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2000年(平成12年)

平成11年仙審第50号
    件名
漁船第二寿和丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

内山欽郎、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第二寿和丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
1号補機の全ピストン及びシリンダライナのほかピストンピンやクランクピン軸受が焼損、連接棒やクランク軸等も損傷

    原因
発電機駆動用原動機の冷却清水温度警報装置の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機駆動用原動機の冷却清水温度警報装置の整備
が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月24日01時00分
宮城県塩釜港東南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二寿和丸
総トン数 99トン
全長 40.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 713キロワット(計画出力)
回転数 毎分810(計画回転数)
3 事実の経過
 第二寿和丸(以下「寿和丸」という。)は、昭和62年2月に進水した、大中型まき網漁業に探索船として従事する鋼製漁船で、船体のほぼ中央から船尾側が機関室となっていて、同室中央部に主機を据え付け、右舷船首部及び主機の左舷側に、いずれもディーゼル原動機(以下「補機」という。)で駆動される容量が125キロボルトアンペアと80キロボルトアンペアの3相交流発電機(以下「発電機」という。)を各1台備え、右舷側の発電機及び補機を1号機、同じく左舷側を2号機とそれぞれ呼称し、主機及び補機等の各種の警報ランプや警報ブザーを組み込んだ警報盤を船橋内にも設けていた。

1号補機は、昭和精機工業株式会社が製造した6HAL−N型と称する定格出力110キロワット同回転数毎分1,800の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、清水間接冷却となっており、清水膨張タンクを兼ねる清水冷却器で冷却された清水が、直結の清水ポンプで吸引・加圧され、各シリンダジャケット及びシリンダヘッドを順に冷却して合流し、排気マニホルドを冷却したのち自動温度調整弁に至って分岐し、一部が清水冷却器を経て清水ポンプ入口に、他方が直接同ポンプ入口にそれぞれ引かれて循環するようになっていた。一方、同補機の冷却海水は、シーチェストから船底弁及び海水こし器を経て直結の渦巻き式冷却海水ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)で吸引・加圧され、清水冷却器及び潤滑油冷却器を順に冷却したのち船外に排出されるようになっていた。
また、1号補機の冷却清水温度警報装置は、潤滑油圧力警報用の圧力スイッチを一緒に組み込んだ圧力・温度スイッチ内の温度スイッチで作動するようになっており、自動温度調整弁によって摂氏75度(以下、温度は摂氏とする。)から85度の間で調整された排気マニホルド出口の冷却清水温度が95度以上に上昇すると作動するように設定されていた。
ところで、警報装置は、各機器あるいは各部の保護を目的として設けられるもので、発生した異状を事故に発展する前に察知して適切な処置が採れるよう、各機器メーカーによって作動値が設定されているが、長期間使用しているうちに作動値に狂いが生じたり作動不良となるおそれがあるため、定期的に作動値や作動状態等を確認して必要があれば調整するなど、整備を十分に行っておく必要があった。

A受審人は、平成8年1月から寿和丸に機関長として乗り組み、自らも機関室当直に就いて主機や補機等の運転管理に携わっており、容量の大きい1号補機を常用機とし、同機を整備する期間のみ2号補機を運転するようにして補機の保守管理を行っていたが、補機の冷却清水温度警報装置については、今まで警報が鳴ったことがないので正常に作動するものと思い、乗船以来一度も作動状態を確認したことがなく、調整や整備を十分に行っていなかったので、いつしか温度スイッチが作動不良となり、作動値が95度よりかなり上昇していることに気付かなかった。
寿和丸は、同10年3月に船体及び機関の整備を行い、4月初旬から操業に従事しているうち、1号補機海水ポンプの船底弁と海水こし器間の吸入管フランジ付け根付近に、いつしか腐食による破孔が生じ、同破孔部から海水がわずかに漏洩する状況となっていたが、同吸入管が機関室床プレート下に配管されていたうえ、破孔部からの漏水量が少なくてビルジの増加を認めるほどではなかったので、機関当直者が同破孔部の存在に気付かぬまま、操業を続けていた。

同年9月23日23時55分寿和丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、いわし・さば漁の目的で、船首2.2メートル船尾4.0メートルの喫水をもって塩釜港を発し、台風7号の通過の影響でまだうねりが残った海上を、船体を動揺させながら福島県塩屋埼沖合の漁場に向かった。その後、本船は、出港後に単独で機関室当直に就いていたA受審人が、燃料油清浄機を運転するなどの作業を終え、機関室内を一通り見回って各部を点検したのち、翌24日00時15分所用のために機関室を無人として昇橋し、所用後も船橋に留まって航海当直者と雑談をしていたところ、船体の動揺による水圧の変化によるものか前示の破孔が拡大し、無人の機関室内で運転されていた1号補機の海水ポンプが、船体が大きく動揺して喫水が浅くなったときなどに同破孔部から空気を吸い込み、ケーシング内に空気が溜まって揚水不能となった。
こうして、寿和丸は、清水冷却器への冷却海水が途絶したことにより、やがて1号補機排気マニホルド出口の冷却清水温度が上昇して95度を超えたが、冷却清水温度警報装置が作動しないまま同温度がさらに上昇し続け、00時55分ようやく同装置が作動した。その後、本船は、在橋中のA受審人が、警報ブザーと警報ランプで1号補機の異状に気付いて機関室に急行したものの、すでに同補機周辺がかすんで焦げくさい臭いがし同補機全体が過熱してシリンダヘッドに触れないような状態にあるのを認め、急いで2号補機を始動して配電盤のACBを投入しに行こうとしたところ、1号補機のピストンとシリンダライナとが焼き付き、01時00分波島灯台から真方位125度6.5海里の地点において同補機が自停し、電源の喪失によって船内がブラックアウトした。

当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、海上はうねりがあった。
A受審人は、直ちに2号発電機のACBを投入して電源を確保したうえ主機を正常状態に復帰させ、同日早朝、操機長と二人で1号補機の点検を行い、ターニングができなかったので同補機の使用は不可能と判断し、さらにビルジが増加しているのを認めて点検の結果、海水ポンプ吸入管に生じた前示の破孔部から海水が噴出しているのを発見した。
寿和丸は、その後も2号発電機のみを運転して操業を続け、同月29日に入港した石巻港で整備業者に1号補機を精査させたところ、全ピストン及びシリンダライナのほかピストンピンやクランクピン軸受が焼損していたほか、連接棒やクランク軸等も損傷していることが判明したので、のちすべての損傷部品を新替えするなどの修理を行い、同時に、破孔を生じた海水吸入管及び作動不良となった圧力・温度スイッチも新替えした。


(原因)
本件機関損傷は、補機の保守管理にあたり、冷却清水温度警報装置の整備が不十分で、冷却海水ポンプが吸入管に生じた破孔部から空気を吸引して揚水不能となり、清水冷却器への冷却海水が途絶したまま補機の運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、補機の保守管理にあたる場合、冷却清水温度警報装置が適正に作動するかどうかを判断できるよう、定期的に確認して必要であれば調整するなどの整備を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、今まで警報が鳴ったことがないので正常に作動するものと思い、同装置の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却海水が途絶して清水温度が上昇したとき、同装置が適正に作動しないまま、同補機の運転を続けて機関各部の冷却阻害を招き、全ピストン及びシリンダライナを焼損させたほか、連接棒やクランク軸等にも損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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