタル、ピストン、シリンダライナ並びに過給機等も損傷

    原因
主機潤滑油圧力警報装置の作動確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油圧力警報装置の作動確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月20日16時10分
山形県加茂港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一羽前丸
総トン数 14.95トン
登録長 14.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 426キロワット(計画出力)
回転数 毎分1,900(計画回転数)
3 事実の経過
第十一羽前丸(以下「羽前丸」という。)は、昭和50年8月に進水した小型底びき網漁業等に従事するFRP製漁船で、船首部に魚倉が、船体中央部の船首側に操舵室が、同室船尾側に機関室がそれぞれ配置され、機関室の船尾側上部が船員室となっていて、機関室中央部に主機が据え付けられ、操舵室に同機の遠隔操縦装置及び警報装置を備えていた。
機関室は、引き戸式の出入口が船員室の左舷側船首部に設けられており、照明設備を有し、ビルジだまりには魚倉のビルジが直接流れ込むようになっていた。

主機は、同61年に換装された昭和精機工業株式会社製の6LAAK−UT型と称するディーゼル機関で、各シリンダには船首側から順番号が付され、左舷中央下部に停止ハンドルを備え、右舷船首側上部に輻流式の排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が排気管を船尾側に配して取り付けられており、船首側の動力取出し軸によって発電機や油圧ポンプ等をベルト駆動できるようになっていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめに55リットルほど入れられた潤滑油が、直結の歯車式ポンプで吸引・加圧され、同油こし器及び冷却器を順に経て入口主管に至り、同管から分岐して、各主軸受、ピストン冷却ノズル及び過給機軸受等にそれぞれ供給され、各部を潤滑ないし冷却したのち油だめに戻って循環するようになっており、過給機軸受の潤滑油供給管には、ステンレス製のより線で被覆を施した、フレキシブルホースと称する長さ1メートル内径9.5ミリメートル肉厚5.0ミリメートルのゴムホース(以下「潤滑油供給ホース」という。)が使用されていた。また、同油系統に設けられている潤滑油圧力警報装置は、定格運転時において4.5ないし5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の入口主管の同油圧力が約1キロ以下に低下すると、操舵室内の警報ランプが点灯すると同時に操舵室のドアを閉め切っていても外部に聞こえるほどの音量で警報ブザーが鳴るようになっていた。
A受審人は、平成4年9月父親が所有する羽前丸に甲板員として乗船し、同年11月に免許を取得後、翌5年9月から船長として乗り組んでいたもので、2、3日に一度主機始動前に潤滑油量を点検し、出漁中は2、3時間ごとのビルジ排出時に機関室内を覗いて各部を点検し、帰港後には時々主機周辺を点検するなどして、自ら主機の運転及び保守管理に携わっていた。
ところで、A受審人は、仲間の船長から主機を停止すると潤滑油圧力警報装置が作動する旨を聞き、自船においては同装置が作動しないことを不審に思っていたが、バッテリースイッチを切ってから主機を停止しているので同装置が作動しないものと思い、潤滑油圧力警報装置に関する知識が乏しく同装置の作動確認の方法も知らなかったのに、整備業者に問い合わせたり点検を依頼するなど同装置が正常に作動するかどうかを確認しなかったので、いつしか、同装置が作動しなくなっていることに気付かなかった。

羽前丸は、山形県鼠ケ関漁港を基地とし、同県沿岸の漁場で専ら底びき網漁に従事していたところ、経年劣化によって過給機軸受の潤滑油供給ホースに微細な亀裂が生じ、徐々に同亀裂が進行する状況となっていた。
こうして、羽前丸は、同9年11月19日22時50分ごろ、A受審人が潤滑油量を点検して主機を始動後、同人ほか2人が乗り組み、底びき網漁の目的で、23時00分鼠ケ関漁港を発し、翌20日00時15分ごろ同県加茂港沖合の漁場に至って操業を開始した。
同日13時ごろA受審人は、ビルジを排出するために機関室に赴き、ビルジポンプを始動させたのち機関室内を覗いて潤滑油の飛散やビルジ表面の油の浮遊などを点検し、ビルジ量が減ったことを確認して同ポンプを手動で停止した。
その後、羽前丸は、過給機軸受の潤滑油供給ホースに生じていた亀裂が進行し、ホースを貫通した亀裂から潤滑油が右舷側の壁方向に噴出するまま、15時20分ごろ操業を終え、主機の回転数を毎分1,950にかけて帰途に就き、A受審人が、船首甲板上で漁獲物の処理作業を手伝い、しぶきが入らないようドアを閉め切った操舵室に15ないし20分ごとに戻ってレーダーで周囲を監視しながら続航しているうち、徐々に油だまりの潤滑油量が減少し、船体の動揺時に潤滑油ポンプが空気を吸い込むなどして同油圧力が低下したが、潤滑油圧力警報装置が作動しなかったので、そのまま主機の運転を続けた。

やがて、羽前丸は、油だまりの潤滑油量が不足して潤滑油が機関各部に供給されなくなり、そのうち噴出した潤滑油の一部が過給機か排気管の高温部に接触して炎を発するとともに、潤滑阻害により5番シリンダの主軸受メタルがクランク軸と焼き付くなどして、16時10分由良港西防波堤灯台から真方位303度8.4海里の地点において、主機が異音を発して回転数が低下した。
当時、天候は曇で風力4の東北東風が吹き、海上はやや波があった。
異音に気付いたA受審人は、機関室に急行し、過給機付近に炎を認めて直ちに主機を停止したところすでに炎は消えていたが、自力航行は不可能と判断し、僚船に曳航を依頼したのち曳航作業までに機関室内を点検した結果、ビルジに多量の潤滑油が流出していること及び油だめの潤滑油量が検油棒に付着しないほど減少していることを認めた。

羽前丸は、鼠ケ関漁港に帰港して精査したところ、主機5番主軸受が焼損して固着し、クランク軸や連接棒に損傷が発見されたほか、全主軸受及びクランクピン軸受メタル、ピストン、シリンダライナ並びに過給機等にも損傷が判明したので、のちすべての損傷部品を新替えするなどの修理を行い、後日、潤滑油警報装置のセンサーも新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機の保守管理にあたり、潤滑油圧力警報装置の作動確認が不十分で、過給機軸受の潤滑油供給ホースに経年劣化によって生じた亀裂から潤滑油が外部に漏出する状態のまま主機の運転が続けられ、潤滑油不足により機関各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の保守管理にあたり、主機の停止時に潤滑油圧力警報装置が作動しないのを認めた場合、他船の船長から主機を停止すると潤滑油圧力警報装置が作動する旨を聞いていたのであるから、自船の潤滑油圧力警報装置が正常に作動するかどうかを確認できるよう、整備業者に問い合わせたり点検を依頼するなど、同装置の作動確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、バッテリースイッチを切ってから主機を停止しているので警報装置が作動しないものと思い、同装置の作動確認を十分に行わなかった職務上の過失により、過給機軸受の潤滑油供給ホースに経年劣化によって生じた亀裂から潤滑油が外部に漏出し、潤滑油不足から同油圧力が低下したことに気付かぬまま主機の運転を続けて、機関各部の潤滑阻害を招き、すべての主軸受メタル、ピストン及びシリンダライナ等を焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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