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2000年(平成12年)

平成11年門審第10号
    件名
貨物船峰国丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、西山烝一、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:峰国丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
シリンダライナの摩耗、同ライナ及びピストンリング等損傷

    原因
主機冷却水の温度管理不適切、主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却水の温度管理が適切でなかったことと、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月9日22時00分
伊豆諸島大島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船峰国丸
総トン数 497トン
登録長 76.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
峰国丸は、昭和62年4月に進水し、主にスクラップや砂利の運搬に従事する貨物船で、主機として富士ディーゼル株式会社が製造した6S32G2型と呼称する、トランクピストン型ディーゼル機関を装備し、各シリンダに、船首側より順に1番から6番までの番号が付され、主機の燃料油として出入港中はA重油を、航海中はC重油6に対してA重油4を混合した低質燃料油を常用していた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめ(以下「油だめ」という。)に入れられた約2,300リットルの潤滑油が、潤滑油吸入側の油こし器を経て主機駆動の主潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び同出口側の油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各シリンダごとの主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を潤滑する系統などに給油され、各部の潤滑及び冷却を行ったのちクランク室底部に落下して再び油だめに戻る循環系統のほか、油だめから潤滑油こし器を経て潤滑油清浄機(以下「清浄機」という。)で燃焼残滓物などの異物を除去したのち油だめに戻る側流清浄の系統からなっており、給排気弁及びロッカーアーム軸受など動弁機構の潤滑には独立した弁腕注油装置が装備されていた。

清浄機は、三菱化工機株式会社が製造したSJ10Tと呼称する、遠心分離式油清浄機で、毎時1,650リットルの潤滑油を清浄することができた。
ところで、主機のメーカーは、硫黄分が多い低質燃料油使用機関の取扱いについて、シリンダライナなどの低温腐食を防ぐために主機冷却水出口温度を80度(摂氏、以下同じ。)に調整して高温冷却を行うよう、機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
また、トランクピストン型機関のシリンダライナは、同ライナの高温部への接触により炭化した潤滑油及び燃焼残滓物などの異物による研削作用などにより摩耗が促進されるおそれがあった。
A受審人は、平成元年1月から有給休暇以外は峰国丸の機関長として機関の運転及び保守管理に当たり、平成5年ごろ主機を全速力前進にすると過給機入口の排気温度が使用限度まで上昇するようになったが、同温度を下げることに気を取られ、主機冷却水出口温度を63度に下げ、80度の適切な温度に管理することなく、シリンダライナに低温腐食が生じ易い状況で主機の運転を続け、また平成7年2月の定期検査の際、全シリンダライナ摩耗量の計測を行い、摩耗限度を越えた1番シリンダライナ及び全シリンダのピストンリングの新替などを行ったものの、予定していた主機潤滑油の全量新替及び油だめ内の掃除が費用の関係で中止されたこともあって、主機にブローバイが生じるおそれのある状況のまま出渠した。

峰国丸は、その後、清浄機の縦軸が折損し、損傷部品の入手に手間取ったことから約2箇月間にわたり主機潤滑油の側流清浄が不能となり、同油の性状が著しく劣化し、低温腐食の影響もあってシリンダライナの摩耗が促進されやすい状況となっていた。
A受審人は、主機潤滑油の消費量に見合った新油の補給を行い、主機入口の潤滑油こし器を開放するとスラッジが増えていたが、同油の性状分析をメーカーに依頼するなど、同油の性状管理を十分に行わないまま主機の運転を続けていた。
こうして、峰国丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、スクラップ900トンを積載して平成8年3月9日16時15分京浜港東京区を発し、水島港に向け主機回転数を毎分265にかけて航行中、低温腐食の影響及びシリンダライナ面に付着した異物による研削作用などによって同ライナの摩耗が進行し、同日22時00分伊豆大島灯台から真方位334度3.7海里の地点において、燃焼ガスがクランク室に吹き抜ける状況となり、主機が異音を発した。

当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機を停止し、調査したものの原因がわからず、修理業者の手配を待ち、主機の異音が少なくなる回転数に調整しながら主機の運転を継続した。
峰国丸は、同年4月下旬主機を開放した結果、全シリンダのライナ及びピストンリングなどが新替されるとともに、清浄機も換装された。


(原因)
本件機関損傷は、低質燃料油を使用する機関の運転管理に当たる際、主機冷却水の温度管理が不適切であったことと、主機潤滑油の性状管理が不十分であったことから、シリンダライナに低温腐食が生じ易い状況で、潤滑油が著しく汚損したまま主機の運転が続けられ、低温腐食の影響及び同油中の異物による研削作用などによってシリンダライナの摩耗が進行したこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、低質燃料油を使用する機関の運転管理に当たる場合、シリンダライナなどに低温腐食が生じないよう、主機冷却水の温度管理を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機排気温度を下げることに気を取られ、主機冷却水の温度管理を適切に行わなかった職務上の過失により、シリンダライナに低温腐食の影響などによる異常摩耗を招き、同ライナ及びピストンリングなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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