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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月20日12時30分 沖縄県久米島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
旅客船フェリーなは 総トン数 697.60トン 全長 73.50メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 1,323キロワット 回転数
毎分720 3 事実の経過 フェリーなは(以下「なは」という。)は、沖縄県那覇港と同県渡名喜漁港を経由して同県兼城港との定期航路に就航する、昭和57年3月に進水した鋼製旅客船兼自動車渡船で、主機として、ダイハツディーゼル株式会社製の6DSM−28S型と称するディーゼル機関を2基装備し、主機架構の船尾側上部に、石川島汎用機械株式会社製造のVTR251型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設し、主機の運転操作が遠隔操縦装置を備えた船橋から行われていた。 過給機は、排気集合管と接続されたタービン入口囲い、タービン車室、ブロワ車室及び軸流式タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸等から成り、同軸がタービン側軸受室の単列玉軸受とブロワ側軸受室の推力軸受を兼ねた複列玉軸受とによって支持されており、各軸受室の下部にそれぞれ約1.0リットルの潤滑油が入れられ、同油がロータ軸と共に回転するポンプ用円板でかき上げられて各玉軸受に注油されていた。 ところで、過給機は、各軸受室側面の軸受ふたに外径20ミリメートル、高さ80ミリメートルのガラス製油面計及び給排油用各プラグを装着していた。同油面計のガラスは、潤滑油量の下限及び常用位置を示す印が刻まれ、同ガラスの上下にOリングを装着して軸受ふたとの油密を保つようになっていて、ブリキ板製の保護板がガラスを覆うようにして取り付けられ、同板を上方に持ち上げて、油面を点検するようになっていた。また、前示プラグは、銅パッキンを介して軸受ふたにねじ込んで、油密を保つような構造になっていて、銅パッキンを再使用するときには、焼なましを行う必要があったが、長期間繰り返し使用すると劣化して漏油するおそれがあった。 なはは、前示定期航路の片道を毎日約4時間の所要時間で航行し、主機の運転時間は1箇月当たり約130時間に達し、毎年5月頃に入渠して船体及び機関の整備を行い、両舷過給機についても修理業者による開放整備を実施していた。 A受審人は、昭和60年10月から機関長として乗り組み、機関の運転管理に従事し、過給機については、主機の運転時間が500時間を経過するごとに潤滑油の交換を行うこととし、給排油用各プラグを取り外してドレンを排除し、復旧するときに軸受室内部のフラッシングを行った後に、新油を供給していたが、潤滑油を抜き出す排油用プラグに取り付けられていた銅パッキンについては、焼なましを行って繰り返し使用していた。 A受審人は、平成10年1月から、右舷側過給機軸受室の油面計のOリング及び排油用プラグの銅パッキン部から潤滑油が漏洩しているのを認めたが、当初は漏油量も少なく、Oリングについては予備品の在庫がなく、そのまま放置し、また、銅パッキンについても、引き続き焼なましを行って再使用し、潤滑油量が減少して油面計の下限位置まで低下したら常用油面位置まで補給するようにして運転を継続していた。しかし、その後、徐々に漏油量が増加し、1週間毎に潤滑油を補給するようになったものの、依然として、潤滑油量が減少したら、潤滑油を補給するだけであった。 なはは、同年5月に定期検査工事のために入渠して両舷過給機を開放整備したが、前示Oリング及び銅パッキンについては、そのまま使用し、それ以後も漏油及び補油量にはこれまでと変化がなかったことから、引き続き、これまでと同様な運転を続けた。 A受審人は、同年9月15日に両舷過給機の潤滑油を交換し、排油用プラグの銅パッキンについては、焼なましを行って再使用したが、今まで漏洩していたパッキンを再使用するにあたり、同パッキンの劣化が進行して漏油量が増加するおそれがあったものの、これまで潤滑油を補給するだけで運転に差し支えがなかったことから、今度も漏油量が増加することはあるまいと思い、その後、右舷側過給機ブロワ側軸受室の潤滑油量を十分に点検することなく、同パッキンの劣化が進行して漏油量が増加し、同軸受室の潤滑油量が減少して下限の状態になっていることに気付かないまま過給機の運転を継続した。 そして、A受審人は、同月20日那覇港出航にあたり、09時00分から機関準備作業を行い、09時25分前示潤滑油量が減少したまま主機を始動した。 こうして、なはは、A受審人ほか9人が乗り組み、旅客30人及び車両10台を載せ、船首1.8メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、09時30分那覇港を発し、11時45分渡名喜漁港に入港、12時00分同漁港を発して兼城港へ向かい、主機を回転数毎分720の全速力前進にかけて航行中、右舷側過給機ブロワ側軸受室の潤滑油量が更に減少して不足し、ブロワ側玉軸受が潤滑不良をきたし、12時30分渡名喜港灯台から真方位248度7.6海里の地点において、同軸受が焼き付いた。 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、出航部署配置が解除された船橋で機器を点検中、機関室当直に入っていた一等機関士から報告を受け、機関室に急行し、前示ブロワが白煙を発しているのを認めて運転不能と判断し、右舷主機を停止した。 この結果、なはは、左舷主機だけで航行を続け、兼城港に入港し、船内で前示過給機の軸受を交換したものの、ロータ軸及びブロワ車室等にも損傷が生じていたことから、給気圧力が十分に上がらず、右舷主機回転数の上限を毎分680として、排気温度の上昇に注意しながら、運航を続け、のち損傷部品の取替え修理が行われた。
(原因) 本件機関損傷は、右舷側過給機の潤滑油を交換するに当たり、ブロワ側軸受室の排油用プラグに装着する銅パッキンに、今まで使用して漏油が認められていたものを再び焼なまして使用し、その後に同機を運転する際、軸受室の潤滑油量の点検が不十分で、同パッキンの劣化が進行して漏油量が増加し、同潤滑油量の不足したまま運転が続けられ、ブロワ側軸受が潤滑不良になったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、右舷側過給機の潤滑油を交換するに当たり、ブロワ側軸受室の排油用プラグに装着する銅パッキンに、今まで使用して漏油が認められていたものを再び焼なまして使用し、その後に同機を運転する場合、同パッキンの劣化が進行して漏油量が増加するおそれがあるから、同軸受室の潤滑油量が不足して潤滑不良になることのないよう、同潤滑油量を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、漏油量が増加することはあるまいと思い、前示軸受室の潤滑油量を十分に点検しなかった職務上の過失により、漏油量が増加して同潤滑油量が不足したことに気付かないまま過給機を運転し、潤滑不良となってブロワ側軸受の焼付きを招き、ロータ軸及びブロワ車室等の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |