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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月17日13時00分 北海道知床半島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第二十八孝進丸 総トン数 19トン 登録長 17.25メートル 機関の種類
過給機付2サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関 出力 397キロワット 回転数
毎分2,170 3 事実の経過 第二十八孝進丸(以下「孝進丸」という。)は、昭和61年11月に進水し、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてアメリカ合衆国デトロイトディーゼルコーポレーションが、同年10月に製造したGM12V−71TI型と呼称するV型ディーゼル機関を装備し、右舷側シリンダ列を右バンク、左舷側シリンダ列を左バンクと呼び、それぞれ船首側から順に番号を付し、主機とプロペラ軸とを逆転減速機で連結し、操舵室に設けられた2本式操縦ハンドルで前後進の切換え及び主機の回転数制御ができるようになっていた。 主機の潤滑油系統は、油受内の標準油量38リットルの潤滑油が、油受内に設けられた直結の歯車式潤滑油ポンプによって吸引加圧され、潤滑油冷却器、潤滑油フィルタを経て主管に至り各系統に分岐するもので、クランク軸及びピストン冷却系統は、主軸受、クランクピン軸受を潤滑したのち連接棒の油穴を通ってピストンピン軸受を潤滑し、連接棒小端部から噴出してピストンの天井裏面を冷却するようになっており、このほかに調時歯車装置、カム軸、ロッカーアーム、過給機の各系統に分かれており、各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻るようになっていた。なお、主機油受内の潤滑油量点検は、検油棒によって行うが、同棒には上・下限目盛と正常油面目盛が刻印されていた。 主機の潤滑油圧力は、主管において約3.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)で、0.35キロに低下すると圧力スイッチが作動し、操舵室の主機計器盤に組み込まれた潤滑油圧力低下警報の表示灯が点灯し、警報ブザーが鳴るようになっていた。 A受審人は、孝進丸に就航以来船長として乗り組み、操船のほか機関の運転保守にも当たり、1月から3月までがすけとうだら漁、6月から12月までがほっけ・たら漁で、各漁期間中は北海道羅臼町松法漁港を基地として日帰り操業に従事していたもので、4、5月の休漁期に上架して船底塗装などの船体整備を業者にさせていたが、機関関係については、この間に定期的な整備を特に行わず、操業中に異状が認められたとき行うようにしていた。 また、A受審人は、主機の潤滑油管理に当たって、油受内潤滑油を1か月毎に、フィルタを3か月毎にそれぞれ交換し、潤滑油量の点検を国後島沖合など遠方漁場で操業するときには、運転時間が長く消費量も多くなるので、出漁準備として主機を始動する際にできるだけ行うようにしていたが、基地の松法漁港付近で操業するときには、潤滑油量を点検しないまま出港することが多かった。 孝進丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成10年7月17日04時00分松法漁港を発し、同港の東方4海里ばかりの漁場へ向かった。 A受審人は、出漁前に準備作業として自ら主機の始動に当たったが、このとき2週間ばかり主機潤滑油の油量点検を行っていなかったものの、基地付近での操業が続き運転時間が短いので潤滑油量不足となっていることはあるまいと思い、油受内の潤滑油量点検を行わなかったので同油量が著しく減少していることに気が付かなかった。 こうして孝進丸は、04時30分前示漁場に到着して操業を開始し、主機を連続して運転していたところ、潤滑油が消費されて次第に減少し、12時30分操業を終えて同漁場を発し、主機を回転数毎分2,000の全速力にかけて帰航中、船体の動揺に伴って潤滑油ポンプが間欠的に空気を吸引するようになり、やがて5ないし7番の主軸受が潤滑不良を生じて焼き付き、13時00分松法港南防波堤灯台から真方位092度1海里の地点において、主機が自停した。 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上はやや波があった。 A受審人は、1人で船橋当直中、潤滑油圧力低下警報が作動し、その直後に主機が異音を発しながら停止したので、上甲板で漁獲物整理に当たっていた甲板員に主機を見て来るように命じたところ、主機の周りから白っぽい煙が出ている旨の報告を受け、停止状況などから主機の運転不能と判断して近くを航行中の僚船に救助を求め、孝進丸は、僚船に引航されて14時00分羅臼漁港へ入港した。 主機は、修理業者が開放点検した結果、前示損傷のほか5ないし7番のシリンダブロック主軸受ハウジング及びクランク軸ジャーナル部に焼損、左右バンクとも6番シリンダのクランクピン軸受に焼損、ピストン及びシリンダライナの全数に焼付きあるいは掻き傷がそれぞれ認められ、のち主機が新替えされた。
(原因) 本件機関損傷は、出漁準備として主機を始動するに当たり、油受内の潤滑油量点検が不十分で、潤滑油量が著しく減少したまま運転を続け、帰航中に潤滑油ポンプが空気を吸引して主軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、出漁準備として主機を始動する場合、潤滑油量不足を見逃すことのないよう、油受内の潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、基地付近での操業が続き運転時間が短いので潤滑油量不足となっていることはあるまいと思い、油受内の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油量が著しく減少したまま運転を続け、帰航中に潤滑油ポンプが空気を吸引する事態を招き、主軸受、クランク軸、シリンダブロックなどを焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |