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2000年(平成12年)

平成11年横審第74号
    件名
油送船第五十一芳鷹丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成12年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、吉川進、西村敏和
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第五十一芳鷹丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機過給機のロータの偏摩耗等

    原因
主機シリンダ油注油量の調整不適切

    主文
本件機関損傷は、主機シリンダ油注油量の調整が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月24日00時00分
茨城県沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第五十一芳鷹丸
総トン数 749トン
全長 76.93メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分320
3 事実の経過
第五十一芳鷹丸(以下「芳鷹丸」という。)は、平成6年9月に進水した、航行区域を沿海区域とする鋼製油送船で、専ら京浜地区から宮城県及び福島県方面への石油製品輸送に従事しており、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したMF33−ET型機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、燃料として停泊中はA重油、航海中はC重油を使用する仕様で、シリンダライナとピストンとの摺(しゅう)動面に、全塩基価が41の高アルカリ価シリンダ油が強制注油されるようになっていた。

シリンダライナ注油器(以下「注油器」という。)は、6個の注油ポンプを一体に組み合わせたもので、6番シリンダ排気弁プッシュロッドに取り付けたレバーにより駆動されてサービスタンクのシリンダ油が各シリンダライナに注油されるが、各注油ポンプ吐出側にボールが封入されたインジケータがあり、ボールの動きによって吐出が確認できるようになっていた。また、注油量の調整は各注油ポンプ付きの油量調整つまみによって行われるようになっており、同調整つまみには0から7までの調整目盛が刻んであって、標準は目盛4に合わせるよう取扱説明書に記載されており、目盛4で主機回転数が毎分320のとき注油量は計算上1時間1シリンダ当たり約96ミリリットル、ポンプ効率を考慮すると75ないし80ミリリットルとなるが、就航後各シリンダの調整目盛は4以下に調整されていて、平成8年5月の中間検査時には全シリンダピストン抜きが行われ、シリンダライナに異状のないことが確認されていた。
主機の過給機は、株式会社新潟鉄工所製のNR24/R型と称し、ラジアル式排気タービンと単段の遠心式コンプレッサとが結合されたもので、ロータ軸の中央部が浮動スリーブ式平軸受で支持され、排気タービンに導かれた主機の排気がノズルリングで加速されてタービンホイールに流入し、ロータ軸に回転仕事を与えて排気管に排出され、一方、遠心式コンプレッサに吸入された空気がインペラ、デフューザで圧縮されて主機に送られる構造のもので、就航後1年ごとに開放整備が施行されていた。
ところで、シリンダライナに注油されたシリンダ油は、一部が燃料とともに燃焼し、シリンダ油中に含まれるアルカリ成分が硬質カーボンとなって排気系統各部に付着するが、高アルカリ価シリンダ油が過剰に注油されると、過給機のノズルリングやタービンホイールなど排気タービン各部に硬質カーボンが異常に堆(たい)積し、サージングやロータ軸のバランス不良が生じるおそれがあった。

A受審人は、芳鷹丸の就航時から機関長として乗り組んで機関部の管理に当たっていたもので、主機のシリンダ油は容量約800リットルのサービスタンクが減るとドラム缶単位で補給しており、平成9年5月主機吸排気弁、過給機などの整備を行ったところ、シリンダ油の注油量が過剰気味であったことから過給機のタービン各部に硬質カーボンの堆積を認めたが、同整備後注油器のインジケータボールの動きが少ないように感じ、注油量は少ないより多めの方が安全と思い、調整目盛を確認しないまま油量調整つまみを増量方向にまわし、シリンダライナ摩耗率が増大しない程度に注油量を減らすなど適切に注油量を調整しなかった。
その結果、注油器は、調整目盛が1番及び5番シリンダは7、その他のシリンダは4となって調整前に比較して注油量が増え、特に1番及び5番シリンダの1時間当たりの注油量は主機回転数が毎分320のとき計算上約158ミリリットルと、著しく過剰となった。

A受審人は、注油器の目盛を確認せず、注油量も計測せず、過剰注油で主機運転時間の経過とともに過給機タービン各部に硬質カーボンが異常に堆積するようになったが、このことに気付かなかった。
こうして芳鷹丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.28メートル船尾3.80メートルの喫水で、同10年2月23日15時45分塩釜港仙台区を発して千葉港千葉区に向け、主機回転数毎分310の全速力前進で進行中、22時ごろから主機過給機が間欠的にサージングを生じるようになり、A受審人が主機回転数を下げるのをためらううち、サージングは徐々に激しくなるとともにロータ軸軸受の偏摩耗が進行し、翌24日00時00分磯埼灯台から真方位064度12.7海里の地点において、過給機のタービンホイール先端がタービン入口ケースと、インペラ先端がインサートとそれぞれ接触して大音を発した。

当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機の回転数を毎分280ないし285まで下げてサージングを回避した。
芳鷹丸は、千葉港入港後主機過給機のロータ軸完備及び軸受が取り替えられて修理された。


(原因)
本件機関損傷は、主機シリンダ油注油量の調整が不適切で、高アルカリ価シリンダ油が過剰に注油され、主機運転時間の経過とともにシリンダ油中のアルカリ成分が硬質カーボンとなって過給機タービン各部に異常に堆積し、サージング及びロータ軸のバランス不良を生じ、軸受の偏摩耗が進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の整備を行ってピストンやシリンダライナに異状が認められず、過給機のタービン各部に硬質カーボンの堆積が認められた場合、シリンダ油の注油量が過剰気味で、今まで以上に注油量を増やすと次回整備までに過給機のサージングやロータ軸バランス不良が生じるおそれがあったから、シリンダライナ摩耗率が増大しない程度にシリンダ油の注油量を減らすなど適切に注油量を調整すべき注意義務があった。ところが、同人は、同整備後注油器インジケータのボールの動きが少ないように感じ、注油量は少ないより多めの方が安全と思い、注油量を過剰に増やしたまま主機の運転を続け、適切に注油量を調整しなかった職務上の過失により、過給機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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